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うなぎの豊川

  奈良の近鉄富雄駅から少し歩いたところにある小さなお店。何度も予約しようと電話を入れても話し中でなかなか繋がらない。絶対電話線抜いてるんだわと思いながら時間を変えてかけ続けてやっと取れた予約。

 少し色んな世知がない世の中で自分が笑っていないと周囲の人が笑えないと思っていてもやっぱり何だか腑に落ちない昨今。ちょっと自分を甘やかしてやろうと思って今月は色々と楽しんでいる。そんな中での知人から上方うなぎの旨い店として教えてもらってずっと行きたかった店。

 店の入るとほぼ満席。左手のテーブル席はママ友、ご夫婦、家族。右手のカウンターも老夫婦が二組。真ん中の一席だけが空いている。確かに予約時にカウンターになる事は聞いていたけど。店員は揃いのTシャツで黙々とそれぞれのやるべき仕事をこなしている。

 予約の名前を告げるとやはりカウンターのど真ん中。店で一番高額なコースを予約したのに非常に居心地悪いなぁ。でも一人だし仕方ないかと席に着く。予約時に告げたうなぎのフルコースで良いかの確認があり、ハイボールを一杯所望。カウンターにはメニューとうなぎのたれ、山椒の入った器、つまようじ。長年のお客様の手垢のついてはいるがきちんと清潔感がある。

 まず。うなぎの昆布巻きが二巻。一口頂くと軟らかく煮られているけど正直それほど心は揺れなかった。もしかして期待外れかと疑った。でも次のうざく。まずうなぎを口にして焼きの感覚にぞくっと全身に衝撃が走る。胡瓜、わかめ、みょうがが良いアクセントで酸味の心地よい優しい酸味。これはもしかする。

 少し厨房を覗き込んでみる。店員は誰も僕の存在など見えないかのようににこりともしない。大将らしき男も、女将さんらしき女も、話しかけても来ない。黙々と持ち場をこなしている。このご時世だからなのか、他の客と話している様子もない。仕方なくひとり黙食を決め込む。

 うなぎはどうしても臭みが抜けないから刺身はやらないととある割烹の大将から聞いていたので薄造りは興味津々だった。うなぎの身に葱ともみじおろしを巻いてポン酢でいただく。いわゆる生の刺身ではない。恐らく湯通ししているのだろう。臭みは全くない。食感はしっかりとした歯ごたえもある。うなぎの身にボイルされた皮と葱を巻きまたひとくち。ぷにゅぷにゅとした食感も楽しい。大葉で巻いたり様々な食べ方を試みるだけでも楽しい。

  うなぎを食べるにあたって楽しみの1つはやはり肝串だ。まずはハイボールをお替りして一口食べる。柔らかい肝独特の食感と歯ごたえのある部分の対比がたまらない。しかし、普通とは違う何か違和感を感じるがハイボールがすすむ。続いて白焼き皮も身もカリッと焼かれていて中はふわっとバランスの良い脂が旨い。わさびの香りがたまらない。

 厨房から出汁の香りが立ち込めてくる。そして温かいう巻がやって来る。出汁たっぷりで形を留めているふんわり卵の間から焦げた甘い醤油ベースの味わい。そしてほのかに香るうなぎの香ばしさ。添えられた生姜の甘酢漬けがリズムを生み出す。

 そしてうな重。しっかり一尾ある。ここまでうなぎをしっかり食べているのに箸が止まらない。違和感が何なのかようやく気付いた。うなぎはもちろん絶妙の火入れだがそれ以上にたれが絶品なのだ。うなぎのたれが甘ったるくないのだ。醤油生一本しっかりと通っているので飽きが来ないのだ。いくらでも入る。満足感は充分あるのだが、全く思い感がない。もちろんうな重単品もあったがフルコースにして大満足。奈良に行く楽しみが出来たが、夏の土用の始まり。しばらくは敬遠しよう。

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