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<日本灯台紀行 旅日誌>2022年度版

<日本灯台紀行 旅日誌>2022年度版

第15次灯台旅 四国編 

2022年11月12.13.14.15.16.17.18.19.20日

#3 二日目(2) 2022-11-13(日)

<下灘駅><長浜大橋>観光

ナビの案内に促されて、国道からそれ、急な坂道を登った。<下灘駅>が、狭い道の右側に見えた。駐車場はと、目で探すと、駅舎の横に四、五台止まっている。いっぱいだ。路駐もできない。だが、さいわい、少し離れた所に専用駐車場があるようだ。駅舎を通り過ぎ、坂道をさらに登る。

案内板があり、<矢印>が左上を向いている。細い坂道の上に駐車場があるようだ。しかし、逆V字を切らなければ登れない。いまいる道も狭い。内輪差が取れないから<逆V>などとうてい無理だ。となれば、このまま行き過ぎて、広い場所で回転して戻ってくるしかない。

駅舎も専用駐車場も通り過ぎて、こんどは坂を下っている。どこまで行けばいいんだ。と、すこし路肩が広くなっているところがあった。慎重に何度か切り返して、回転に成功。そのあと、車一台がやっと通れるような、急な坂道を登って、やっと専用駐車場にたどり着いた。

山の斜面を切り開いた場所で、ちょっとした広さがある。以前は民家が立っていたような雰囲気だ。三列に縦列すれば、二十台は止められるかもしれない。海を臨んだ崖際にも観光客の車が何台か止まっていた。ミニクーパーの隣に、すこし間をあけて駐車した。まずもって、観光地巡りは大変だよ。

カメラを首にぶら下げ、坂をぷらぷら下りていくと、眼下に<下灘駅>が見えた。でもなんだか、ごった返しているぞ。ホームに、列車が止まっていて、観光客でいっぱいだ。こりゃ~、写真どころじゃないな。

小さな駅舎の改札は、解放されていて、出入り自由だった。もっとも、脇の駐車場の横からも駅構内に入れる。しっかし、狭いと所に人がいっぱいだ。この一角だけ、極端に人口密度が高い!それに、茶色の観光列車が、ホームにびったし止まっているので、プラットホーム越しに海は見えない。そのうちには、出発するだろうと、改めて周りを見回すと、列車の客が大半で、ホームのベンチに、かわるがわる座って、スマホで写真を撮っている。バスガイドのような恰好をした女性が二人、きちんと立って、その様子を見ていた。

写真にならないので、ホームの先端へ行き、列車の出発を待った。ホームでは、地元のボランティアの爺さんが、誰にも頼まれないのに、観光客に向かって、駅の案内をしていた。なになに、下の道路は、昔は道路だったそうな。ホーム内の小さな花壇にはコスモスの花が咲いていた。

そのうち、やっと列車が出発した。一瞬、無人のプラッとホームの向こうに海が見えた。構内には、いまだ十数名の観光客がいたが、誰もホームには上がろうとしなかった。なにしろ、この有名な風景を、誰もが知っていて、写真に撮りたいのだから、のこのこホームの上には上がれないだろう。奇妙な静けさが辺りを支配した。この思ってもみない事態に、自分は、ここぞとばかり、しゃしゃり出て、<海に一番近いプラットホーム>を写真に収めた。

ややあって、添乗員らしきおばさんが、ささ、皆さん、ホームに上がって、記念写真をどうぞ、と観光客に声をかけた。すると場が和んで、人が動き始めた。相も変わらず、かわるがわるホームのベンチに座って記念写真だ。すると、さっきのボランティアの案内爺さんが、どこからともなくでてきて、またしゃべりはじめた。その声を背にして、小さな駅舎を出た。

暗い坂道を登って、駐車場にもどった。車を止めた崖際から、正面の海を見て、天気がよければなあ~とちょっと残念な気持ちになった。眼下に赤い防波堤灯台が見えるのに、なにしろ、いまにも降り出しそうな空模様なのだ。記念写真とはいえ、<海に一番近いプラットホーム>もダメだろう。

そこへ、隣のミニクーパーの運転手と連れが戻って来た。運転手は、ややダンディな感じの中年男で、連れは、三十代の楚々とした女性だった。場所柄、一見して、会社の上司と部下だろう。<不倫旅行>か!ま、いい。人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ、というではないか。

ちなみに、帰宅後の画像補正でも、<海に一番近いプラットホーム>は、案の定というべきか、露出不足で、さえない感じの写真になってしまった。まずもって天気が悪い、それに加えて、場所が狭くて<ヒキ>が取れなかった。構図的にも全然ダメだった。まあ~記念写真だから、写真はいいとしても、いくばくかの時間と労力を使って見に行った有名な風景に、ほとんど心を動かされなかった、というのはどういうことなのか?観光地化した風景とは、そうしたものなのだろうか。

<下灘駅>を出発したのは、昼の十二時過ぎだったようだ。海沿いの国道378号線は、<夕やけこやけライン>といって、晴れていれば、きれいな夕焼けが見られるらしい。とはいえ、今日は曇り空、それに、時間帯もまだ昼過ぎだ。道路際に、駐車帯がいくつもあったのだから、一回くらいは止まって、写真を撮ってもよかったかもしれない。

帰りの日が晴れていれば、またこの道を走ってみようかな、などと思っているうちに、市街地に入った。信号待ちしていると、目の上の大きな道路標識に<長浜大橋>という文字が見えた。おっと、これは出発前の下調べで出てきた<日本最古の道路開閉橋>じゃないか。左折してすぐらしい。

ハンドルを切った。商店街のアーケードには、大きく<長浜商店街>とあった。両側びっしり民家、というか商店だ。とはいえ、ほとんど人の姿が見えない。車を止める場所を眼で探しながら、直進していくと、橋の手前で行き止まり、車の通行はできない。だが、都合のいいことに、すぐ右側が、観光駐車場になっていて、無料で止められそうだ。

案内板を確認してから、新設されて間もないであろう、きれいな駐車場に入った。車は一台も止まっていなかった。カメラを一台持って、外に出た。目の前には、古くて大きな、黒っぽい木造建ての、旅館のような建物があった。なにかなあ~と思いながら、近寄ってみると、<坂本龍馬>が立ち寄った場所だと、壁に文字書きされている。奥の中庭の方にも建物が続いているので、ぶらっと見に行ったが、これと言って、写真に撮っておきたいものはなかった。

ちなみに、この豪邸は地元の豪商<冨谷金兵衛>の邸宅で、脱藩した龍馬が、四国最後の夜を過ごした屋敷らしい。そのあと、龍馬は長浜港から船で長州に渡り、京を目指しそうな。現在は、子孫が旅館として建物を維持しているようだ。

踵を返した。駐車場から出て、橋の入り口で立ち止まった。なんと工事中だ。手前半分くらいは白っぽいシートで覆われている。とはいえ、歩行者専用の橋は、歩けないこともない。少し歩きかけたが、すぐに引き返した。天気も悪いし、それに橋の上にいては、橋の全景は撮れない。せっかくここまで来たのだから、記念写真くらいは撮って帰りたい。撮影ポイントを探してみようと思ったのだ。

<長浜大橋>は川にかかる橋ではあるが、ほぼ河口にあるといっていい。右手の下流側には、新しい大きな立派な橋があり、その向こうに海が広がっている。むろん、この橋も撮ったが、別に他意はない。昔<入間川歩行>をしていた時の名残で、橋を見ると、なぜかカメラを向けたくなるのだ。<橋のある風景>というのも好きで、入間川などでずいぶんたくさん撮ったが、絵にするのは難しかった。

<長浜大橋>は、朱色に塗られた堅固なつくりで、しかも、開閉するとあって、ネットで見た時から興味があった。あわよくば、モノになる写真を撮りたかった。だが、情況からして、無理でしょう。いちおう、左手の上流側にも行けそうなので、堤防沿いにぷらぷら行くと、大きな石の灯篭があり、その下が、船着き場のような感じだった。

今思えば、まさに<船着き場>だった。西伊予の山中から流れでる<肱川>の終点で、往時は材木などの集積地だったらしい。<龍馬>が脱藩して、<肱川>を下り、この<船着き場>から、夜陰に紛れて、件の<冨谷金兵衛>の邸宅に入ったであろうことは、まず間違いない。

あの時は、そんなこととは露知らず、気乗りしないまま<船着き場>の端まで行き、向き直って工事中の橋を何枚か撮っただけだ。<龍馬>のエピソードを知っていれば、何でもない<船着き場>が、歴史の光に照らされて、黄金色に輝いたはずだ。惜しいことをした。

車に戻った。一直線の商店街の道を、ゆっくり走って、国道に出た。途中、銀行の看板辺りで、黒っぽい婆さんの背中が目に入った。石畳の田舎の商店街だが、さほどわびしい感じはしなかった。それどころか、地に足のついた、確固たる人間の生活が、町全体をおおっているような気がした。縁のない世界だが、嫌な感じはしなかった。

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