活動記録2日目「1番伝えないといけない存在、親」
17時10分渋谷発の埼京線で赤羽まで行き、そこから湘南新宿ラインに乗り継いで実家のある高崎を目指す。
今日私は言わないといけない。
来年就職せずにアルゼンチンに行く事を。
アルゼンチンに行く事を周りの人に伝えた際、必ずと言っていいほど聞かれるのが「親は何て言ってるの?」だ。
「親は俺の性格わかってるから」「親は自分の人生だからと言ってくれてるんで大丈夫です」などとその度に私は答えてきた。
しかし、実のところまだ言っていない。
私の親は、私が来年から証券マン(営業ではないが)になると思っている。
親だけではない。1ヵ月ほど前祖父の葬式で帰省した際、
「内定おめでとう。」
「来年から社会人、頑張ってね。」
「そろそろあんたも親孝行しないとね。」
多くの身内が声をかけてきた。
なぜ今日この日まで言うのを遅らせてしまったのか。
言いづらかった。証券に勤めるといった時は親も驚いていた。親の世代は証券はブラックという印象が染みついていた時代。そんなところに俺が行くわけないと考えていた為だろう。しかし、喜んでもいたし安堵の顔を浮かべていた。
「就職しない」
親は何と言うだろう。
「アルゼンチンに行く」
母は心配するだろう。
先延ばしにしていた理由あと一つは、「金」の問題。
前期留年の学費は就職して返せる目途があるからこそ、祖父から借りた。
5年で計700万円くらい借りている奨学金はどう返すのか。
来年から始まる月々の返済をどうするのか。
ここに対しての明確な解を与えらえれるまで言えないと考えていた。
しかし、もうこれ以上先延ばしはできない。
「絶対返す」
それしか言えないが。
19時、高崎に到着した。
そこから歩いて30分。実家のマンションに着く。駅から家までの帰り道には自分が通った中学校や小学校、一生遊んでいた広場がある。私にとってそれらは文学と同じ、変わりゆくのは自分だけ。
下でインターホンを押し、5階に上がる。5階からは小学校の校庭が全て見える。8年前、高校サッカーのす走りについていけず、家に帰ってから真っ暗な夜に走っていた。「なんの意味があるんだよ、キーパーなのに」と思いながらも、自分がタイムに入らないせいでやり直しになるのはもうごめんだった為走らざるを得ない。
そこから8年「本当に成長した」、そう思うと同時に「俺はなんて親不孝な奴だ」とも思う。
今日こそは言わなくてはいけない。
リビングに家族を集めるのは人生で三回目。
1度目は中3の冬。高校進学なんかよりプロサッカー選手に成りたいと考えた私は親に「イタリアに行かせくれ」と泣いて懇願。勿論NG。
2度目は高3の受験後、仮面浪人決意の旨を伝える際。大反対を食らうも「俺に投資しろ」の一言で許可を得た。
そして今回。
胸が痛む。なぜなら心の底から親と身内に感謝しているからだ。この人たちが居なかったら私は、早稲田で素晴らしい景色を見る事も出来なければ、面白くかっこいい人たちにも会えなかった。投資しろなんて、とてもじゃないけど言えない。
母は、公務員の家系で育った。自分自身は若い時に一切苦労しなかったから
今大変なんだと、小さい時からずっと言われてきた。自分が小1の時、父親の仕事の関係でとんでもない逆境を経験している。それを乗り越えたからこそ、俺には安定した道を行ってほしいのだと思う。
けれどどこかで、俺がそんな選択をするはずがない、とも思っている
ような気もする。
きっとお金以上に命の事を心配するだろう。
それでも、どうしても見なくてはいけない世界があるのだ。
「ごめん。来年実は就職しない事にした。アルゼンチンに行く。」
「どういうこと?」
「もう内定先も断った。」
「え?」
「やっぱりまだどうしてもサッカーを追求したい。そしてこれはサッカーだけではないんだ。どうしても俺は今枠の中に入ってはいけないと気づいた。何を言ってるか判らないと思うけど、サッカーを通してこそ、万物に共通する人間の本質を得る事が出来るんだ。だから俺は、どうしてもこの選択じゃないと駄目なんだ。本当にごめん。借りた金は絶対に返す。期待させてすまない。」
母は泣く。俺を庇う父。
ごめん母さん。
ありがとう父さん。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。
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