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彼の決意は壊せない -砕かれた【黄金比】-

彼の決意は壊せない -砕かれた【黄金比】-

 ――さあ、今日も『勉強』だ。
 グラバールで、かつて『天才』と呼ばれた蒸気機関技師、アルトゥ・シャオンは、工具を手に取った。

 青い空から暑い日差しが降り注ぐ。天気は快晴だった。
 朝、アルトゥは家を出て、アルフライラ郵便公社へと向かっていた。カバンのなかには《手紙》ではなく、彼自身が愛用する工具が入っている。普段は特務局員の一員として局内を出入りしているアルトゥだが、今日の目的は別にあった。

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安らぎの場所 -小さな故郷-

安らぎの場所 -小さな故郷-

 大陸横断鉄道の列車から見える街並みの景色が、少しずつ東方系の色を帯びてきていた。
 ――帰ってきたな。
 ルーシン ウェイは故郷に近づくにつれ、顔の緊張がほぐれていくのを感じていた。普段は気づかないが、外の世界にいると、やはりどこか身体に力が入ってしまうものなのだということを、自覚させられた。
 アルフライラ北東区、イェンルー老街。その近くの小路にある、小さな商店。ここが、ルーシンの実家だった。

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記憶の波、揺らす蒼海(わだつみ)

記憶の波、揺らす蒼海(わだつみ)

 常夏の都市、アルフライラ。なかでも「南のリゾート地」とも称される、南東区。ナーディルは、特務局員エージェントの訓練兼、配達部の手伝いで、この地区の海岸近くにある邸宅へと訪れていた。
「ありが、とう」
 《手紙》の受取人からサインを貰うと、まだ慣れない、たどたどしい公用語で、ナーディルはお礼の言葉を述べた。
 一通り配達が済んだ後、仕事の報告をするために分局へと戻ろうとしたが、ふと、出発前の上司の

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