見出し画像

真夏と葉月はずっと姉妹

キレイとは言い難い、すさんで荒れた日本海の浜辺で僕らは出会った。この潮風を嗅ぐたびにゆっくりと思い出されていく記憶。

こんなにも、こんなにも、涙いっぱいになるぐらい辛い別れになるとは思わなかった。

真夏と葉月は、年子の姉妹だった。

小さい頃から一緒に遊んで、海に行っては砂遊びをするのが日課だったらしい。真夏はこんがりと日焼けしやすいが、葉月はどれだけ外にいても肌はスベスベで白いまま。
でも、それ以外はすごくよく似た子だった。笑うタイミングも、お腹がすくときも、泣き出す瞬間も。

俺が出会ったのは真夏のほうだった。
同じ予備校で出会った真夏は勉強熱心で、それでいて同じ浪人生とも朗らかに笑うところが好きだった。

こんな浪人の最中に付き合うのは気が引けたけれど、実は真夏のほうが積極的だった。
「一緒に勉強とかもできるし」

と、言いながらも、付き合ってからは勉強以外のことをすることも多かった。
見つめ合い、一緒に笑う。真夏の笑顔が好きだった。

でも、真夏は亡くなった。スピード違反を犯したミニバンに轢かれてしまったのだ。
最後にコンビニでバイバイしてからすぐのことだった。

葬儀に参列して驚いた。
死んだのは真夏ではなく、妹の葉月になっていた。
参列に真夏はいない。色白の葉月がメソメソと泣いている。
「……ね。真夏ちゃん……行くよ」

叔母らしき人の声が聞こえてきた。
僕の目の前にいる、涙に溺れた子が真夏だった。

俺は妹の葉月を真夏だと思って付き合っていたのだ。
真夏は、いや葉月はウソをついていた。

その理由を知るまでにはまだ時間がかかりそうだった。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?