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<灯台紀行 旅日誌>2020年度版

<灯台紀行・旅日誌>2020 愛知編#3 野間埼灯台撮影2

小高い岩場での、至福の時間が終わった。灯台に向かって歩き始めた。今度は、波打ち際ではなく、砂浜の奥の方、つまり、高さ五、六メートルほどの切り立った防潮堤?のそばまで行った。ちなみに、この防潮堤の外側が道路になっている。往路とは違った角度で、灯台を見てみたかったのだが、案の定、灯台の垂直が確保できない。灯台を斜め後ろから見ていることになるので、灯台の先にある岩場との平行関係も崩れてしまう。灯台の垂直を無理に確保すれば、むろん、天地の水平が確保できない。無理して撮る必要のないアングルなのだ。

ま、でも、一応確認しておく必要がある。何しろ、基本は?灯台の周りを、できうる限り回って、その中からベストポジションを見つけることなのだ。見なくてわかることでも、しっかり見ておけば、あとで後悔することもない。

砂浜をぶらぶら撮り歩きしながら、灯台の真下にまで来た。正面に、コンクリ階段が、五、六段あり、その上が広場だ。たしか、この時だと思う。若造がドローンを飛ばしている。広場の上空を飛び回っている。なんでこんなところで飛ばしているんだ、とちょっと眉をひそめて、若造の顔を見たような気がする。だがすぐに気分を変えて、性懲りもなく、灯台正面から何枚か撮った。まるっきりの逆光で、眩しくて、灯台がよく見えなかった。

さらに今度は西側?の砂浜に下りた。こっちは、半逆光。灯台の右側の縁が、少し光っている。明かり的には、イマイチだ。ただし、先ほどの東側?の砂浜と同じで、灯台の垂直も、水平線の水平も確保されている。カメラの性能がアップしたのと、補正の腕が多少上がったのとで、半逆光、いや、逆光の写真でも、構図さえしっかりしていれば、最近はモノにできるようになっていた。しっかり構図を決めて慎重にシャッターを押した。

西側の砂浜は、東側に比べて、極端に狭い。すぐに断崖で遮られてしまう。もっとも、断崖沿いに、岩場を伝い、さらに行くこともできるが、灯台が見切れてしまう。それに、波しぶきをかぶった岩場は濡れていて、なんだか危なっかしいぞ。写真を撮りながら、引き返した。

あと残るのは、海側からの灯台だ。灯台の前は、うまい具合に岩場になっているので、灯台を背景に自撮りができる。観光客がひっきりなしだ。しかし、岩場といっても、それほど海に突き出ているわけでもない。灯台全体を画面に入れるとするならば、かなりの広角撮影になる。それに、背景がよくない。至近距離に特徴のない山がせまっているし、巨大な灯台の胴体には、窓一つなく、のっぺり感がきつい。要するに、野間埼灯台は、正面も背面も、写真にはならない。となれば、左右、というか東西からの側面からの写真で勝負するしかないだろう。

ふと思って、岩場からは早々に引き上げ、砂浜を横切り、上の道路に出た。ガードレールはあるものの、歩道としては狭すぎる。ま、いい。狙いは、少し先にある、道路沿いの施設だ。廃業しているようで無人。その施設に歩道から登りあがった。年甲斐もなく、なぜそんなことを!要するに、一段と高くなった、海を見渡せるその施設の敷地、いや、断崖の縁から灯台を撮ろうというわけだ。

何と記述すればいいのだろう。海を臨んで、こ洒落たバンガローのような建物が、間隔を置いて、幾棟も並んでいる。その一坪ほどの建物の前には、日光浴用の木製の長いすがあり、大きなパラソルが差してある。要するに、日帰りのリゾート施設だろうな。だが、設備もまだそう古くのないのに、廃業だ。素人考えだが、この場所に、セレブっぽいリゾート客を呼び込むのは、無理なのではないか。ここは、知多半島の先端、最果て感はないものの、ややさびれた観光地といった雰囲気なのだ。

話しを戻そう。その、海に突き出た、断崖上のリゾート施設の縁に陣取って、灯台を撮った。もっとも、先ほど、この真下で写真を撮っているので、構図的には、ほぼ変わらない。とはいえ、高い分、水平線がよく見える。景観的にはこちらの方がよろしい。それに、下界を?見下ろす感じなので、気分はいい。カメラをしっかり構えて、ここでも慎重にシャッターを押した。そのあとは少しの間、断崖の縁に腰かけて、ぼうっとしていた。朝っぱらから動き回っていて、少し疲れたのかもしれない。灯台の背後の海が、きらきら光っていた。ふと、いま、大地震が来たら、と思った。この場所は瞬時に崩落するだろう。うしろ手に囲い石をつかみながら、下をこわごわ見た。そうだ、高い所は苦手だったんだ。

この高みの見物も、自分がサル山の猿のような気がしてきて、じきに興ざめしてしまった。夕景の撮影までには、まだ時間があった。車に戻って、バナナでも食べよう。腹は空いていなかったが、栄養補給だ。もっとも、今日の宿は食事つきだ。なんとなく、気が楽だった。駐車場に戻り、トイレで用を足した。出てくると、係のおばさんに声をかけられた。<コーヒーでも飲んでいかない、インスタントだけど>。

係のおばさんと思っていた女性は、この有料駐車場を取り仕切っている、ま、いわば所有者だった。売店らしき雑然とした小屋に入っていくと、カウンターらしきものがあり、おばさんがコーヒーを作ってくれた。砂糖とミルクは自分で、その辺にあった瓶から入れた。どこから来たの、とか雑談していると、小柄な爺が入ってきて、おばさんにコーヒーを作らせている。旦那なのか、身内なのか、定かではない。が、おばさんとはかなり気安い間柄なのが話しぶりでわかる。物静かな漁師といった雰囲気を漂わせていた。そして、しばし、三人で<川越>とか<翔んで埼玉>などの話をして盛り上がっていた。

と、そこに、さっきのドローンの若造がやってきて、目の前の台に、ドローンを置いて、おばさんと気安く話し出した。知り合いなのか?黙って聞いていると、何やら、先生とか言っている。え、と思って、腰パンっぽいジャージーにパーカの若造をちょっと見た。どうやら、何回もここにきて、ドローンを飛ばしているらしい。今日の朝は、カワウの群れを撮ったとか話している。

自分としては、めずらしく気分がよかったのだろう。若造にドローンのことを少し聞いた。その時、マスクの上の目を見た。やや知的な感じがした。おばさんが言うには、歯医者さんらしい。しかし、その後の話ぶりや内容が、どうもうさん臭さかった。今使っているのはと、台の上に載せたドローンをいじりながら、16万のドローンで、8万も出せば、性能のいいものが買える。自分の知り合いも、カメラからドローンに転向した。操作方法は簡単で一日でマスターできる。自分が教えた。広告収入が30万ほどあり、それがこれだ。とスマホを見せてくれた。

なるほど、ユーチューブに、かなりたくさんの作品をアップしているようだ。内容的には、いろいろで、うける感じのものを狙っている。アカウント名を聞いた。<LL>とか言ったが、言葉を濁した。見ればわかるとか言っている。話しぶりが、やや尊大で、これ以上話していると嫌な気持ちになりそうなので、おばさんに、ごちそうさまと言って、小屋を出た。歯医者か!話しかけたのが間違いだった。

車に戻った。バックドアーを開け、車体に腰かけ、持参したバナナを一本食べた。おそらく給水もしたと思う。それから、夕景撮影のことを少し考えた。おばさんが言うには、<絆の鐘>の右横あたりに陽は沈むらしい。となれば、撮影ポイントは、広場に隣接する西側の砂浜で、しかも、道路に近い所だろう。時計を見たに違いない、三時半を回っていた。陽は大きく傾き、地上の事物がかなり赤っぽくなっていた。日没は四時半だ。さあ行くか、靴の紐をしめなおした。

To be continued

<灯台紀行 旅日誌>と<花写真の撮影記録>
<灯台>と<花>の撮影記録
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