続・時代劇レヴュー㊽:遠山の金さん・三河町半七・銭形平次など捕物帳あれこれ

今回は特定の作品ではなく、「捕物帳」に関連する作品を思いつくまま適当に紹介していく。

これまでこのレヴューで扱ってきた作品は、大河ドラマを始めとする史実をベースにした作品が多かったが、「時代劇」として一般に連想されるのは、勧善懲悪型の所謂「チャンバラ時代劇」作品ではないであろうか。

このタイプの作品は、柴田錬三郎原作の「眠狂四郎」や、佐々木味津三原作の「旗本退屈男」シリーズ、林不忘原作の「丹下左膳」シリーズなどを取り上げてきたが、繰り返しテレビドラマ化され、長寿シリーズ作品としては、水戸藩主・徳川光圀の諸国漫遊の講談をベースにした「水戸黄門」や、江戸時代後期の町奉行・遠山景元の活躍を描いた「遠山の金さん」シリーズなどが挙げられるだろう。

後者の「金さん」は、チャンバラ時代劇であるのと同時に「捕物帳」と言うジャンルにも含まれるかも知れない。

捕物帳は元来は町奉行所の記録であるが、近代以降は「捕物(犯人逮捕)」、すなわち江戸時代を舞台にした犯罪事件を扱った時代小説のジャンル名として使用され、岡本綺堂の『半七捕物帳』、野村胡堂の『銭形平次捕物控』などが代表的作品で、現代劇で例えれば刑事ドラマとミステリーを合わせたような作風のものが専らである。

こうした捕物帳では、たいてい目明かし(正式には「御用聞き」と呼ばれ、「岡っ引き」と言う俗称もある)や、町奉行所の同心などが主人公となるが、町奉行が主人公となって事件を解決するタイプの作品も広義の捕物帳に含めて良いであろう。

前述の丹下左膳や眠狂四郎がアウトロー的性格の強いヒーローなのに対し、捕物帳の主人公は体制側のヒーローと言うべき存在で、その点はまさしく現在劇の刑事ドラマに比すべきジャンルである。

奉行が主人公になる作品では、「大岡越前」と「遠山の金さん」が双璧と言うべき存在で、前者は八代将軍徳川吉宗の治世において江戸南町奉行を務めた大岡忠相(「越前」は彼の受領名の「越前守」に由来する)、後者は前述の遠山景元をモデルとする。

大岡忠相の活躍を題材にしたものは、すでに江戸期から存在し、一般に「大岡政談」と総称されるが、中国の「包公案」(北宋時代に名裁判官と呼ばれた包拯を主人公とした裁判小説)から借用されたエピソードも多い。

大岡越前も多くの俳優によって映像化されているが、おそらく最も著名なものは1970年から1999年まで断続的にTBSで放送されていた加藤剛主演の「大岡越前」シリーズであろう(私自身も大岡忠相と言うとまず加藤剛のイメージが浮かぶ)。

一方の遠山景元は、江戸時代後期の天保~弘化期に町奉行を務めた人物で、「金さん」は彼の仮名である「金四郎」に由来する(作中、および史実で景元が町奉行時代に称していた官途名は「左衛門尉」であり、また彼は北南両町奉行を歴任している珍しい人物である)。

タイトルは作品によって様々であるが、概ね「遠山の金さん」ないしは「金さん」と言う単語がタイトルに入ることが多く、作中で景元は「遊び人の金さん」と呼ばれる町人に扮して密かに事件を捜査し、クライマックスである白洲では、桜吹雪の彫り物を見せて悪人を裁くのがお決まりのパターンである(それ以前に金さんが悪事の現場に登場して彫り物を悪人達の前で見せ、白洲でしらを切る悪人達に対して、彫り物を見せて正体を明かすことで証拠を突きつけると言う意味合いがある)。

「金さん」役は映画での片岡千恵蔵を始め、中村梅之助、橋幸夫、杉良太郎、高橋英樹、松方弘樹、西郷輝彦、里見浩太朗、松平健など錚々たる時代劇スター達がこれまでに演じている(それらの中で、最も新しい作品はTBSで2017年、2018年に放送された松岡昌宏主演のシリーズであり、2020年5月現在二作品が放送されている)。

このうち最も放送話数が多く、長い年月に渡って「金さん」を演じたのが松方弘樹で、私自身も松方版が最も多く目にした「金さん」(「名奉行 遠山の金さん」シリーズ、1988年~1998年、テレビ朝日放送、全九シリーズ全二百十九話)であるが、個人的に最も印象に残っているのは高橋英樹版「遠山の金さん」(1982年~1986年、テレビ朝日放送、全二シリーズ全百九十八話)である。

私が最初に見た「金さん」がこの高橋英樹版であることや、手ぬぐいを武器に使うと言う斬新な設定もあって記憶に残っているが、時代劇では武士の役が多い高橋が、実際の身分こそ武士であるものの、町人姿での登場が多い「金さん」を演じたのも珍しかった。

また、TBSでやはり長期に渡って放送された「江戸を斬る」シリーズ(前出加藤剛主演「大岡越前」シリーズと同じ放送枠)も、遠山景元が主役であるが、こちらは他の「金さん」とは一線を画す独自路線の作品である。

1975年~1981年まで放送された五シリーズは、西郷輝彦主演の人気シリーズで、これによって西郷輝彦は時代劇俳優としての揺るがぬ地位を築いたと言って良いだろう。

颯爽とした青年奉行(史実では、遠山景元が奉行になったのは五十歳間近で、かなりのヴェテラン官僚なのであるが)を演じる西郷輝彦が格好良く、また本作では景元は若気の至りで彫り物を入れてしまったことを恥じており、余程のことがないと桜吹雪は見せない設定で、「桜吹雪」をトレードマークにしている多くの作品と異なる、本作のオリジナリティである。

また、他の「金さん」作品に比べると、この「江戸を斬る」は水野忠邦や千葉周作、徳川家慶など、同時期に活躍した実在の人物が多くストーリーに絡むと言う特徴があるが(他の「金さん」作品では、景元のライヴァル的存在として、南町奉行の鳥井忠耀こそ登場するものの、それ以外ではあまり実在の人物は登場しない傾向にある)、景元の庇護者的な存在である前水戸藩主・徳川斉昭のみは史実と異なり、「水戸黄門」を思わせる老人の設定である(天保年間にはまだ斉昭は隠居しておらず、年齢も四十代である。ちなみに斉昭を演じているのは森繁久彌)。

なお、設定こそリセットされているが、西郷版の後を受ける形で計二シリーズ放送された里見浩太朗主演の「江戸を斬る」(1987年、1994年)は、里見演じる遠山景元がこれはこれで西郷版はまた別の魅力があるものの、設定に関しては他の「金さん」同様、ほぼ毎回お白洲で桜吹雪を見せて悪人を裁く展開であった。

個人の思入れや主観がだいぶ入っているとは思うが、数ある作品の中で私は高橋英樹版と里見浩太朗版が最も好きである。


目明かしが主人公になるものとしては、前述岡本綺堂の『半七捕物帳』が元祖的作品であり、日本における推理小説・探偵小説の草創期の作品としても著名である。

著名な作品であるだけに、やはり現在に至るまで数多く映像化されており、テレビドラマでは七代目尾上菊五郎、露口茂、森繁久彌、里見浩太朗、真田広之などが演じている。

ただ、映像化作品は岡本綺堂の原作に忠実なものから、かなりアレンジされているものまで様々であり、私が最初に見た「半七捕物帳」である里見浩太朗版は、かなり原作と異なる作品であった。

この作品は、1992年10月から1993年3月にかけて日本テレビで放送されたもので、里見浩太朗は「長七郎江戸日記」シリーズなど、同時間帯で度々主演を務めているが、武家役を演じることの多い里見が珍しく町人役を演じており、またこれも同時期の彼にして珍しく、独身ではなく中年の妻子持ちと言う設定の役を演じている(ただし作中ではすでに妻は死去したことになっている)。

この作品では、舞台は明確に文政年間に設定され、天保期を舞台とする原作とはその点でまず異なっており、他にも半七が中年で十代半ばの娘がいると言う設定も他の映像化作品にはない設定である。

とは言え、登場人物の大半は原作に登場するキャラクタ名を踏襲しており、設定こそ違うものの、半七の子分の庄太(他の映像作品では、どちらかと言えば別の子分である松吉の方が登場頻度が高い)、ライヴァルである目明かしの鳥越の長次、その子分である熊蔵、半七の上司にあたる同心の小山などはいずれも原作に登場している(他に、半七の親分の名が吉五郎で、その娘を半七が娶ったと言う設定も原作を踏襲したものである)。

このうち、長次は山城新伍が演じており、半七とはかつての恋敵の間柄で、普段はライヴァル視しているものの内心では一目置いていると言う屈折した友情関係は、同じ東映の時代劇俳優ではあるがキャラクタの異なる里見・山城をどことなく反映した感じになっていて(里見が東映ニューフェイスの三期で、山城は一年後輩の四期)、作中における二人の掛け合いも面白い(個人的には、長次と丹古母鬼馬二演じる子分の熊蔵のコミカルな掛け合いも好きである)。

他の捕物帳作品同様、エピソードによっては高位の武家が黒幕と言うパターンがあり、その場合は白川楽翁(前老中松平定信の隠居名で、演じるのは丹波哲郎)が半七の後ろ盾として協力するが、これも当然ながら原作にはない本作のオリジナル設定である。

映像化作品の中でも少し変わったパターンとしては、1987年4月にテレビ朝日で放送された単発作品の「半七捕物帳 十手無用の仮面舞踏会」がある。

この作品は二部からなり、前半が江戸期を舞台にしたもので、後半が明治期が舞台で、若い頃に関わった未解決事件に隠居した半七が挑むという筋立てになっている。

前半の若い頃の半七を西郷輝彦が、後半の隠居後の半七を森繁久彌が演じており、原作の設定(明治期に隠居した半七老人から若い頃の話を新聞記者が聞く形で話が進む)を意識したようになっているのは面白い。


『半七捕物帳』と並ぶ捕物帳小説の代表的作品としては、投げ銭を使うことを得意とする目明かし・平次が活躍する野村胡堂の『銭形平次捕物控』があり、こちらも「銭形平次」のタイトルで度々映像化されている(野村胡堂は『半七捕物帳』と差別化を図るために、舞台を江戸時代前期の寛永年間に設定しているが、映像化作品では概ね江戸時代後期が舞台となっている)。

最も著名なものはギネス記録も持つ大川橋蔵の「銭形平次」であろうが(同作はフジテレビ系で十八年にわたって放送され、合計話数八百八十八回は道一の俳優が同一の人物を演じた回数としては史上最多記録である)、他にも長谷川一夫、若山富三郎、里見浩太朗、北大路欣也、風間杜夫、村上弘明などが演じている。

この中で、個人的に印象に残っているのが、1987年に日本テレビで四十話にわたって放送された風間杜夫版「銭形平次」で、当時三十代の風間が粋な平次を好演している(ちなみに、平次は原作では三十一歳の設定なので、風間以降に平次を演じた北大路や村上に比べると、年齢的にもよく合っているように思う)。

風間は日テレ「年末時代劇スペシャル」において演じた浅野内匠頭や松平容保のような高位の武家も似合うが、平次や鼠小僧次郎吉(同じ日本テレビの時代劇「八百八町夢日記」において演じている。「続・時代劇レヴュー㉗」参照)のような江戸弁を捲し立てる町人の役もよくはまる印象がある。

「半七捕物帳」や「銭形平次」に比べると知名度は一段落ちるかも知れないが、『人形佐七捕物帳』もまた度々映像化されてきた作品である。

同作は「金田一耕助」シリーズなどで知られる横溝正史原作の小説で、江戸時代後期を舞台に、「人形のように良い男」であることから「人形の親分さん」と通称される目明かしの佐七が、得意の推理で事件を解決する筋立ての作品で、他の横溝の作品と同様、猟奇的な事件や官能的な描写が多いことも特徴である。

これまでに若山富三郎、松方弘樹、林与一、片岡孝夫(現・十五代目片岡仁左衛門)、堤大二郎、要潤など、原作を反映して「二枚目」を演じることの多い俳優が演じている(現状で最も新しい映像化作品は、2016年にBSジャパンで放送された要潤版である)。

このうち、堤大二郎版は1990年9月と1992年4月の二回にわたってテレビ東京で放送されてた二時間の単発時代劇で、放送局こそテレビ東京であるが、ユニオン映画が制作を担当しており、同じく同社が制作を担当した日本テレビの年末時代劇スペシャルや火曜8時台の時代劇と作風やキャストが似通っている(主演の堤大二郎自身が日テレ時代劇への出演が多く、また第一作目では西郷輝彦が将軍・徳川家慶役、第二作目では里見浩太朗が北町町奉行役で出演している)。

佐七の「上司」に当たる町奉行所与力役で、過去に佐七を演じた林与一が出演しているのも面白いキャスティングである。

ただ、第一作目では原作通り「人形のような良い男」であることが通称の由来であるが、第二作目では「人形町」に住んでいることが通称の由来として説明されており、意図のよくわからない原作の改編がなされている(ちなみに、原作における佐七の居所は神田お玉ヶ池である)。


ここまで紹介した半七や平次、佐七は言うならば「正統派」の目明かしであるが、これらに比べると異端の目明かしが活躍する作品である「岡っ引どぶ」も印象的な作品である。

同作は『眠狂四郎』シリーズなど数多くの時代小説を手がけたことで知られる柴田錬三郎が原作で、過去に山崎努と田中邦衛主演によって二度映像化されている。

このうち田中邦衛版は、フジテレビで1981年から1983年まで断続的に六作品が二時間枠の単発作品として放送され、その後、1991年に全七話の連続ドラマとして放送されている。

同作は、江戸時代後期の文政年間を舞台に(原作では天保年間の遠山景元が北町奉行在職時が舞台となっている)、「どぶ」と名乗る岡っ引きが、上司である北町奉行所与力・町小路左門とともに難事件を解決するストーリーであるが、どぶは従来の捕物帳の主人公達と異なり、「飲む・打つ・買う」の道楽者で、しかも元武士と言う異色の経歴のキャラクタである。

彼は元々佐倉藩士であったが(武士時代の名は「しみずちゅうすけ」と言うが、台詞の中でしか登場せず、どのような字を当てるかは作中からはわからない)、武士稼業に嫌気がさして武士を捨てるものの、結局生活に困り、武士時代のつてをたどって目明かしになったと言う設定で(彼が武士を捨てるきっかけになったのが鼠小僧次郎吉との出会いで、本作では次郎吉がどぶの弟分として事件解決に協力することが多い)、武士時代に剣の達人であったどぶは、捕り物に際しては左右に鈎がある仕込み十手を使っている(この剣の達人と言う設定のためか、捕物帖としては珍しく、基本的にどぶは悪人を捕縛するのではなくほぼ全員斬り捨てており、奉行所の同心達もそれを黙認しているように描かれている)。

この田中邦衛版では、毎回「○○殺人事件」と言う時代劇と言うよりはサスペンスドラマのようなサヴタイトルがついているが、内容は柴田錬三郎らしいチャンバラテイストの作品で、ミステリー的な謎解き要素は薄い(また、京都の公家にまつわる事件や、大名家の内紛など、本来町奉行所が関与しない事件に関わるエピソードもある)。

とは言え、後述するように俳優の魅力的な演技もあって、大変面白い作品になっている。

ただ、連続ドラマ版は七話中四話が、単発版のリメイク的な物語で、かつ同一の脚本家(下飯坂菊馬)が脚本を担当し、またキャストや設定も双方共通している部分が多いだけに、ドラマ版の方が放送時間が短いだけにやや雑な印象がある(例えば、ドラマ版第二話は、単発版第三作の「流人島殺人事件」のリメイクであるが、放送時間が短くなった影響か、悪事の黒幕である兄妹の身分がはっきりと語られないまま終わっている)。

田中邦衛がスラング的な言い回し(「恐れ入谷の鬼子母神」など)を多用した江戸弁を使うどぶを魅力たっぷりに演じており、またどぶを一方的に恋い慕う女スリ・お仙役の樹木希林や、次郎吉役の地井武男、お仙の弟分・嘉助役の三浦浩一らとの掛け合いも面白く、本編のストーリー以上に大きな見所となっている。

どぶは醜男と言う設定であるが、その人情味のあるキャラクタゆえに毎回女性によくモテ、また悪人側からハニートラップを仕掛けられることも多いため、1980年代の単発版はともかく、連続ドラマ版でも1990年代の作品にしては珍しくヌードシーンも多い。

どぶの上司で事件解決の糸口を与える町小路左門は、元々は大身の旗本であったが、病で盲目になってしまったために禄を返上して御家人株を買い、町奉行所の与力に「成り下がった」と言うこれまた異色の経歴の人物で、盲目ではあるために基本的には屋敷から外へは出ないが(例外的に外出するエピソードもある)、安楽椅子探偵的な鋭い推理を行う副主人公的な役回りである。

左門は単発版と連続ドラマ版では、キャストと設定年齢が変わっており、前者では平幹二朗が、後者では三代目中村橋之助(現・八代目中村芝翫)が演じているが、原作では二十代半ばの美男子と言う設定のため、橋之助の方が原作のイメージには近い(左門の設定の変更の影響で、同居している左門の娘が連続ドラマ版では妹に変わっておる)。

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