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ひとつひとつの言葉を生活に密着した切実な言葉として発しつつも、永遠の地平に詩的なかけらとして響かせることにも成功している…★劇評★【舞台=父と暮せば(2021)】

 二人芝居は当然のことながら登場する2人の人物が交わす会話からすべてが表現されるが、井上ひさしの傑作戯曲「父と暮せば」の場合、その「会話」は一方の人物の口から発せられる現実の声でありながら、時空を超えて交わされる観念的な「言葉」でもある。もう一方の人物から発せられるものもまた現実に聴こえる音としての声でありながら、無意識と無意識で交わされている「言葉」のようでもある。観客は、その2つの意味合いを同時に体と心で吸収し、ひとつの像を創り出していく…。そんな極めて演劇的な作業によって描き出される高度な物語は、舞台にいる2人だけではなく、会話の中や音にだけ登場する人物や、生き残った人々、そして戦争で亡くなったたくさんの人々の魂の声とつながっている。それは過去と未来にも広がっていて、おそろしいほどのすそ野を広げる地平となっている。「父と暮せば」が永遠の物語であるのはそのためだ。初めての再演を迎えた山崎一と伊勢佳世はそのことをよくとらえていて、ひとつひとつの言葉を人生や生活に密着した切実な言葉として発しつつも、その永遠の地平に詩的なかけらとして響かせることにも成功している。井上が選び取った言葉を、名匠、鵜山仁が磨き上げ、山崎と伊勢がゆるぎないかたちにする。観客は、その豊かな営みを目撃することになる。(画像は舞台「父と暮せば」とは関係ありません。イメージです)
 舞台「父と暮せば」は、6月3日に愛知県・幸田町の幸田町民会館つぱきホールで、6月6日に岩手県一関市の一関文化センター大ホールで上演される。それに先立ち5月21~30日に東京・新宿駅南口の紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで上演された東京公演はすべて終了しています。


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★「SEVEN HEARTS」の舞台「父と暮せば」劇評ページ

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★舞台「父と暮せば」公演情報

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