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梅も桜も桃もみんな



2023.3.28

夕方、散歩にでた。パートナーとけんかしてむしゃくしゃした気分のまま歩いた。ずっと下を見ていた。ふと視線をあげたとき、突如ロックが解除されたような、視界がクリアになった気がした。体が変わると気持ちも変わるんだ、となんべんも思っていることを、今日もこうしてまた思った。おなじことを毎回新鮮に感じている私はお馬鹿なのかおめでたいのか。

森に入り、遠回りのコース。それはそれは大きなエノキの木があるのだが、今日はなんとなくそうしたくてよじ登ってしばらくそこで過ごした。背中と手と足を大木の木肌に寄り添わせ、なにも考えず天を仰ぐ。そのうちさっきまでお腹のあたりがぴきぴき緊張していたのが、まるでお腹のなかにすうっと光の玉が入ったみたいにどんどんほぐれていく感じがわかった。なんて魔法だろう。 

木に触れているとこんなに癒えていくんだ、と薄目をあけてまどろんでいたら、ふと視界の右側になにやらちょこまかとうごくものが。たぬきだ。森でたぬきを見かけたのははじめてで、おもわずひゃあ、とへんな声がでた。声にびっくりしたたぬきは、木の上でおかしな格好でへばりついている私を一瞥するとすたすた逃げて行った。今まで鎌倉でも住宅街の夜道では遠目に見たことがあったが、こんなに間近ではっきり遭遇したことはなかったのでうれしかった。私のほかにもちゃんとここに生き物がいるんだということが傷心状態からいくらか救ってくれた。たぬきは森が似合う、また会えたらな、と思ってそうっと木を降りた。昼過ぎまで雨降りだったので道はどこもぬかるんでいて、足がどこまでものめり込んでいきそうだったが、地面の深さを知れた気がした。


2023.3.29

午前中は仕事。昼は紫豆と大豆ミートでトマトチャーハン。近くの満開の桜並木を眺めつつ、歩いて鎌倉へでて段葛の桜をちらっと見物。今年は梅をじっくり見たかわりに桜はあっさりだったな、というかあっというまに暖かくなってタイミングがいつもの体感とややずれていたな、と思いつつ八幡宮に寄って引き返し、鍼灸院へ。終わるとすこし肌寒かったが、体はとても楽になった。かなやで立派な葉つき大根やまんまるレタスなどを買って、脇に抱きかかえながら家まで歩く。春休み終盤を満喫する観光客と沢山すれ違う。

落ちた花びらたち
近くの桜並木


2023.3.30

今日も薄曇り。森へ。広場で保育園児たちがわーわー言っている横で、ハイキングのおじいさんおばあさんの集団もわーわー言ってる。これから長い長い人生が待っている人たちも長い長い人生の終わりに差し掛かっている人たちも今日という日を愛しんで生きている姿はなにも違わないんだなあと思う。仕事をしていると、連絡をとっていたSさんが鵠沼海岸に引っ越してきたばかりと知り、腰越のカフェで会うことに。つい先日まで真冬の白馬にいて、これからはサーフィンを楽しむためにこの辺りを選んだそう。近況報告など二時間くらいおしゃべり。昼はTシャツ一枚でいいけど夕方はダウンを着たいくらい寒い。いつかの五月のシチリアみたいな寒暖差。散歩中のパートナーとばったり合流して、買い出しして帰宅。夕飯はレタスとトマト、刺身をすこし。ポテトチップスをかじりながら公開当時にも観た「ジョジョ・ラビット」をみる。最後やっぱりぐっときて、ちょとだけ泣いちゃうんだよねえ。主人公の男の子もいいし、母親役のスカーレットヨハンスンの演技が最高。


2023.3.31

たまにくる「今日はどうしても美味しいものが食べたい!」の日。ということでランチはecomoレストランへ。前回とおなじ大豆ミートのミートソースパスタをミニサラダセットで注文。ああ美味しかった!そのまま帰るつもりだったのに、再来週辺り見にいこうかと言っていたパートナーの育った山梨県御坂の桃の花が満開を過ぎているとの情報を得て、スケジュール的に今日行くしかないとなりそのまま向かうことに。なんだか昨日につぎ今日も急遽で動いてる。ecomoからだと1時間20分で到着。曇天の桃畑を歩き、パートナーが昔住んでいた家まで行くと今の住人のひとが移動販売車で買い物をしている最中だった。桃と桜が両方たのしめる高台の公園に行くとさっと雲間がひいて晴れた。古墳の丘から見渡す甲府や御坂一帯の盆地の眺めもよかった。桃の花は梅より桜より大きくて主張があり、これがあのずっしりたわわな甘い甘い果実をならせるのかと思うと納得した。今年は梅に始まりわずかにも桜、桃と堪能できた。

絶景温泉ランキングで四年連続一位という見晴らしの丘に立つ温泉へ。硫黄臭い、いかにもな温泉でよかった。夕暮れから夜にかけて入ったので、空の移ろいや街の明かりが灯っていくようすがきれいだった。七時半ごろ地元の割烹料理屋に入る。店は大忙しで、夫婦ふたりでなんとかまわしている。メニューにあった海鮮鍋が気になり、鍋ならきっと材料を盛るだけだし手間かけずにできそうだよねというのもあり頼もうとすると、大将らしき人が眉間に皺を寄せて「無理。あのねえ、ふつうこの時間から鍋は頼まないよ」とストレスいっぱいの顔で言ってきたのでシュンとして、揚げ出し豆腐、焼き茄子、もずくを注文。パートナーは刺身定食の上を頼んだが、十種類以上もの魚や貝がこれでもかと乗った皿にもずく、豆腐、もやしとわかめのナムルの小鉢までついて千五百円もしなかったのにはおどろいた。夜の高速はすいすい進む。流れ星みたいに。

里山の桜
桃の花






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