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文化庁 文化観光高付加価値化リサーチ 第三章 地域文化の固有性 - 考察

当記事は文化庁の委託により制作された「令和3年度文化観光高付加価値化リサーチ 文化・観光・まちづくりの関係性について」レポートの抜粋です。レポートの全文は文化庁ホームページ上に公開されています。

0.地域文化の固有性とは?

日本の地域それぞれに地域ならではの固有な文化が存在する。地域固有の文化は長い歴史を持つ文化財から、今を生きる人々の日常の生活文化まで幅広くさまざまだ。それらを市場価値に合わせて変えたり付け加えたりするのではなく、そのままで光っている地域に固有な文化の本質を正しく捉え、新し い価値へと転換する多様な “まなざし” が重要だ。

1.地域文化の固有性を考える上での問題意識

文化観光を通じて地域を訪れる者に豊かな体験をもたらすのは、著名な観光名所や名のある文化財だけではない。日本の地域には多種多様な文化の営みがある。訪れる先々で「うちの地域には何もない」という地域の人の声を聞くことが度々あった。しかしそこには人々の日常の暮らしや生活文化、その背景にある価値観や感性、美意識が “生きたもの” として根付いており、歴史の長短、規模の大小、有名無名を問わず、その地域ならではの魅力に溢れるものが無数に存在する。それらはまさしく「文化」であり、人々の暮らし、土地の風土とも結びついたその地域にしかない固有のものだ。ここでは「地域文化の固有性」に焦点をあてて、その見出す “まなざし” と、価値を伝えるまでのプロセスを検討する。

2.文化に対する思いの強さと、文化の多様な価値

地域文化の固有性が何であるか、特定の定義を定める必要はない。固有性が何であるかよりも、文化の本質がどこにあるのかという軸が、文化と向き合う担い手の中に強くあることが重要だ。何を本質と捉えるかは人それぞれであり、絶対の正解というものはない。受け継がれてきた文化の本質を守りつつ、いかに今の時代に応じた文化のあり方を生み出していくか。文化に対する担い手の思いの強さ、あるいは葛藤が、安易にマーケットニーズや経済合理性に流されることを防ぎ、文化を継承・発展させていくための核となり、文化を生かす。文化が持つ価値は、多くの観光客を呼び込めるか、経済的価値が高いかといった観点だけでは評価することができない。観光資源としての直接の収益性という「数」の基準しかないと、文化の価値を大きく見誤る可能性がある。また「数」の基準によって見落とされる数々の固有な文化がある。文化がもつ多様な価値を捉えるためには、文化がさまざまな“まなざし”で見出され、各々の観点から尊重されることが重要だ。

3.地域文化を見出す “まなざし” の多様性

地域ならではの固有性は、ありふれたもののように存在し、誰かに見つけられるのを待っている。その地域に住む人にとっては、自分たちの暮らしや生活文化はあまりにも当たり前に日常にあるものなので、地域に固有のものだとは認識しづらい。そのため、地域文化の固有性は外部からの “まなざし” によって見出されることが多い。見出す “まなざし” は多様であったほうがよい。観光事業者も、行政も、地域を訪れる訪問者も、誰しも地域ならではの文化を見つけうる。アーティストもまた作品創作の過程で、地域文化の固有性を見出す存在となりえる。指針となるのは、マーケットや常識に囚われないアーティスト自身の感性や価値観だ。アートは私たちの固定観念を崩し、問いを投げかける。その問いを通じて、私たちは地域に主体的に関心を持ち始める。アーティストの視点は深く地域を理解するための入り口となる。

4.もともとそこにある光を磨きあげる

本リサーチで関わったアーティストからは、創作を目的として地域に関わることで、その地域の文化を自身の作品としてしまうことへの危惧も耳にした。一方で地域からアーティストが声をかけられ、地域創生や課題解決のために使われるようなケースもある。大切なのは、一方的な関係ではないあり方をアーティストと地域の双方が模索することにある。地域における主役はあくまで地域そのものであり、そこに住まう人々だ。外部からの “まなざし” が光をあてるか否かにかかわらず、もともとその土地に光はある。しかしその光を磨きあげて、地域の内外に価値を伝えていくことによって、地域にある文化は文字通り “固有なもの” として認識されはじめる。地域にある “固有なもの” と外部からの “まなざし” の双方向性は、文化と観光のよりよい関係性を育む上でなくてはならない。

5.文化の文脈を紐解き、伝える

“まなざし” によって見出された固有な文化の価値を伝えていくにはどうしたらよいか。文化にはかならず文脈がある。どのような背景があってその文化が築かれてきたか、地域の歴史や自然環境、人々の暮らしを丁寧に紐解くことで、その文脈が見えてくる。

文化観光では、文化の文脈を伝えること、その文化が経てきた物語を語ることが、文化の深い理解を促すことにつながっていく。単に地域文化を観光商品にパッケージするのではなく、地域の人々も認識していないような文化のあり方に光をあてて触れられる形にすることで、地域の内外にその価値を伝えていくことができる。

第三章 地域文化の固有性 - 考察
地域文化の固有性 - その地域ならではの豊富な文化が存在し、その価値に触れられる状態にある

第三章 地域文化の固有性 - インタビュー

300年の歴史ある地域文化に、自身が取り組む意味とは
- 谷口弦(名尾手すき和紙 / KMNR™主宰)

近代化の過程で失われた文化と地域のアイデンティティ
- 山内ゆう(紙布織家)

神楽の本質を伝え、文化を継承していく
- 小林泰三(石見神楽面職人)

地域の魅力を発見していく起点としての「美術館」
- 杉本康雄(青森県立美術館長 / 青森アートミュージアム5館連携協議会)

地域の人々が生活から醸し出す不可視な文化、そこに触れる場所としての「美術館」
- 吉川由美(文化事業ディレクター)

回っていく、つながっていく、引き継がれていく人、場所、アーティストの信頼関係
- 向井山朋子(ピアニスト / アーティスト / ディレクター)

観光の真ん中で「文化の祭典」を構築する
- 河瀨直美(映画作家 / なら国際映画祭エグゼクティブプロデューサー)

地域を知るなかで立ち上がってくる身体、言葉をパフォーマンスに凝縮させる
- 森山未來(ダンサー / 俳優)

文化庁ホームページ「文化観光 文化資源の高付加価値化」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/93694501.html

レポート「令和3年度 文化観光高付加価値化リサーチ 文化・観光・まちづくりの関係性について」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/pdf/93705701_01.pdf(PDFへの直通リンク)
これからの文化観光施策が目指す「高付加価値化」のあり方について、大切にしたい5つの視点を導きだしての考察、その視点の元となった37名の方々のインタビューが掲載されたレポートです。


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