見出し画像

【いまさら読書感想文】ぶんぶーーー! 子どもの力は凄まじい!/君が夏を走らせる

8月も終わり、9月になったとたん空が表情を変えて秋の面をぶら下げていた。

まだまだ積んである本には「夏」がタイトルに入っているものもいくつかある。たぶんこれを読む頃には秋など通り越して冬かもしれない。このギャップに体は果たしてついてこれるのか…?

そんな中で、ギリギリ夏に読めた夏のお話を今回は紹介したいと思う。


#君が夏を走らせる

#瀬尾まいこ

#新潮文庫


画像1


瀬尾まいこ先生の著書は「卵の緒」くらいしか読んでいない。元より作家が読書の理由に紐づく事は僕にとって稀だ。シリーズものでない限り。

とにかく、読みやすい。ライトでありながら、軽すぎるわけでもないから読み応えもしっかりある。セリフのリズミカルさもそうだが、表現のひとつひとつがストレートに明瞭で頭に入ってきやすい。このテンポ感がより、夏を駆け抜けるような爽快さを際立たせている気もする。

あらすじ

ろくに高校に行かず、かといって夢中になれるものもなく日々をやり過ごしていた大田のもとに、ある日先輩から一本の電話が入った。聞けば一ヵ月ほど、一歳の娘鈴香の子守をしてくれないかという。断り切れず引き受けたが、泣き止まない、ごはんを食べない、小さな鈴香に振り回される金髪少年はやがて―。きっと忘れないよ、ありがとう。二度と戻らぬ記憶に温かい涙あふれるひと夏の奮闘記。


どうやらこの作品、同著者の「あと少し、もう少し」のスピンオフ的な位置づけらしいが、今作だけでも十分楽しめる。

主人公「大田」はずっと不良だったのだけれど、中学時代の後半、足の速さをかわれ駅伝大会に参加している。その時の走る快感を忘れられず、不良だった自分を捨て変わろうとしたが結局はうまくいかないまま高校生活を浪費する日々で、自分にも嫌気がさしている様子。

そんな中で、あらすじの通り「子守」を「お前しかいない!」という形で依頼される。「自分の子どもを預ける」というお願いは、相当な信頼が無いとできないことだと思うから、こういったところで太田君が実は頼れる 誠実さがある人間だということが伝わる。

そして、この一歳の女の子「鈴香」。この娘を表現する文字表現一つ一つがパワフルで、且つ可愛い!途中途中で口元がニヨニヨしてしまうほどにカワイイ。泣きわめいたりでドタバタ暴れたり、かと思えばすぐに眠ったり。だんだんと大田を受け入れてなついていく様など本当に愛らしい。子どもの尊さを真正面から放たれて心臓がキュッと音を立てるシーンがいくつもあった。

鈴香は基本「ぶんぶー!」しかしゃべらないのだが、これだけで感情を使い分け、言いたいことを分からせるのって、とんでもなくすごいのでは?「ぶんぶー」「ぶー」での意思疎通。すべてが愛らしい…。

※元より、子ども×大人(高校生、中年)というシチュエーションに弱い。コミックでいうと「よつばと!」「甘々と稲妻」「うさぎドロップ」「ひゃくにちかん!」などなど…それ以外にもいろいろとある。よく考えたらずっとトレンドの上位に存在しているジャンルなのかもしれない。

最初はイヤイヤにただただ困惑するばかりであったが、段々と子守りに夢中になっていく大田も可愛い。栄養あるご飯をつくってあげたり、興味のありそうなおもちゃを買っていってあげたり、公園まで連れて行って遊んであげたり。そんな中で、心が少しずつ解けていき、生き生きと変わっていくさまも見ていて楽しくなる。

子どものエネルギーとは、どうやらすごいらしい。突き動かされて疲れることもあるが、それでも子どもの為ならどこまでも力を出せてしまうのが親なのだということがよくわかる。また、その無意識さに救われることもあり、色々考えて凝り固まった頭の中に、すっと風を与えてくれたりもする。

例に漏れず、大田も鈴香のエネルギーに充てられながら、自分と向き合うことになっていく。後ろから押されるように、その仕草ひとつひとつが大田の脚を前へ前へ運んでいくことになる。「君が夏を走らせる」というタイトルからもわかるように、一人の子どもが一人の高校生の青春を加速させていく物語…

ちなみにラストなのだが、ちょっと自分は悲しくなってしまった。…でも多分、このひと夏の絆はそんなあっさりしたもんじゃないぞ!と、大田君に伝えてあげたい。もらったエネルギーで走り続ける人生の先に、この物語の人々がずっと関わっていて欲しいと切に願う。

「子どもの力は凄まじい!」これに尽きる。

まるで文章が生きているかのようなパワーを是非皆にも感じ取ってもらいたい。

それではまた。

#読了

#読書感想文

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?