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物語と現実の狭間で

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実際に起きたこと、架空の思い、真実を混ぜて物語を紡ぎます。随筆のような小説のようなものです。
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2020年8月の記事一覧

私は生まれる場所を間違えた

私は生まれる場所を間違えた

自転車に乗って坂を下る。

これ帰り登るねんなあ。

まだ目的地にもついていないのに帰りを気にする。日差しが刺さる。自転車のタイヤが溶けるんじゃないか。アイスクリームのようにゆっくり溶けて、アスファルトに染みていく様子を想像する。そうやって赤い側だけ残った自転車をどう運ぶか。

そんなことを考えていたら、高架下まで来た。

高架下には影ができて涼しい。横を見ると高架が向こうまで続いている。土台があ

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ダブルデッカー

「次は天満橋」

20:36出町柳発、淀屋橋行きの特急に乗り込む。意図的にダブルデッカーを選ぶ。今日は2階に座りたい気分だ。

あまり夜景は見えない。車内の光が反射するためだ。ただ少し下を覗き見る行為はわくわくする。優越、好奇心、冒険、焦燥。多くの思いをのせてダブルデッカーは進んでいく。

ホームに止まると、自分が少し浮いている感覚に襲われる。ホームに立っている人より目線が上のためだ。車内から人の

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アブラゼミ

アブラゼミ

サンダルをはいて、玄関の扉を開ける。日差しと喧騒が一斉に襲いかかる。

鳴き声を聞くと今年はアブラゼミが多いように思う。大声でぐわんぐわん鳴くクマゼミと違って、シャワーで浴びせるように鳴くアブラゼミ。そういや新潟の親戚が大阪に来た時、クマゼミをみて驚いていたなと思い出しながら鍵を掛ける。

日差しが背中を襲う。暑い。これは外に出てはいけない暑さだ。

家の横の小道を通って商店街へ向かう。いつもなら

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逃げ水

暑い。さっきから太陽が私のうなじを攻撃している。バイトの面談の帰り道。山一つ超えてもなおこの旅路が終わることはない。

帽子を持ってくればよかったと後悔しながら、途中道端にあった猫じゃらしを引っこ抜きタクトのように振りながら歩く。

焼け焦げたアスファルトの道がずっと向こうまで続いている。交差点に差し掛かると、うっすらと向こう側のアスファルトから1センチ上が揺れていた。

少し気分が高揚する。目で

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