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『五芒星の侍』 第2話

第2話『蠢動』

1十蔵の屋敷・漣の部屋(朝)

漣は『初代市川男女蔵奴一平』の浮世絵手札を見つめている。  
「あれは一体なんだったんだ?」

漣  「おい、市川男女蔵。なんとか言え」
     
手札の中の男女蔵はピクリとも動かない。
そこへ、十蔵の声がする。

十蔵の声「漣、飯だ!」
     
漣は懐に手札をしまう。
部屋の隅には四浪の位牌と、うたの荷物が置かれている。
漣はそれを見つめる。
「うた、おとう……」

2十蔵の屋敷・居間(朝)
     
漣と十蔵が朝食をとる。

十 蔵「おう、漣。今日からだな」
     
十蔵に引き取られた漣は、今日から武家の子供たちが通う寺子屋に行くことになっている。
漣は元の町人たちが通う寺子屋に行きたいと言ったが、十蔵に「おめえはもう武家の子だろ」と言われ、嫌々ながら行くことになった。
服も羽織袴を着させられた。

十 蔵「馬子にも衣装だねえ」
漣  「ちょっと大きいんだよ、これー」

3寺子屋・安井塾・教室(朝)
     
漣が小机の前に正座している。
それを数人の生徒が遠巻きに見ている。
     
「あれが今日から来たヤツか」「元々町人らしいぜ」
「なんだ、あのブカブカの着物」

あまり歓迎されている感じはしない。
漣もそれを感じ、大人しくしている。
一際体の大きい少年、伊波(いば)虎鯉雄(こりお)(13)が漣を見下ろすように立つ。

虎鯉雄「そこは俺の場所だ、どけ」
漣  「あ、ごめんなさいっ」
     
漣が所在なげにしていると、優しそうな少年、大山晋平太(13)が声をかけてくる。

晋平太「ここ、座りなよ」
     
晋平太は自分の隣に漣を座らせ、互いに自己紹介する。
晋平太は親切に寺子屋のこと、同級生の事などを教えてくれる。

晋平太「さっきの虎鯉雄は乱暴者。他の連中は君を町人と見下しているよ、くだらない」
     
漣は気を許せる友だちが出来たことにホッとしていた。

4五行町・奉行所・遺体安置場(昼)
     
首のない遺体が土間に横たえられている。
それは先日、十蔵が船着き場で首を跳ねた土左衛門。
十蔵と町医者の榊原(さかきばら)伊三(いぞう)(38)が遺体を検分する。

伊 三「こいつが動いてたって?」
十 蔵「ああ、襲いかかってきやがった」
伊 三「十蔵、おめえさん、惚けたんじゃないか?」
     
十蔵と伊三は幼なじみで、数少ない十蔵の友人だ。

十 蔵「現場に行かねえかい?」
伊 三「遠慮しとくよ、気味の悪い。公儀には報告したのか?」
十 蔵「それこそ青山はボケたって、俺の首が飛ぶわな」
伊 三「おめえさんは敵が多いからな」
     
その後、「引き取った子供は?」など友人同士の会話が続く。

5寺子屋・安井塾・庭(昼)
     
庭では数人の生徒が浮世絵手札で遊んでいる。
少し離れた所からそれを眺める漣と晋平太。
「浮世絵手札、やったことはあるか?」と聞く晋平太に、漣は「ないけど手札は持っている」という。
晋平太は漣にルールを教える。

【浮世絵手札ルール】
・各手札は陰陽五行の木火土金水のいずれかの属性と、属性ごとの数値を持 
っている。
・いくつかの属性を同時に持つ手札もある。
・手札の組み合わせで強化(バフ)がかかったりする。
・基本は1対1での対決方式。
・勝敗は数値、五行の相性で決まる。

晋平太は漣に自分の手札を見せる。
一番良いのは喜多川歌麿の『加藤清正』の初摺、他にも何十枚も手札を持っている。
漣が「キラ札を持っている」と言うと、晋平太は「見せてほしい」と頼む。
漣は手元にないと嘘をつき、手札を見せない。
一瞬、漣は晋平太から剣呑な雰囲気を感じる。
漣と晋平太の様子を虎鯉雄がうかがっている。
教師が「午後の授業を始めるぞ」と子供たちに声をかける。

6寺子屋・安居塾・教室(昼)
     
生徒たちが論語を暗唱する。
教師が「やってみろ」と漣を指名する。
しかし漣は論語など習ったことがない。
答えられずにいると、
「町人の寺子屋は読み書きは教えない」
とヤジが飛び、教室は笑いに包まれる。
漣は恥ずかしそうに顔を伏せる。

晋平太「やめろ、習ってないだけだろ」

晋平太の一声で教室は静まりかえる。

教 師「漣、今日は少し居残りで勉強しなさい」
     
放課後、漣は教師から一対一で指導を受ける。

7五行町・水路沿いの通り(夕)

寺子屋からの帰り道。
漣は大きくため息をつき、トボトボと歩く。
水路っぺりでしゃがみ込む。水面にはゆらゆらと漣の顔が映る。

漣  「武家って大変だなぁ」
     
目の前を荷渡し舟が通る。

8回想・五行町・水路・荷渡し舟(昼)
     
舳先に座る漣とうたは嬉しそうに笑い、振り返る。
力強く舟を漕ぐ四浪がふたりに笑いかける。

四 浪「漣、やってみるか」
     
漣は船尾に行き、四浪と2人で櫂を操る。
うたはそれを見て笑っている。
「おめえは船頭に向いてる」四浪の言葉が、漣には嬉しくてたまらない。

9五行町・水路沿いの通り(夕)
     
水路っぺりに座る漣。
目の前を行く荷渡し舟。

漣  「おとう、うた……」
     
懐から浮世絵手札を取り出す。
『初代市川男女蔵奴一平』と『四条河原夕涼図』、四浪が最後にくれた物。
にわかに水面が脈打ち出すが、漣はそれに気づいていない。 

少年A「へえ、すごい手札だ」
     
突然、声をかけられ、そちらに振り返る漣。
と、反対側にいた少年Bが『初代市川男女蔵奴一平』の手札をひったくって走り出す。
「待て!!」漣は少年たちを追いかける。

10五行町・路地裏(夕)
     
通りを走り、路地を抜け、少年たちを追う漣。
少年たちは袋小路に逃げ込み、そこでリーダーと思しき少年に手札を見せている。
そこへ漣がやって来る。
手札を見ているのは―、晋平太だった。

漣  「晋平太、よかった。取り返してくれたんだ」
晋平太「町人には分不相応な手札だなあ。没収!」
漣  「え? 何言ってんだよ」
     
少年2人は木剣を構える。

漣  「ねえ、冗談だよね?」
晋平太「町人のガキが、俺たちと同じとこに来るなよ」
     
漣は傍らに落ちていた短い竹竿を広う。
少年2人が漣に襲いかかる。
漣は竹で受け太刀するが、すぐ折れてしまう。
少年たちは木剣で漣を打ち付ける。

晋平太「殺しちゃダメよ」    

そこに剣術道場へ行く途中の虎鯉雄が通りかかる。

虎鯉雄「何やってんだ」
漣  「ちくしょう、そいつもグルかよ」
     
虎鯉雄はそこにいる全員を睨みつける。

漣  「その手札は、おとうがくれた大切なものなんだよ。返せよ!」
晋平太「町人にはもったいないものだからね、没収!」
虎鯉雄「お前にはもっともったいねえだろ」
     
そう言うと、虎鯉雄は竹刀を構える。
虎鯉雄は簡単に少年ふたりを打ち倒し、晋平太の喉元に竹刀の切っ先を突きつける。

晋平太「お、おい虎鯉雄、俺の父上が―」
虎鯉雄「言いつけられないように喉突こうか?」
     
晋平太は手札を漣に返し、少年たちと逃げる。

漣  「あ、ありがとう。いや、かたじけない」
虎鯉雄「なんだそりゃ」
     
虎鯉雄は「そんな言葉使わない」と笑い、漣もつられて笑う。

11五行町・診療所近くの道(夕)
     
診療所に戻る道すがら。
伊三は踵を返し、船着き場に足を向ける。

伊 三「まったく、俺も物好きだな」

12五行町・船着き場近く・水路沿い(夕)
     
漣と虎鯉雄が水路に降りる階段に並んで腰を下ろしている。

漣  「なんで助けてくれたの?」
虎鯉雄「あいつらは金持ち武家のご子息様だからな。生まれついた場所で自分を偉いと勘違いしてやがる」
     
虎鯉雄の家は元々は商家で、「算盤侍」とバカにされるという。
漣と虎鯉雄は意気投合する。
少し離れた場所。土左衛門が水から上がってくる。
漣と虎鯉雄は話に夢中で土左衛門に気がついていない。
また1体、また1体と数体の土左衛門が上がってきて、音も無く漣と虎鯉雄に忍び寄る。
漣と虎鯉雄がその気配に気づいたときには、すっかり周りを囲まれている。
そして、水路の水面が不気味に脈打ち始めるのだった。

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