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『アルベルの采配・小泉慶の戦術理解・2020年の川崎F』2023/chapter01/h/vs浦和

2022シーズンのレギュラー全員と契約更新をし、その上で他チームから即戦力を複数人加入させて上積みを図ったアルベル2年目となるFC東京。
NHKの地上波でも生中継され注目の一戦となったホーム浦和戦は、FC東京の明るい未来を感じさせる結果となった。

試合の経過などを多くの記事を様々なメディアが配信していることからも、FC東京の注目度を感じる。
このサムネイルでも使われているが、長友佑都が試合後にゴール裏で挨拶をするシーンでは本当に多くの報道陣がカメラを構えていた。

この記事の重要なトピックとしては、

  • 浦和のハイプレスが成功した前半

  • FC東京のシステム変更が成功した後半

  • 選手層の厚さを活かし、選手交代で流れを引き寄せたFC東京

この3点が挙げられる。
詳しくは記事本文を参照いただきたい。

何よりアルベル監督の引き出しの豊富さ、柔軟さが目立った試合だった。

アルベル監督による『後出しジャンケン』

前半は東京の『4-1-2-3』と浦和の『4-2-3-1』が噛み合ってしまう。
特に東京のビルドアップでは、浦和のトップ下・小泉がアンカーの東に素早くチェックしてターンを許さない。
左サイドのアダイウトンやカシーフが単独で打開してビルドアップの出口になるシーンはあったが、前半を通して浦和に押されていた印象だった。

しかし、その上手くいかない前半を無失点で抑えたこともあって、ハーフタイムでアルベルは手を打つことができた。
アンカーの東を安部と交代し、システムも『4-2-3-1』へ変更する。

ハーフタイムでシステムや選手を変更し流れを一変させる方法は、カタールW杯で日本代表がビハインドを背負っていたドイツ戦、スペイン戦で行っている。いわば『後出しジャンケン』だ。

サッカーにはバスケのようなタイムアウトは存在せず、試合が始まってしまうと意思統一はなかなか図れない。
試合中に監督の指示を明確に伝達できるのはハームタイムに限られており、後半が始まってしまえば試合終了までピッチの中で解決するしかない。

今回の場合は、守勢に回っていた東京がハーフタイムにシステム変更をすることで浦和の意表を突いた形だった。

浦和の選手たちやスコルジャ監督は、スコアレスの状況でハーフタイムからFC東京がシステム変更をしてくるとは思っていただろうか。
上手くビルドアップが出来ていないとは言え、まだスコア上はイーブンの状況だったからだ。

我々サポーターも戸惑ったのではないか。
東を交代する理由は「イエローを貰っているからだ」と納得してはいたが、アンカーに小泉慶をスライドさせる程度だと思っていた。

ここまで思い切ったシステム変更は2022シーズンには見られなかったことと、良くも悪くもアンカースタイルの『4-1-2-3』を構築するべく固執していた印象だったことから、想像できなかった。

どうやらキャンプから練習していた形だと選手も語っているので、ベースである『4-1-2-3』に一定の手応えを感じており、より勝利を引き寄せるためのオプションとして『4-2-1-3』を用意したのだろう。感服する限りである。

結果として、浦和(と我々)を混乱に陥れるシステム変更は功を奏する。
中央に投入された安部は、それまで小泉慶と松木でカバーしていた広範なエリアを走り回り、ビルドアップでは裏へ抜ける動きを織り交ぜて浦和にマークをさせず、スペースを作り出してFC東京のパス回しを活性化させた。

それまでハイプレスがハマっていた浦和にとっては、選手の配置を動かされてマーカーに迷いが生まれる。
中盤の底が2枚となったFC東京の小泉慶と松木に対しても的が絞れず、更に安部によって撹乱され、押し込まれる。

そうした中で、左サイドの敵陣深くに飛び出した安部が切り返しによって1人を抜き、中へのクロスを上げたことで浦和のオウンゴールを誘発した。
FC東京が先制に成功する。

ハーフタイムを過ぎてしまえば、先制されたチームは思うように手を打つことができない。

  • 予めゲームプランとして相手の出方による対応策を準備しておく

  • 選手交代で監督の意思を伝える

  • ピッチの中で選手たちが自発的に修正する

このような修正方法を強いられる。
システム変更によるポジションのかみ合わせのずれをピッチ内で修正することは極めて困難で、この有利さを表現するために『後出しジャンケン』と称している。

就任当初からポジショナルプレーを標榜してきたアルベル監督だからこそ、システムによる選手の配置や動きが相手にどういった混乱をもたらすか綿密に想定出来ていたのだろう。
1年目のシステムがベースにあるからこそ、2年目の上積みでこのような振る舞いが勝利に繋がった。

新加入・小泉慶の凄味

Q、安部選手、小泉選手、松木選手のポジショニングはすり合わせをしているのでしょうか。感覚的なものでしょうか。
A、安部選手も松木選手もボールを持てる選手ですし、強度が高いプレーができる選手なので、2人に思い切りよくプレーさせてあげられるようにしていました。自分としては前にガンガン行くよりも、安部選手と松木選手がどんどん前に行ってゴール付近に関わるということをやらせてあげたかったので、危ないところを自分が消して、きつそうな時に前に行ったりすることを心がけていました。

https://fctokyo.co.jp/fanzone/fctokyofanzone/detail/362

FC東京公式HPにある試合後インタビューからの抜粋であって、小泉慶は上記のように語っている。
何より感心するのが、試合中の狙いと状況の言語化能力である。
『ピッチを俯瞰で見る』とは視野の広い選手、状況判断に優れた選手を言い表す常套句だが、当にその通りだ。

前所属・鳥栖でのイメージは『動き回ってボールを奪取する選手』という朧気なものだったが、今節のようにバランスを重視してスペースを埋める動きも出来る選手だとは、失礼ながら思っていなかった。

後半のFC東京は、前半から一変してハイプレスで浦和を押し込め続けることになるが、決定的なチャンスに繋がるカウンターを受けなかったことは、小泉慶のポジショニングによる部分が大きい。

公式のハイライトでは取り上げられていないが、78分のFC東京の決定機の直後、小泉慶と松木によるカウンター阻止の場面は身震いする程の迫力だった。
直後のバックスタンドを煽る松木の熱さも合わさって、今節のベストシーンだ。

ベンチメンバーと2020年の川崎フロンターレ

2022シーズンの主力が全員残ったと言っても差し支えのない陣容となっている現在のFC東京。
そこから上積みの新加入選手が在籍しているのだから、当然のように先発できない選手は出てくる。

今節は長友、渡邊、塚川、安部、ペロッチが途中交代で出場している。
キャンプへの合流が遅かったペロッチはまだまだこれからコンディションを高めていく段階ではあるものの、それ以外の4人は抜群のクオリティを示した。

安部、渡邊は文句なしに勝利の立役者であるし、長友と塚川は相変わらず安定した守備や運動量を示した。
先発と途中交代での出場には違った難しさがあるとされるが、投入直後から一気に心拍数を上げてチェイスを繰り返す様子を見て、現段階でのコンディションは仕上がっているなと感じさせられた。

2023シーズンのレギュレーションでは、5人の交代が許されている。
これは2020シーズンから続くものであって、チームのメンバー構成にも反映されるものだ。11人+5人で戦力を最大化することが理想である。

このレギュレーションを最大限に活用したJ1優勝チームが、2020年の川崎フロンターレだ。
優勝を決めたvsG大阪のメンバーと、途中投入のベンチメンバーは以下の通りである。

https://soccermagazine.jp/j1/17412214

川崎が後半開始直後に3点目を奪い3-0としていたため、大勢が決していたゲームではあるものの、三笘→齋藤学 レアンドロダミアン→小林悠 田中碧→脇坂 家長→旗手と次々に強力な面々が出てくる。
更に極めつけは、大島→中村憲剛である。止められるわけがない。

シーズンを通して有力な若手選手が力を付け、2チーム分の戦力を有した川崎は圧倒的なベンチワークも駆使して勝利をものにし続けた。

現在も続く5人交代制のレギュレーションにおいて、このシーズンの川崎は理想であると言える。

2023シーズンのFC東京を見ると、各ポジションにJ1のレギュラークラスを2人揃えられている。

強いて不安点を挙げるとすればGKのスウォヴィクの控えか。
今節はJ2から復帰した野澤大志ブランドンがメンバーに入ったが、スウォヴィクと比べてしまうと経験不足が否めない。

そしてSBについては、カシーフと中村帆高が先発し長友が途中交代で出場したものの、新加入の徳元が初挑戦のJ1でどこまで出来るか未確定である。

その他のポジションについては、キャンプで一定の結果を見せた熊田や、今節メンバー入りした俵積田をはじめとするルーキーなど若手が実力者に肉薄する状況となっており、いい傾向に見える。

何より、練習での怪我による森重真人の欠場に全く動じず、エンリケと木本のCBが安定感のある守備を披露したことが、現在のFC東京の層の厚さを物語っていることだろう。

監督のインタビューによるとどうやら木村も怪我をしてしまったようでCB陣には一抹の不安が生じてしまっているが、いざとなったら昨シーズンに出場機会を得ているルーキーの東に期待するしか他ない。

2020シーズンの川崎ほどのネームバリューはないものの、価値に見合う名声は結果の後に着いてくるものだ。
2023シーズンを終えて「このメンバーなら勝って当然だな」と言われる程に、積み上げていく必要はあるだろう。

松木・熊田の離脱

U-20日本代表として選出された松木と熊田は、最長で3月18日までウズベキスタンで活動を行うためFC東京から離脱となる。

大会なので勝ち上がらなければ帰国してチームに合流できるが、ここは確実に勝ち進んでU-20ワールドカップへの出場権を獲得してもらいたい所だ。

そうなると、FC東京への合流は早くとも3月19日以降となる。18日の名古屋戦は不在だと考えて、早くても26日のルヴァン杯のホームゲームvs京都になるだろう。
カップ戦であることから、疲労の休養を考慮してアルベルは更に若手に機会を与えることも想像できるので、松木と熊田の復帰戦は4月1日のリーグ戦、アウェイvs鳥栖になるか。

つまり、リーグ戦での彼らの離脱は2節のアウェイvs柏、3節のアウェイvs京都、4節のホームvs横浜FC、5節のアウェイvs名古屋となる。
リーグ序盤の4試合を松木・熊田抜きで戦わなければならない。

今節で90分間戦い抜く姿勢を見せ、スタンドを煽るなど精神的にもチームの中心選手である振る舞いを見せていた松木の離脱は特に大きい。
戦力的な面では塚本・安部が補って余りある活躍を見せてくれるだろうが、彼のエネルギッシュな雰囲気を補完できるだろうか。

頼れるのは、ベンチからもチームを鼓舞していた長友佑都か。
チームのメディア露出に途轍も無い貢献を見せ続ける彼は、2点目のゴールセレブレーションの際にゴール裏を煽り続けていた。
ああいう鬱陶しいほどの熱さは、サポーターが少し遠慮しながらも、心の隅っこでどこか羨ましく欲していたものかもしれない。

松木と熊田がアジアを舞台により一層逞しく成長することを期待するとともに、怪我なく帰国することを何より祈っている。

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