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映画『余命10年』は、″お涙頂戴モノ″とは一線を画す心に残る良作でした

公開当時、ヒットしていた記憶がある映画『余命10年』。この手の、主人公の命が区切られている系の映画はなんとなく内容が似ているような気がして、この映画を観ないままここまできてしまいました。

でも考えてみたら余命は普通もっと短い期間で宣告されるものであって、10年という長いスパンでの余命宣告ってどういうものだろう?という興味が沸いたのと、菅田将暉と共演した映画『糸』での小松菜奈の瑞々しい演技が非常に印象深かったので、観てみようという気持ちになりました。

小松菜奈演じる茉莉は、数万人に一人という"不治の病"で余命が10年であることを知ります。それゆえ、生きることに執着することがないよう、恋はしないと心に決めていました。

食べ物にも気を遣い、薬を大量に飲み、働くこともできず、さまざまな制約を受けて生きていました。

中学の同窓会で再会した坂口健太郎演じる和人。彼は仕事も解雇され生きる意味が分からなくなり、自宅のベランダから思わず飛び降りてしまいます。親とも絶縁状態で、病院に駆けつけたのは茉莉と同じく同級生だった山田裕貴演じるタケル。

同窓会でみんなに会えて楽しくて、自分以外はそれぞれの人生をちゃんと生きていて…。そう思ったら、フワッと飛び降りていたという和人に茉莉は 「それってズルい」と。自分は生きたくても生きられないのにという想いからの言葉だったと思います。

その後茉莉は奈緒演じる出版社に勤める親友・沙苗のお陰でコラムライターの仕事を在宅で始め、和人はタケルの知り合いの居酒屋でバイトを始めました。

茉莉、和人、タケル、沙苗の四人は楽しい時間を過ごし、タケルは沙苗と付き合い始めます。茉莉は恋はしないと決めていたので、和人とのそれ以上の関係には踏み出せずにいました。

和人が茉莉に告白した日に茉莉が倒れ、自分の病気の話をして「もう会いたくない」と和人に告げます。本当は茉莉もとっくに和人のことが好きなのに、ここら辺もどかしい展開が続きました。

和人は居酒屋の店長・梶原に背中を押され、茉莉ともう一度向き合う覚悟を決めます。この再びの告白シーン、二人の気持ちがやっと通じ合えたようでグッときました。

「茉莉ちゃん俺、夢ができた」
「夢?」
「うん。俺の人生は、誰かからみたら平凡でつまらない人生かもしれないけど、となりには茉莉ちゃんがいる。死にたいって思ってた俺に、生きたいって思わせてくれた茉莉ちゃんのために、俺は生きる。これからは、俺が茉莉ちゃんのこと守るから。だから、一緒にいてください」
「バカ…」
「茉莉ちゃん…好きです」
「同窓会なんて行くんじゃなかった」

映画『余命10年』より

それからの二人は恋人同士として楽しい想い出を積み重ねていきましたが、茉莉の体は徐々に弱っていきました。確実に死に向かって…。

一方で茉莉は自分の病気を題材にした小説を書き上げます。沙苗の出版社に持ち込み、沙苗は必ず出版できるようにすると約束します。

和人にスキー場でプロポーズされた茉莉は、自分の病気が治らないという真実を初めて和人に伝えました。

「私もずっと思ってた。なんで私なんだろうって。余命10年って笑えるよね?長いんだか、短いんだか。どっちなんだって感じ。退屈でボケちゃうかと思った。もうさっさと死なせてくれって。毎日思ってた。けどカズくんに出会って、毎日すごい楽しかった。だけどもう、ここまで。これ以上カズくんといたら、死ぬのが怖くなる」
「俺は、俺は茉莉ちゃんが好きだよ」
「カズくん、彼女にしてくれてありがとう。カズくんはしっかり生きてください。お願い。分かったって言ってよ。ちゃんと死ぬ準備を始めなきゃ。最後のお願い」
「分かった」
「ありがと」

映画『余命10年』より

このシーン、あまりにも切なすぎました。その後、家に戻った茉莉が母親の前で泣きじゃくりながら「死にたくない」と何度も何度も吐き出したシーン、たまりませんでした。これまで自分の運命を淡々と当たり前に受け止めてきた茉莉が、やっと心の底から泣けたという感じだったんだと思います。

入院してからの、茉莉と黒木華演じる姉・桔梗との二人のやり取りも良かったです。桔梗はいつも妹・茉莉のことを想い、茉莉も姉に感謝しながらも素直になれず…。姉妹愛が感じられる温かいシーンでした。

茉莉がこれまでにいつも撮りためていたビデオを、一つ一つ消していくシーンは泣けました。和人と二人、桜の下で初めて話をした時のシーンだけは消せませんでした。そして、茉莉のみた夢の数々…。カズくんと結婚して、子どもも産まれて…。決して叶わない夢だけれど、茉莉の心は満たされている…そう感じられました。

危篤状態を脱した茉莉の元へ、小説の元原稿を読んだ和人が会いに現れます。茉莉に自分の店をオープンして「まつり」と名づけたことを伝え、「茉莉ちゃん、頑張ったね」と何度も何度も声をかけます。ほんの少しだけ目を開けた茉莉。二人の間に流れた優しい時間が愛おしかったです。

この映画、キャストが皆さん素晴らしかったですね。登場人物が少ない映画だったのでそれぞれのキャストの比重が高かったように感じますが、その確かな演技力によって映画に奥行きを与えてくれていました。

もちろん茉莉の運命である"余命10年"が大前提にあるので、それを思えば辛いストーリーではありました。でもそれよりも茉莉の周りにいてくれた和人はもちろん、家族や友だちの存在があって、茉莉が"余命10年"を自分なりに納得して生き抜いたであろうことが伝わってきました。

映画全体のトーンはそれほどジメジメしていなくて、不思議と未来への希望のようなものも感じられた気がしました。数々の美しい自然の景色がそう見せてくれていたのかもしれません。桜は儚い花だけれど、ほんの短い間しか咲かないからこそ、その美しさがより際立って感じられるんでしょうね。

原作者・小坂流加氏の言葉。「余命10年と言われたら、あなたは何をしますか?

「もし明日死んでも後悔しない生き方をしたい」がモットーの私にとっては、余命がたとえ1週間でも10年でもあまり変わらない毎日を過ごすような気がします。

ただ、この世に何か自分の″生きた証″は遺したい…その想いはだんだん強くなってきているので、きっとそれに向けて日々を積み重ねていくんでしょう…。

いわゆる″お涙頂戴モノ″とは一線を画す映画『余命10年』は、切なくも生きることへの熱い想いが感じられる心に残る良作でした。観て良かったです。

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