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「星の子・・・今村夏子著」を読んだ。

今回、kindleのunlimitedになっていた「星の子・・・今村夏子著」を読んだ。
一気に読んだ。
とても面白かった。
「面白かった」はちょっと語弊があるかもしれない。
「物語の展開が気になって、一気に読んだ」というところだ。

物語の概要は、

  • 宗教にのめり込む両親と、その娘の話である。

  • 両親には年の離れた2人の娘がおり、次女の「私」が主人公である。

  • 長女は「まーちゃん」、次女は「ちひろ」である。

  • ちひろは体が弱く、不思議な水を紹介されてから元気になった。
    その結果、両親は宗教にのめり込んだ。

  • 「世間」はこの家族が、宗教にハマっていることを知っている。

  • この家族は、「世間」から後ろ指を指されていることを知っている。

  • まーちゃんは両親を宗教から引き離したかったが、できなかった。
    高校生の時家出をし、家族は懸命に探したが見つけられなかった。

  • ちひろと両親は仲が良い。

  • ちひろは宗教について、積極的に肯定も否定もしていないようだ。
    宗教団体の催し物に参加もするので、まあ肯定してはいるのだろう。

  • ちひろ親子の経済的状況は定かではないが、貧しい様子が感じられる。

物語は、ちひろが幼い頃から高校受験を控えた中学までで終わっている。
「ここで終わるか」という終わり方で、私は物語の続きを案じてしまった。

私はちひろ親子の生き方について、全く「不愉快さ」は感じなかった。
彼らが「世間」からの仕打ちの中でも、淡々と暮らしていた。
彼らは「世間」に対し、反論したり攻撃したりするわけでもなかった。
「諦め」や「断念」に近い心境だったのかもしれない。
私には「こんな人生だってあるよね」と、シンパシーさえ感じた。

それに対し「世間」の対応には、大いに「不愉快さ」を感じた。
この家族に対する「世間」の関わり方は、非常に日本的だ。
「世間」の「異質なもの」に対する「嫌悪感」や「不寛容さ」、
その「空気感」は、世間中を「村八分」的な「同調圧力」で染める。
誠に不愉快極まりない。日本人の最も嫌いなところだとさえ思う。
ちひろ親子がこの「排他的な世間」の中で生きなければならなかったことは、本当に気の毒としか言えない。

さらに、長女のまーちゃんは、とても不幸だったろうと思う。
宗教へめり込む両親を、なんとか引き戻したかった、まーちゃん。
それも叶わず、最終的には家出を決断してしまう。
まーちゃんは、両親やちひろを恨んだかもしれない。
きっと心の奥底では両親を愛していただろうに、別れざるを得なかった。
それはまーちゃんにとって、本当に不幸なことだったと思う。
私には、まーちゃんが不憫ふびんでならない。

最近、宗教へのめり込む親と息子の事件があったばかりだ。
この事件、宗教団体に対する云々についてはたくさんの報道があった。
それについての議論をここでするつもりはない。
ただ、この親と息子の関係を考えると「不幸」だったのは明らかである。
この物語で言えば、まるで両親とまーちゃんのようである。
なのに両親とちひろの間を見ると「幸せ」だったと私には思えるのだ。

「幸せ」とは何だろうか。
本来、宗教は人を幸せにするものなのではないのか。
いや、宗教ばかりではない。
家族でも様々なコミュニティでも自分の国でさえも、そこに所属する人たちを幸せにしようとしているし、それぞれの組織にはその目的が含まれているように思える。
だが実際は組織間の対立もあれば、組織内での相違による分裂も起こる。

結局、一人ひとりが自分の幸せに走ることで、密につながった関係を絶たなければならなくなったり、その関係をこじらせたりしてしまうのではないだろうか。そして、せっかく幸せだった関係から不幸せな関係に陥り、幸せを求めていたはずなのに、本来の心の奥底に存在していた本当の幸せを断ち切ってしまっているのかもしれない。

とするなら、目先の「幸せそうなもの」に惑わされず、もう一度自分自身を内省し、自分自身が何を幸せと感じているのかを、意識・無意識の中から発見する作業を、しなければならないのかもしれない。


以前読んだ本で、とても面白いと思った本がある。
それは「精神科医が見つけた3つの幸福・・・樺沢紫苑著である。
この本では「幸福とは幸せの脳内物質を分泌すること」と言い切っている。
その脳内物質とは「セロトニン」「ドーパミン」「オキシトシン」である。
どういった条件で分泌されるのか、既に科学的に証明されているらしい。

このように考えると、これまで哲学的な問いの様であった「幸せとは何か」が、一気に単純化し具体化された気がして、何となく胸の中がスッとするのであるが、如何であろうか。

私は大いに納得した次第である。

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