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心配だから押しつける 49歳主夫の精神科入院日記(12)

専業主夫の薄衣です。

現在は退院し通院中です。

今回も入院中しんどかったシリーズです。

前回の入院日記で
地獄の千本ノックから解放されました。

その回はこちら。



地獄の千本ノックの始まりはこちらへ。



しかし一難去ってまた一難・・・
今回はそんなお話しです。

なお、本稿に登場する方々のお名前は、
薄衣がつけたニックネームなど、
全て仮名です。



ゆうちゃん と さっちゃん

私が入院していた頃、
同じ病棟内には概ね30人前後の
患者さんがいらしたと思います。
病気の種類や程度も様々。


なかには知的障害を持つ方もいました。

その中で、
よく病棟内をウロウロしていたのが
ゆうちゃん。聞けば23歳。



私がロビーに出られるようになった頃、
ゆうちゃんには仲良しの患者さんがいました。

私と同年のさっちゃんです。
なので、ほとんど母子。
ゆうちゃん、いい感じにさっちゃんに
甘えたおしていました。

いつも一緒です。


さっちゃんの退院

いよいよ、
そんなさっちゃんも退院を迎えます。

ゆうちゃんは、「ふ~ん」ぐらいでそれを理解している様子も、悲しんでいる様子もありません。


ザワつき始めたのは、周りの大人達です

特に元看護師というおふたり。
本稿では「地獄の千本ノック」でおなじみの
丸さんと、もうひとりボンちゃんです。

さっちゃんの退院後、
ゆうちゃんをどうするんだと言うのです。


言ってみれば余計なお世話です。
ゆうちゃんは自分の意思で動けますから。

しかし当の本人は置いといて、周りがゆうちゃんの押しつけ合いを始めました。

「私は自分で精一杯だから」  とか
「私は他の人を見ているので無理だ」 とか。


勝手なことを言い始めます。

後日、看護師さんとの話で気づかされたのですが、そもそも患者のケアは看護師の仕事。

なので患者同士で

「私はあのお年寄りを見るから、
    あなたはこの人を見て」

みたいに勝手に担当を決める必要なんてありませんよね。


そうは言っても、心配事がエスカレートして
止められないのが患者チーム。

特に元看護師のおふたりは、ゆうちゃんのことが気になって仕方がないようです。


ただ、ご自分で彼のケアをする、という方向には不思議といきませんでした。


押しつけ

結果、おふたりから
「病棟内で1番落ち着いて見えるから」
という理由で、私が頼まれることに。


「薄衣さん、ゆうちゃんの面倒見てあげてください。」

と言われて、

私も

「はぁ、出来る範囲で。
そもそも彼は1人で何でも出来るし、
心配無いんじゃないですか?」

と、答えました。本音です。

ボンちゃんに至っては、
ゆうちゃんを目の前にして
無礼千万な言葉を並べた上で私に、

「こいつ、何にも訳分からんから面倒見ろ!」

とのご指示が。
この時も、私はっきりと断ったのですが・・・


さっちゃんの退院翌日から、
2人がゆうちゃんを私のところへ
連れてくるようになりました。
いつ、いかなる時でも。

私はこの頃、ロビーで本を読んだり、
ボォ~ッとして過ごすことが多かったのですが、この姿が「お地蔵さんみたいで、暇に見える」とのこと。

私なりに、ロビーのような雑踏の中で自分の治療に集中していたのですが、2人からするとそんな話は聞く耳を持ちません。


薄衣さん、よろしくお願いします。


と、ゆうちゃんを私の横に座らせていきます。
そして連れてきたお二人はテレビを見たり、お茶したり。
自由に過ごされています。


なんだか押しつけられているようで、
釈然としない気持ちになりました。


ある時は、
「薄衣さん、ゆうちゃん1人で寂しそうですよ!良いんですか!」
と言われたので、

「良いんじゃないですか」

と答えたら、


なんでそんなこと言うんですか!


と激怒される始末。

丸さん、あれだけ禁止されていた私の部屋へのノックも復活し、

「ゆうちゃん、今1人ですよ!」

とか言いに来るようになってしまいました。


ゆうちゃんとの会話

そんなこんなで、ゆうちゃんが私の隣にいる時間が多くなります。
2人から、ほぼ強制的に連れてこられるので
彼自身に癖がついて、数日もすると自発的に私のところに来るようになりました。

しかし、彼との会話が意外と楽しい。
当時5歳だった息子と話しているような感覚を覚えました。
ゆうちゃんには申し訳ないのですが。

ゆうちゃんは、既に退院後のグループホーム
入居が決まっていました。彼はもう入院生活に飽きており、暇そうです。

なので、
会話は決まって

「いつ退院できる?」

から始まります。

ただ、彼は数字を理解していません。
「何時」とか「何日」もよく分かっていないようです。

しかも、話したことも覚えていないようで、
何度も同じ話をされます。

例えば、恒例の「いつ退院出来る?」は、
1日100回くらいは話したでしょうか。


そんな薄衣達の姿を見て、
1人の男性が私に話しかけてくれました。

ザルさんです。

私のチョット下、40歳くらいだったかと。
実はこの方、さっちゃんの前にゆうちゃん担当をしていた方。
やはり他の患者達から指名されて。

それが相当嫌だったらしく、
私のことを心配してくれます。

私が
「まぁ、息子と話している感覚で
なんとかやってます。」

と言うと、ザルさんは

息子さんと違って、
  何も成長しないじゃないですか!
  イライラしませんか!

と、思い出し怒りで全身を震わせながら
私を心配してくれます。
手の震え、声、尋常じゃありません。

この方も相当苦労されたんだな。
もしかして、
さっちゃんも大変だったのかな。
押しつけられたんかな。
とか色々考えました。


でもザルさん。
1つだけ間違いがありました。
ゆうちゃん、ちゃんと成長するんです。
当たり前ですが。

カレンダーを見ながら日付の話をしたり、
時計を見ながら時間の話をしていたら、
ちゃんとこちらの質問に的確な答えが
返ってくるようになったのです。

また、
ゆうちゃんと一緒に食べる食事時のこと。
はじめは「おくち」といって、
食事中に汚れた口を指し、
拭くものを要求してくる感じでした。

なので、「今回はおっちゃんが持ってきてあげる」と言って私がティッシュを取りに行ったのです、はじめは。


翌日だったか、やはり「おくち」と言ってきたので、私は「どうする?」と切り返しました。
すると

「ティッシュ欲しい」

ときます。

そこで、

「あそこにあるから自分で取っておいで」

と促してみます。
ゆうちゃんが

「一緒に行こう」

と言うので、

「今回だけだぞ」

と一緒に取りに行きました。

次の食事時、ゆうちゃんは「おくち」と言ったかと思うと、おもむろに立ち上がり自分で取りに行きました。

さらにその次、
今度は予め自分で拭くものを持って
食卓に付いたのです。

やるじゃないか、ゆうちゃん!
2人で笑い合いました。



振り返ると

今思い返しても、
ゆうちゃんとの時間にストレスは無いのです。
毎度毎度連れてこられたり、押しつけられたりといった行為が嫌でしたね。

しかもボンちゃんのゆうちゃんに対する扱い。無礼でした。聞くに堪えませんでした。

またある時は、
丸さんがロビーで寝ているゆうちゃんを無理矢理起こして私のところに連れてこようとしたことがあり、当然ゆうちゃんは嫌がります。

それに対して丸さんが激怒して大騒ぎになりました。

この人は、人の面倒を見ると言いながら、
人のことは関係ないのだ
、と学びました。

しかしやっぱり私、
看護師さんに相談していません。

1人で悶悶としていました。


こういうとこなんでしょうね、


薄衣のダメなところは。


余計なストレス、余計な時間。
自分に負担かけすぎです。
さっさと看護師さんに相談すれば良かったのですが、出来ませんでした。

私はどうも、
自分でやれるだけのことをやってからじゃないと
他人様に相談したり、頼ったり出来ないようです。

かえすがえすも、
無駄な気苦労の多い男です。


こんな状態は長く続けられません。
ザルさんのように、全身が震えるほどの
思い出し怒りは出ませんでしたが、
連れてこられる、押しつけられるストレスは
溜まる一方です。


そして薄衣は、
次の手をようやく打つのです。


それはまた次回に。

今回も、
最後までお読みくださりありがとうございました。


続きます。


今回のタイトル画像は
心に毛を生やせ!@吉倉たま さんから
お借りしました。

こんな感じでモヤモヤしてました、私。

ありがとうございました。

サポートに心から感謝です。主夫、これからも書き続けます。