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ウクライナ系に多い姓の語尾 「enko」とは?

 これまで私は、ヨーロッパの姓や名前の仕組みについていくつか記事を執筆してきました。

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 今回は、ウクライナ系の人に多い姓について解説します。ウクライナ系の人に多い姓は、語尾がenkoで終わることが多いです。日本でも有名な人物には、ナザレンコ・アンドリーや、グレンコ・アンドリーがいるでしょう。なお、ウクライナ系の人でも国籍がウクライナとは限りません。ロシアの有名なフィギュアスケート選手プルシェンコやベラルーシの大統領ルカシェンコもウクライナ系の姓です。

 以前、ロシアやチェコなどスラヴ系の姓には男女で姓が異なるものがある(男:メドベージェフ、女:メドベージェワ等)と解説しましたが、ウクライナ系の「〇〇enko」という姓は、男女同形です。ウクライナの女性首相にティモシェンコという人物がいましたが、夫と同姓なら夫もティモシェンコです。

*反対に、ウクライナにも男女で語尾が異なる姓が存在します。ウクライナの大統領はゼレンシキー(露語:ゼレンスキー)ですが、大統領夫人はゼレンシカ(ゼレンスカヤ)です。

 ところで、この語尾にはどのような意味があるのでしょうか?実は、「誰々の子」という意味があります。つまり、私がこれまで何度も解説してきた「父称」由来の姓なのです。 

 父称由来の姓が存在する一方、ウクライナではロシアと同じく、氏名以外に母ではなく父や親戚の男性の名前から作る父称を名乗ることになっています。こちらの父称は、〇〇enkoで終わることはなく、別の語尾を持ちます。

 しかし、父称由来の姓は、ヨーロッパや英語圏では珍しくありません。

 先日、ウクライナの名前の仕組みについて、このようなツイートを見かけました。

井田氏は以前、他にも上3点のようなツイートをしています。

 ウクライナでは別姓選択が可能でも、先述のように、氏名以外に、母など親戚の女性でなく父など親戚の男性の名前から作る父称を名乗らなくてはいけないことになっていますし、父称由来の姓も存在します。また、同姓でも場合によっては夫と異なる語尾になることがあります。したがって、井田氏風に表現すると、望まない父称や父称由来の姓、夫婦別語尾を強いることになりますし、父称や父称由来の苗字など家父長制の名残りらしきものも残っています。男女で語尾が異なる姓があるというジェンダーによる違いもあります。日本では父称を名乗らなくてはいけないという決まりはありませんし、別氏にすることはできませんが、夫婦どちらの氏も選ぶことができますし、夫婦同氏制度は合憲で人権侵害や女性差別ではないと司法も判断しています。↓以下のリンク参照

仮に日本の同氏制度を人権侵害や女性差別だとすると、ロシアやウクライナなどヨーロッパの国々のように別姓選択可能になってからも家父長制の名残が存在しているであろう国については一体どう評価したらいいのでしょうか?

 いずれにせよ、日本の司法は、氏の仕組みは文化や伝統などにより国それぞれと判断していますし、その上で日本の同氏制度は合憲だと判断しているので、問題ありません。ウクライナの名前の仕組みも、裁判所が問題としていないのであれば問題視する必要はないでしょう。だいたい、言語と「人権」という概念は、相性が非常に悪いです。↓

しかし、日本の仕組みを問題視するのであれば、同じように人権や男女平等といった観点からウクライナに対しても問題視しないと筋が通らないと思います。ジェンダーの話という文脈で、改姓するかそうでないかに拘るこだわる一方、名前に関するそれ以外のジェンダー的な要素についてあまり言及がないのは不思議です。

*ちなみに…日本が元々100%夫婦別姓、西欧化により夫婦同氏制度になったというのは本当なのか…?詳しくはこちら↓

*国連の勧告についてはこちら。↓

*こちらもご覧ください。↓


参考文献

辻原康夫「人名の世界史」平凡社,2005