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黒い雲のように。

そりゃそうだ。
この職場では、昔お笑い芸人をやっていたことを明かしていない。
恥ずかしいとかではない。
だって、あたしは面白くはないからだ。だから辞めたんだし、芸人。

その日は曇天だった。
傘はいらないだろうと高を括ったあたしは夕方に天を仰いだ。
雨だ。土砂降りだ。

すると、2年後輩の三好君があたしに近づいてきた。
「入ります? 僕の」
ボロボロになった500円のビニール傘を開いて、彼は笑った。
「余計濡れるやろ」
思わず口走っていた。ツッコミのトーンで。
でも、三好君は雨を見つめて聞いていない。
後ろ髪の寝ぐせが毎日同じ位置にあることが今になって気になりだした。
「どうなっとんねん、その寝ぐせ」
「はい?」

あたしは、本性をあらわしてしまった。

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