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思春期のシシャモかよ

老若男女に愛されるシシャモ。日本酒にも合うし、お弁当にもひょっこり顔を出すあいつ。メスの卵は甘くて美味しい。
でも、そんなことは遥か昔の話……。

国民食ともいえる魚だったシシャモ。
しかしながら、今や我が家の水槽で泳いでいる、この一匹だけになってしまった――。
世界中でシシャモがいるのはここだけ。俺の家のみ。
もはや立派な絶滅危惧種なのだ。

中野区野方のボロいアパートの2階。
ここに研究者たちが数日おきに現れては、生態を研究している。
昔ながらの金魚鉢で育てているせいか、狭すぎて最近ではいっさい動こうとしない。
「こんなところに入れていちゃまずい」
「我が研究所へ」
「クローンで繁殖させないか、君!」
とうだうだうるさいが、全部断っている。

あんたたちが何も考えずに獲って、何も考えずに食べて、大体5尾入りの天ぷらを1、2つ残したり、雑に扱ってきたからいけないのだ。
ふざけるな、という話。

夜。風呂に入る前、俺はシシャモを取り出して俺の体を舐めさせる。
エサも食べるが、そのときよりずっと気持ちよさそうな顔をしている。
お互い――。

俺には彼女はおろか、女友達もいない。こいつだけが心許せる魚。
ずっと、ずっと、一緒にいような。

でも、永遠を望むことは虚無でしかない。

死んだ、セカイで最後のシシャモが。
俺はひどく泣いた。

せっかくだから天ぷらにして食べてやった。
実を言うと、俺はお札に載ることが夢だったけど、叶わぬまま、アイツとほぼ同じ日にこの世から去った。まぁしょうがない。

ありがと、シシャモ。

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