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退院したくない人 49歳主夫の精神科入院日記(15)

主夫の薄衣です。

今回は、ゆうちゃんを私のところに連れてくる困った人、ボンちゃんを通して、「退院」について考えてみようと思います。

ゆうちゃん問題についてはこちらをご覧下さい。



なお、本稿に登場する方のお名前は、私がつけたニックネームなど全て仮名です。


ボンちゃん

元ナースで私とほぼ同年のこの方。
初めの頃は、とても朗らかで面倒見のよい方だったと聞いています。

私がお会いした頃のボンちゃんと言えば、

退院の日程が(3週間後くらいに?)ほぼ決まる。
その後、言動が乱れ始める。
みんなに今を「夢」だと語り始める。
他の患者に色々と絡み始める。

数日見ていただけで、言動の乱れがどんどん酷くなっていきました。

とにかく「私の話を聞け!」と、無理にでも他の患者を引き留め、一方的にマシンガントークを続けるので、皆困っています。

私は当初、その話を真面目に聞いて、不用意にも意見してしまったことがありました。その後、口論になり、結果ボンちゃんを泣かせてしまうと言う大失態を犯しました。

凄く後味が悪かったので、その後私は他の患者さん同様、ボンちゃんと距離を取ることにしました。

それでもボンちゃんはお構いなし。私も含め、引き続き多くの患者さんが絡まれて、やはりチョイチョイ口論に。ボンちゃんは病棟内のトラブルメーカーに成長していきました。

「私の話を聞けぇ~~~!!」


と、ボンちゃん祭りは1日中続きます。この頃の彼女は、果たしていつ寝ていたのやら。


私の部屋にも夜中の2時半とか、3時とか、ノックしてチョコチョコ入って来ます。私は、突然の出来事に驚いて「誰!?」とか声を出すのですが、するとボンちゃんは逃げていきました。

聞けば、ほとんどすべての男性の部屋に、同じ事を一晩中繰り返していたようです。これが数日続きました。男性中心にみんな寝不足です。

また、夜中ロビーでず~っと

「か~んご~しさ~ん!
   い~ま、な~んじ~?」

と叫び続けるので、さらに眠れません。それに「止めろ!」と反応したある患者が絡まれて、しばらく捕まる羽目になったせいか、みんな誰も反応しなくなりました。

看護師さんは、数日放置でしたね。

ボンちゃん連行される

患者達から相手にされなくなったボンちゃん。いよいよナースステーションに突撃します。

その入り口は基本施錠されているので、まずは延々とノックを続けます。痺れをきらした誰かが出てくると、もう放しません。延々とマシンガントークが続きます。

聞けば、「私は全然問題ない」
「なのにみんな私の言うことを聞かない」
「だからみんな私の言うことを聞け!」
という感じ。

かなり傲慢になっていました。以前は全然違った、そうなのですが。やがて、興奮すると手も出てくるようになり・・・

すると看護師さんから薬を出されます。

数日後、


まず歩けなくなり、


身体のむくみがものすごいことになり、


車椅子生活になります。

それでも、「誰か(車椅子を)押せ!」と誰彼かまわず叫び続ける元気はありました。そして誰かに車椅子を押してもらい、ロビーのどこかの輪に近づき、「私の話を聞け!」と大騒ぎ。

すると、ロビーの患者達がみんな神経質に。
不安定になり、不機嫌になり、大声を出す人も。

ボンちゃんはと言えば、どんどん身体の自由がきかなくなっていきます。最後の方は、車椅子にギリギリもたれ掛かっている状態。それでも「口だけ」は達者でしたが。

しかしその数日後、彼女は看護師に車椅子を押され、独房へと連れて行かれました。それっきり、私が退院するまで、もう彼女の姿を見ることはありませんでした。

あぁなってしまった彼女は、これからどうなってしまうのか。

考えさせられました。

退院を前に豹変したボンちゃん。
どういうことだったのか、私なりに考えてみました。


入院という不満 でも退院という不安

入院中は、多くの患者さんが色々と不満を漏らします。

医師に対してだったり、
看護師に対してだったり、
他の患者に対してだったり。

そして口々にこう言います。
「早く退院したい」とか、
「早く退院させろ!」とか。

一方で少なからず、退院に不安を強く持つ方もいます。

ボンちゃんもそうだったと感じています。

私が真面目に話を聞いた時、彼女は退院後の生活や、家族を巻き込んでしまった事への不安をたくさん話していました。


そうして必ず、

これは全部夢だよね~

と同意を求めてきます。

自分の今と未来を直視出来ないんですね、きっと。


でも私、それは分かる気がしました。

この先待ち構えている未来を考えれば考えるほど、辛くなりますもの、私も。

だから、私は先のことは考えず、今その瞬間だけに集中しようとしていたのです。それでも、やっぱり先のことは考えてしまうもの。

口論を省みて、改めてボンちゃんのことを考えたら、そんな風に思いました。

聞けばボンちゃん、3度目か4度目の入院リピーター。毎回、車に飛び込もうとして国道脇に構えているところを通報されたり、家族に見つかったりして入院、という運びになるそうです。

なので彼女は、「退院しても、またやっちゃうよ!いいの?」と皆に問いかけていました。その言葉に「退院したくないの?」と聞く人がいれば、「やかましい!」とボンちゃんは怒ってました。

どうしようもない葛藤とでも言いましょうか。とても複雑な感情があったんだろうと思います。




振り返ると

やはり、ボンちゃんに対しても、当初私は「話せば分かる」と思っており、彼女の話をちゃんと聞いて、それに意見していました。

私なりに筋を通したつもりでしたが、ボンちゃんには関係ありません。彼女から「お前に言われる筋合いはない!」と、散々暴言を吐かれたので、1度思いっきり反撃してしまったのです。

あくまで私の世界観で話したので、きっとボンちゃんには能書きにしか聞こえなかったんだと思います。

正論や、筋を聞きたいわけではないですよね。とにかく不安と不満が入り乱れて、ゴチャゴチャしている状態だったんだと思うのです。

あの時の私には、それが分からなかった。

他のやり方があったのかもしれない、と反省しています。しかし、私のようなド素人に出来ることなんてあったのか。

それは今でも分かりません。

私は彼女を思い起こすたび、自分とじっくり、そしてゆっくりと向き合う事や、とにかく早期の受診の大切さを思うのです。

自分と向き合う事、そして受け入れることは、私にとって本当に難しいことです。50年近く生きてきたくせに、まずどうしたら良いのか分からない。情けない話しですが、それを痛感する毎日です。

でもそこから始めています。

ゆっくりですが。歩みを止めないよう日々心がけています。

そして失敗ばかりですが、それも受け入れるようにしています。

時々思います。
入院するって楽だったのかなぁ、と。
チョット語弊がある言い方で、すいません。

看護師さんから、よく

「薄衣さんは休みに来ているんですよ。」

と言われてましたが、今になって少しその意味が分かったような気がします。

でも、やっぱり複雑な気持ちになります。
あの場所は、決して入りたくて入ったわけではありません。
今思い返しても、戻りたくもありません。


でも、あの時の私には必要な時間だったと思います。

入院と退院。

私にとって「生きる」を考えるための、
とてつもない大きな経験でした。
今回こうやって書いてきて思ったのですが、
まだ全然咀嚼し切れていません。

オチもちゃんと付けられず、
乱文になってしまい恐縮です。
今回はここまでとさせていただきます。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

今回のタイトル画像はなさじさんから。
ありがとうございました。

退院っておめでたいですよね、ホントは。
精神科の場合は悲喜こもごもです。ホント。

サポートに心から感謝です。主夫、これからも書き続けます。