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【ショートストーリー】13    君の轍-わだち-

「不登校」と世にも不思議な呼ばれかたを僕はしている。ちょっと時代を遡れば登校拒否だ。正直この世で、誰も僕の気持ちをいいえる人なんかいないと思う。だって僕にすら分からないんだから。

簡単には言えないけど学校にいるとぞくぞくした。心臓を誰かにつつかれて、頭がずきずきする。勉強していても、ぐにゃぐにゃとした変なぬり絵が頭のなかをめぐって、みんなの騒がしい声が僕を締め付けるんだ。

部屋のドアをノックする音が鳴った。
お母さんは仕事だったはずなのに。

「こんにちは」
スラッと背の高い30歳くらいの男の人が顔を出した。
「え、あれ、あなたは誰ですか」
「15年後の君」
「え、何かのジョウダンでしょ」
「冗談か、マイケルジョーダンかはさておき。ぼくは君だよ」
「え、ムリむり、信じられない」
「じゃあねぇ…小学2年生の時に毎日朝の会で連絡してたでしょ。たしか映画の話とかバスケの話とか結構個人的な話」
「え、それ」
「なんであんなこと毎日してたのか不思議だよね」
「それ知ってるの?だれかに聞いたんじゃない?」
「いやいや、何でも知ってるよ。おしりのほくろとか、公園で転んで頭から血が出て救急車で運ばれたことも」
「やっぱり僕なんですかね?」
「そうさ、ちなみに6年の時に帰り道で告白された女子は○○さん」
「もういいから。で、何しに来たの」
「なんとなく」
「え、なんとなくとかないでしょ普通」
「お、普通かぁ。むしろ聞きたいことないの?15年後の自分に」
「そりゃあるある。じゃあ僕はどんな仕事に、職業につくの?」
「テクノプロモティブロイヤー」
「へ…何それ?」
「うーん。この時代にはまだない仕事だけど、科学者と弁護士合わせたような仕事だよ」
「へー、なんか分からないけど結構すごいね。でも、僕は中1の夏休み終わってからこんな感じで学校行けてないんだけど、そんなんで大丈夫なのかな」
「お、それ心配なんだ」
「そりゃそうだよ。勉強のこととか、学校のこととか、母さんや父さんにも」
「うーん。感じかたは人それぞれだけども、むしろ学校行かない時間があってよかったなって僕は思ってるよ。もっというと学校は行く必要なかった」
「へーなんで?」
「学校行かなくなって時間があるから、いろいろ一人で考えるんだ。それが、これからの人生で結構大切になっていることが多くてね」
「確かに、僕も最近やたら自分のこととか家族のこととか考えるよ。え、じゃあ、僕がどのくらい学校行かないかも分かるってこと?」
「ああ、わかる。確か5年間くらいかな」
「えー、長っ」
「高校生になっても行ったり行かなかったり、でも大学に入ってからは今までのことが嘘みたいに心も体も軽くなった気がしたよ」
「うーん。何だかすごいね。信じられない」
「こんな感じでも大学とか行けるんだね。ちょっと安心」
「そもそもみんな一緒の時間に、みんな一斉に、みんな同じような学習をするんだから無理があるんだよ。15年後の世界もあまり変わらず、行きずらかったり居心地悪くて学校行かない子はむしろ増えるんだ」
「へー、ネットのいじめとかもあるの?」
「あります。むしろ社会問題」
「なんか最近は、SNSでいじめができないように監視が強まるみたいなのニュースで聞いたけど」
「相変わらずあって、人権問題だからかなり規制されるけど、結局個人でつながる第三のネットワークってものが現れて同じようなネットいじめみたいなのが起きてる」
「なんか、怖いね。結局SNSもあるんだね」
「繋がらないことが賢いってことを少しずつ人類は自覚し始めてるよ」
「へー。そういえば、付き合ってる人とかは?」
「おっと、実はね…」
「実は?」
「聞きたい?」
「聞きたい」
「実は、来週僕は結婚するんだ」
「えー、マジですか」
「ジーマーです」
「でもさ…僕なら分かると思うけど…」
「君の言いたいことわかるよ」
「これも、正直結構悩みなんだけど」
「性の多様性は寛容な社会というか、皆が理解をしてくれる社会になってきたんだよ。それはありがたいことで、僕は自分の選んだ、好きあった人と結婚できるんだ」
「なんか、未来も悪くないね。5年くらいこの生活なのはちょっとびっくりするけど」
「まぁね、それに僕と君の未来はいっしょかなんてわからないしね」
「どういうこと?」
「つまり、枝葉のように今日から君の未来はあって、そのたまたまひとつが、僕だったのかもしれないってこと」
「いろんな未来があるってことかな」
「ああ、そうさ。もしかしたら、明日から君が学校に行きだす未来もあるし、それが、2年後かも知しれないし、僕の未来のように5年後かもしれない」
「へー、なんか面白いね」
「そうだろ?つまるところ、そんな興味の尽きないのが、人生だし、ぼくらの意識世界なんだよ」
「へー、なんか深い。よくわからんけどそれだけはわかる」
「おっと、もういかなきゃ」
「ありがとう、なんか話せてよかった」
「ああ、こちらこそ。君の道は、君の轍は君がつくるんだ。じゃあね、また15年後」

そう言うと、その男の人は僕の部屋のドアから出ていった。カーテンから射す光に揺れるように部屋が照らされ何かが変わったような気がする。

轍-わだち-ってなんだろう。僕はググってみることにした。

おしまい

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