続・時代劇レヴュー⑲:花の乱(1994年)

タイトル:花の乱

放送時期:1994年4月~12月(全三十七回)

放送局など:NHK

主演(役名):三田佳子(日野富子)

脚本:市川森一


かつて「炎立つ」をレヴューした時にも書いたが(「時代劇レヴュー㊶」参照)、NHKの所謂大河ドラマは、1993年~1994年の期間、放送枠を変則的にし、従来の一年枠よりも短い放送話数での作品を計三作品放送した。

これが不評であったために、1995年からは元の一年の放送枠に戻して現在に至っているが、その変則的放送時期の最後の作品が1994年4月~12月に放送された「花の乱」である。

本作は日野富子を主人公に、「応仁の乱」を中心とした室町時代中期の政治模様を描いた作品であり、2020年現在、室町時代中期を扱った唯一の大河ドラマである。

一般には知名度が低い時代を扱ったために視聴率は振るわず、2012年に「平清盛」が記録を更新するまでは、歴代平均視聴率が最も低い作品であった。

インターネットの普及や中世史の啓蒙書・入門書籍が増えた現在であったら、もう少し違う反響があったかも知れず、その点では「早過ぎた」作品と言える。

内容自体はかなりこだわって作っていて、「悪女」として評価されてきた日野富子を新解釈で描き直し、また台詞内で登場人物は極力通称や官職名で呼ばれたりしていた(例えば、将軍足利義政は「御所様」と呼ばれ、細川勝元は「右京大夫」と呼ばれている)。

キャストの話題性も多く、歌舞伎界からは七代目市川新之助(現・十一代目市川海老蔵)がこの作品でテレビデビューしたり、狂言界からは野村萬斎を細川勝元役で起用したり、九代目松本幸四郎(現・二代目松本白鸚)の次女・松たか子もこの作品がデビュー作で、新之助は実父・十二代目市川團十郎演じる足利義政の青年時代役、松たか子は主人公・日野富子の少女時代の役で、実父・幸四郎の娘役でもあり、「親子共演」も話題になった。

他にも、TOKIOとしてデビュー直後の松岡昌宏が富子の子・足利義尚役を演じたり、当時まださほど知名度が高くなかった今井雅之、生瀬勝久らも出演していて今見ると興味深く、脇を固める面々も京マチ子、萬屋錦之介など大御所が並び、キャスティング的にはかなりバラエティ豊かであった。

ヴェテランの市川森一が脚本を務めたためか、かなり細かいエピソードも拾っており、室町時代に興味があれば随所で楽しめる展開にはなっているが、一方で馴染みのない題材の中で視聴者の興味を引くためか、かなりエピソードを改変している箇所が多く、山名宗全、細川勝元、日野勝光、足利義尚などは史実とは異なる死因で描かれ(元ネタとなるものはあるが)、日野富子は実は日野家の血を引いておらず、本来の富子が病で盲目となってしまったために取り替えられたと言う大胆な創作が入っていたりする。

取り替えられた本来の富子が、一休宗純の恋人・森侍者(演・檀ふみ)で随所で富子周辺の人々と絡む設定であったり、富子が幼少時に預けられていた場所が後に山城国一揆の中心地となる荘園で、富子の義兄・伊吹三郎(架空の人物、演・役所広司)が一揆の中心人物となるなど、種々の創作には伏線が用意されているのであるが、ただ個人的にはいささか創作が過ぎる印象で、変に力が入り過ぎて空回りした感がなくもない。

個人的には史実の部分の展開だけでも十分面白く、富子の生い立ちのエピソードなどは蛇足な創作の気がするが、このあたりはマイナーな題材を扱うがゆえのNHKの試行錯誤なのであろうし、そう言う面でもやはり本作は「早過ぎた」作品と言う印象が強い。

最後は個人的な願望になってしまうが、状況は当時と変わっているだろうから、NHKには今度は無駄な創作なく史実重視路線で、室町時代中期を題材にした作品を作って欲しいものである。


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