出版流通の現場から。廃棄を目の当たりにする「出版倉庫」を営むからこそ分かる書籍廃棄の痛み | SeLn
こんにちは、〈SeLn(セルン)〉広報部です。
〈SeLn〉は「出版流通を再発明する」を経営理念に掲げ、出版流通のデジタル化・オンデマンド化を進めるスタートアップ企業です。まだまだ小さな企業ですが、出版流通への大きな愛と強い気持ちをもって事業をすすめています。
出版倉庫ニューブックの2代目社長として育ったセルンCEOの豊川から見た、出版流通の栄枯盛衰、そして、これから……。
このnoteでは、どのような思いでこの事業を始めたのか、その背景にある出版業界の変遷についてお話ししますので、ぜひ最後までお付き合いください。
本屋や出版社だけではない!昔の「出版流通」は大忙し!
CEO・豊川の父が出版物流倉庫をはじめた1970年代頃は、出版業界がまだまだ右肩上がりの頃でした。
当時は、本に挟まれている「スリップ」を裁断して穴をあける作業を専業としていた会社も存在するほど、出版業界は分業化されており、非常に忙しい時期でした。
豊川の幼少期の記憶には、ニューブック創業の地である東京・茗荷谷にあった父のガレージ兼倉庫が残っています。父は軽トラックで回収した返本を持ち帰り、その場所で忙しく作業をしていました。そして、書籍の汚れを丁寧に落とし、必要に応じて研磨したり、新しいカバーと帯を付けたりして、書籍を新品(ニューブック)同様に整え、再び市場に送り出していました。これが豊川が見て育った「出版流通」の原風景です。また、実際のところ、当時の売上の9割は、この返本の回収と再流通にまつわる部分だったと言います。
「本はお金と一緒」……なんじゃないの?
そんな頃、父に教わった言葉は「本はお金と一緒」でした。
本を回収し、整え、出荷する、そこで商売が成り立っていたからこそ、よりリアルに「本はお金と一緒で、1冊たりとも無駄にできない貴重で大切なもの」だという実感があったのです。
ですが、実際のところは時代の移り変わりの中で売れ残りや絶版が増えていきます。1万冊の在庫のうち2,000冊を断裁してしまったり、年間で何万冊もの断裁依頼が倉庫に来て、古紙回収業者にお渡しをしている。しかしながら、本はきれいに丁寧に扱うべき資産で、お金と一緒と思って育ってきた豊川にとって、その事実はあまりに衝撃的でした。
また、雑誌類などもバックナンバーといっても2年程度で破棄されることが多いのです。ついこの間まで「書籍」だった本が、時の経過で破棄される「資源ゴミ」になってしまうことは、どうにか変えたいこととなりました。
さらに、倉庫で保管する期間や量を増やそうとしても、保管料は微々たるものです。全倉庫面積約1,200坪の書籍の在庫は、預かっている最中は利益を生まない構造(美本化し、出荷してはじめて利益が出る仕組み)ゆえに、ビジネスとして成り立たなくなってしまいます。
倉庫の活用を始めた「オープンロジ」の立ち上げ
だからといって、出版流通業を諦めたくない!
出版流通が停滞してしまっているなら、この倉庫をもっと活用するのはどうでしょうか。そんな考えから生まれたのが「オープンロジ」です。2014年にスタートしたこのプロジェクトでは、自社の倉庫のデジタルトランスフォーメーションを推進し、倉庫の機能を全面的に活用しています。
「フルフィルメント」とは、注文を受けた商品を倉庫から梱包・発送することです。この工程をシステム化することで、在庫管理と発送業務が一体となり、効率的な運営が可能になりました。また、自社だけでなく、他の倉庫にもこのシステムを提供し、どの倉庫からでも商品を出荷できるようにする自律分散型の倉庫ネットワークを構築しました。
でも、実は「オープンロジ」と同じ時期に構想していたものがもう一つありました。それが〈SeLn〉で行っている「プリントオンデマンド事業」です。
プリントオンデマンドというのは、注文があるごとに1冊ごと製造を行う方法で、デジタルプリンターとECとの連携を前提にしています。ですが、過剰生産を防ぐほか、必要な本だけが必要な数だけ生産されるため、製造資源と物流資源の節約とコスト削減が実現可能になる方法でもあります。
「プリントオンデマンド」の時期は2000年代ではなく、今!
考えてみると、2000年代は、まだパソコンが広くは流通していない頃でした。1995年以降、少しずつパソコンもインターネットも広まってきたものの、まだまだデジタルは色物として扱われていました。また、大量生産の時代は終わったと言われつつも、まだニッチなものにも「推し」のいる多様性の時代にもたどり着いていませんでした。
そして、そもそもデジタルプリンターに対応できる「紙」自体が少ないから、オンデマンドプリントができても「本」として成立しなかったり、「オンデマンドプリント」ができるプリンターも限られていたりと、技術革新も追いついていませんでした。
ですが、2000年代の欧米では〈Amazon〉のほか、〈イングラム/ライトニングソース〉といった企業がすでに書籍のオンデマンド化に成功しており、豊川は、日本でも間違いなくオンデマンド化が必要になると信じ続けて、構想を練り続けました。すでに豊川は大量生産で作った方がいいという産業革命以降の常識を無駄が多いのではないかと疑い始めていたという訳です。
ニューブックの一部門として、オンデマンド出版のための印刷機・製本機・断裁機を導入して、2012年にPODラボを開設。とはいえ、機械を導入すればすぐにオンデマンド出版が可能になるわけではありません。スタッフが試行錯誤を繰り返しながら、徐々に印刷・製本の技術を磨き、効率的な運用のノウハウを確立するための準備が必要でした。
そうして、2018年に満を持して立ち上げたのが〈SeLn〉。書籍のオンデマンド化を行い、届ける、新しい「出版流通」の会社です。
近年は、技術革新もあり、プリント品質も紙の相性もだいぶ向上しました。
また、「オープンロジ」でフルフィルメントを学んだからこそ、エンドユーザーからの発注に対応した在庫管理や製造管理、細やかな工程管理が可能になり、さらにECとの連携もとりやすくなりました。受発注のオンデマンドと配送の接続は、書籍のオンデマンド化では障壁になりやすい部分なので、ここを物流の視点から知っているというのは〈SeLn〉にとっての強みのひとつになっています。
もっとみんなで書籍の「適切な流通」を考える
品質については、色の表現や断裁、製本の技術も、ただ「仕様ですから」とか「これも味ですよ」と言い訳せず、真剣に取り組んできました。これまでのナレッジや経験を積み重ねて、今が「日本の書籍にとってのプリントオンデマンドの時代」かもしれないと感じています。
品質は技術の進化とともに向上します。紙の質が変わり、インクの質が向上し、印刷のクオリティが改善され、オペレーションが効率化され、発注から受注のプロセスがスムーズになり、製本技術が進化し、物流が改善され、最終的に手元に届く一冊の本が変わります。豊川は、〈SeLn〉だけでなく、業界全体が一緒になって切磋琢磨し、「適切な流通」を目指してきた10年だったと言います。
これからも、私たちはより良い「書籍の適切な流通」を目指して、考え、実行し、再発明を繰り返していく所存です。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回は、そんなプリントオンデマンドの工場の中に潜入!工場見学の様子をお届けする予定です。
また、〈SeLn〉ではサイトリニューアルも予定中。新しい〈SeLn〉として、一緒に出版文化を愛し、発明していきたい方も探しています。あなたの想いやご感想、あなたの思うよりよい出版文化の在り方がもしあれば、いつでも pr@seln.com までご連絡ください。