君がいない街 (短編小説)
御茶ノ水の街を散歩したりして、楽器のお店に目が向いた。
「ここではあなたがギターをきっと見つけるだろう」とふと心の中で思い、驚いた。何ヶ月もう経ったのだろうか?だが、何も出来ずにその遠い記憶が目の前に現れ、福岡にある楽器の店で私の胸を熱くするほど君が驚嘆の眼差しでギターを眺めていたことや、大阪で財布を見て値段に呆れてため息をついていた君の面白い表情を思い出させられた。
ね、覚えているだろうか?一緒に出かけた旅行のこと、互いの手を取り合い、世界を征服できるかのような感覚に包まれていたことを。君が感動を込めてギターを奏でる姿を見て、私は心から、あなたが、そう、あなたが、その人だと感じた。君がギターに注ぐその同じ感動で、私を愛してくれているのだと思ったのだ。しばらくの間、それは事実だった。たとえ私が君に腹を立てたり、君が私に怒鳴ったりしても、それは私たちの長い旅路の中での一つの小さな障害に過ぎないように感じていた。自分たちの傷が、この恋愛の一部だろうと思っていた。それはまるで、美しく、甘い幻想のようだった。しかし、その身震いするほど寒い冬、挙句に目を覚ますと、それは私の眠りを奪う悪夢に変わってしまった。
離れても、もう夏が来ても、君が何しているのだろうかと考えてしまった。あなたの人生、どんな形だろうか?ギターはまだ引いているだろうか?それとも、君が、知り合って、愛していた子が、もう亡くなってしまったのだろうか?あの日、その子を殺したようだ。だけど、どこへ行っても、その殺した、愛されていた子の一部が残っているようだ。どこへ行っても、この君がいない街でも君の姿がオバケみたいに私を追いかけてきた。
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