時代劇レヴュー⑲:「太閤記」あれこれ(1987年、1993年、2003年、2006年)

以下の作品、いづれも豊臣秀吉を主人公とした作品、所謂「太閤記」であり、便宜的に古い作品から順番に番号で表す。

タイトル:①太閤記 ②天下を獲った男・豊臣秀吉 

     ③太閤記・サルと呼ばれた男 

     ④太閤記~天下を獲った男・秀吉~

放送時期:①1987年1月1日 ②1992年1月1日 

     ③2003年12月27日 ④2006年10月~12月(全六回)

放送局など:①TBS ②TBS ③フジテレビ ④テレビ朝日

主演:①柴田恭兵 ②柳葉敏郎 ③草彅剛 

   ④三代目中村橋之助(現・八代目中村芝翫)

脚本:①高田宏治、野波静雄 ②高田宏治 ③福田靖 

   ④渡辺善則、塩田千種、小木曽豊斗


豊臣秀吉ほど多くの映画・ドラマに取り上げられる人物も稀であろう。

戦前から秀吉の立身出世譚は庶民に人気があり、現在で「朝鮮出兵」に代表される秀吉の負の面が強調されるようになったせいか、人気と言う点では信長に劣る感があるものの、それでも歴史ドラマでは定番的な人気のある題材の一つと思われる。

ここでも過去にテレビ東京で放送された「豊臣秀吉 天下を獲る!」を取り上げた(「時代劇レヴュー⑫」参照)が、それ以外にもNHK大河ドラマを始め多くの秀吉を主人公にしたテレビドラマが存在する。

所が不思議なことに、秀吉が主人公の作品は、どれも大きく史実を外していたり、「おちゃらけているような」作風だったりと、民放各局の作るドラマは言うに及ばず、NHKでもすら幾分その気配がある。

元々が庶民に好まれる娯楽色の強い「お話」として語られることが多かったせいもあるだろうが、秀吉の場合、その出自の不確かさも含めてフィクションの要素が概して強いような気がする。

以下に紹介する四作品は、方向性こそ違えいづれもかなりフィクション色の濃いものである。


秀吉を主人公にしたドラマは色々あるが、個人的に良くも悪くも個性がどぎつく、インパクトの点でナンバー1「太閤記」だと思うのが、①のTBS版「太閤記」である(ちなみに、本作の監督は巨匠・岡本喜八)。

これはTBSが元日に放送した大型時代劇の第一弾で、この作品以降、十作品が放送された。

以前に紹介した同シリーズの「織田信長」(「時代劇レヴュー⑬」参照)もそうであるが、このシリーズの作品は概して史実に忠実と言うよりもエンターテイメント性を重視している感があり、この「太閤記」も山崎の合戦までの秀吉の半生を描いた作品であるものの、民放でもここまでのものは珍しいと思うくらい、異様なほどの史実無視が目立つ作品である。

もう面白ければ何でも良いと言わんばかりで、ある意味正月の出し物らしい、非常に大らかな作品と言える。

物語は秀吉と明智光秀の関係を軸に進み、それが最終的に山崎の合戦に行き着くわけなのであるが、善玉=秀吉、悪玉=光秀のコントラストが非常にはっきりしていて、特に序盤での光秀は野心家で、自分の野望達成のためには手段を選ばない冷酷な人物に描かれている(光秀役は千葉真一)。

光秀では最初今川義元に仕え、桶狭間の戦いの際には義元の参謀役と言う設定も、これまたへんてこであるが、他にも史実と異なると言うより常識的に考えてもおかしなシーンが散見されるのも、この作品の特徴である。

例えば、桶狭間の戦いの際に信長は甲冑を着けずに普段着みたいなラフな出で立ちのまま合戦に出ていくし、明智光秀が足利義昭を撃ち殺したり(さらにその時に光秀が使った鉄砲には火縄こそついているものの、光秀は明らかに火縄に点火せずに発砲している)、本能寺では信長と光秀が一騎打ちの末、光秀が信長の首を取ってしまうし、山崎の合戦のラストでは、追い詰められた光秀が秀吉の前で壮絶な自害をして大団円になるなど、ほとんど後半の展開は呆れるを通り越し、むしろ笑ってしまう。

ここまで破茶滅茶にやると、もはや一々突っ込むのも野暮と言うもので、昔の大らかな時代劇がどんなものだったのかを知ると言う点では恰好の事例でであろうし、開き直って見ると案外楽しいかも知れない。


同じシリーズで六年後に制作された「改良版」と言うべき作品が②で、こちらも史実と違う部分はだいぶあるが、①と比べるとだいぶマイルドになっている(もっとも、光秀が野心家で序盤で今川義元の軍師を務めていると言うへんてこな設定は健在であるが、ただ比叡山焼き討ちに光秀が協力的なのは、却って史実通りで良い)。

そして、この②の特徴と言えば、当時のトレンドをいち早く取り入れてこの手の時代劇としては結構斬新な描き方もしていて、そう言う意味では今見ると面白い作品である。

例えば、序盤の展開は当時「新史料」として注目されていた『武功夜話』(余談ではあるが、現在同書は「偽書」と疑いが濃厚になり、歴史学の史料としてはほとんど顧みられなくなっている)を下敷きにして、生駒屋敷が出てきたり、秀吉が最初生駒屋敷で働いていたり、「川並衆」と言う単語が出てきたり、秀吉の部将では蜂須賀正勝と並んで前野長康にスポットが当たったり。

また、本能寺の変においても朝廷黒幕説を採用しているのも当時のトレンドを反映したものであろうか(ただし、光秀をそそのかすのは、勧修寺前子と言う、誠仁親王の女房の勧修寺晴子をモデルにしたような架空の人物であるが)。

キャストにも「トレンド」の傾向が見られて、秀吉役には柳葉敏郎、寧々役に財前直見、また明石家さんま・ジミー大西コンビをゲスト出演させたりと、このシリーズにしては珍しい「若手」を意識したキャスティングである。

信長役が世良公則なのも従来とは違うキャストで攻めた結果かも知れないが、彼の信長は意外と、と言うかかなりはまって、風貌もそうであるが、流石に歌手だけあって「敦盛」の声も朗々としていて聞きやすい。

キャストでは他に、柳葉に加えて、沢口靖子(お市役)、真田広之(浅井長政役)、高橋悦史(柴田勝家役)と、これよりも少し前に放送された大河ドラマ「太平記」の出演者が、主要キャストとして相互に絡むのも面白い(沢口と真田は、「太平記」でも夫婦役であったし、もっと言えば1987年の大河ドラマ「独眼竜政宗」でも夫婦役を演じた)。

さらに、この直前まで放送されていた大河ドラマ「信長」(「時代劇レヴュー⑰」参照)で、お市役を務めていた鷲尾いさ子が信長の側室・吉乃役で出ているのも、どこか大河ドラマを意識したのかと邪推したくなるようなキャスティングである。

個人的に高橋悦史の柴田勝家は、単細胞で下品にならず、それでいて秀吉を忌み嫌う憎々しい感じも出ていて、歴代の勝家を演じた俳優の中でもかなりのはまり役だったと思う(総じて高橋悦史は何をやらせてもうまいが)。

キャスト自体は概ねはまっているのであるが、個人的は史実と違うことよりも全体的に雑な所が気になり、どうでも良い描写が多い割には、本能寺の変に至る経緯とか清須会議などはかなりあっさりしているし、中国攻めも出陣したかと思ったらすぐに高松城を水攻めにしているし、時間の関係か小牧長久手がばっさりカットされているのに、ラストシーンは大坂城での家康との会見なのも何だか妙な感じである。

意欲的な試みもしていると思うだけに、そう言う雑な部分がいささか勿体ない気がした(後、どうでも良いが高田宏治の勘違いか、①でも②でも浅井長政の官職名が「備前守」ではなくて「備中守」と微妙に間違えている)。

③は、「太閤記」と言うタイトルだったので、一応このレヴューに加えたが、作品としてはほとんど取り上げる価値もないほど出来の良くない作品である。

一つだけこの作品の意義を書くとすれば、作中で秀吉は終始「人を殺すのが嫌い」というコンセプトで描かれているのであるが、2000年以降巷にあふれるようになった作風に露骨な現代的視点が交じる時代劇と言うのは、案外この作品が嚆矢のような気がする(あくまで印象であってちゃんと調べたわけではないが)。


最後に紹介する④は、2006年の秋のクールにテレビ朝日で放送された連続時代劇で、全六話であるが初回と最終回が時間拡張版なので実質的には八話の分量がある作品である。

秀吉が信長に仕えるあたりから始まって、賤ヶ岳で柴田勝家を倒し、大坂城を築くあたりで話は終わっており、秀吉のサクセスストーリーのみに光を当てた昔ながらのオーソドックスな太閤記と言えるであろう。

2000年代に入って作られたとは思えないくらい古風な秀吉の描き方で、目新しい解釈はほとんどなく、人物の描き方も概ねステレオタイプである。

強いて言えば、足利義昭が光秀を明確に唆して本能寺の変を起こさせるような描写があるので、そのあたりが唯一当時流行った説を取り入れた所であろうか。

で、この作品もご多分に漏れず史実と違う部分が多いのであるが、注意深く見ると意外と手堅く作っている所もあったりする。

例えば、個人的には竹中半兵衛と秀吉の絡みなどは、若干漫画チックではあるものの、ある程度しっかり作っている印象で、天宮良演じるの半兵衛が結構はまっていて、映像化作品で登場する半兵衛としては私はこの作品の「天宮半兵衛」が一番好きだったりする。

死の間際に、信長の猜疑心を避けるように秀吉に進言するあたりも、良い描写ではないだろうか。

全体を通じて、役としては村上弘明演じる信長の存在感が頭抜けており、特に後半の狂気を帯びた感じの信長の感じは非常に良く、個人的には「冷酷な独裁者」としての信長の雰囲気を伝えるキャスティングとしては、高橋幸治(NHK大河ドラマ「太閤記」、および「黄金の日日」の信長役)と並んで双璧である。

もう一つ、この作品くらいしか見たことのない珍しいシーンとしては、中国大返しに際し、安国寺恵瓊を丸め込んで信長の死を隠して和議を結ぶのではなく、秀吉が小早川隆景の陣を訪れて信長が死んだことを明かし、「追撃出来るならやってみろ」みたいな感じで啖呵を切って引き上げを行う描写がある。

これは良くも悪くもかなりインパクトのある描写で、私もリアルタイムでこれを見た時はびっくりしてしまったのであるが、後で知った所によれば、一応この話には元ネタとなる軍記物があるようで、他の作品にはないオリジナリティと言う点ではありなのかも知れない(他にも、台詞の中のみでの登場とは言え、墨俣築城をしくじった武将として織田掃部の名前が出てくるなど、本作は作り手が細かいことも把握した上で意図的に史実を崩している感があった)。


長くなったついでに、秀吉が主要キャストとして登場するが、やっぱり史実と違う「ぶっとんだ」展開のドラマをもう一つだけ最後に紹介したい。

2007年の1月3日にフジテレビで放送された時代劇「明智光秀~神に愛されなかった男~」は、タイトルの通り唐沢寿明演じる光秀を主人公に、信長の上洛から坂本落城までを描いた作品で、光秀と秀吉の関係を軸に物語を展開させている。

作品自体は、同じフジテレビで放送された上記③と同じく、現代的価値観が露骨に出て光秀を単なる「いい人」に描くだけのもので、正直わざわざレヴューする価値もない作品であるが、クライマックスである本能寺の変に至る光秀の動機も、説得力に欠けると言うか「なんだそりゃ」と言う感じの「動機」である(強いて言えば、最近小和田哲男が唱えている「信長非道阻止説」に似ている)。

一番びっくりしたのがラストで、秀吉と光秀が鉄砲で一騎打ちするシーンなのであるが、こうなるともう「斬新」の方向性を間違っていると言うより他はない(笑)。


以上、今回はだいぶ個人の主観が反映されたレヴューであったが、取り上げた作品は④以外はいづれもソフト化がされている視聴が容易であるので、「太閤記」を見る際の何かの参考にでもなれば幸いである。


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