マガジンのカバー画像

【ライブラリ】notes

3,216
Excellent curation of the noters, a truly inspiring compilation of content:
運営しているクリエイター

#音楽

スピリチュアルジャズって何? - カマシ・ワシントン以降、多用されるキーワード”Spiritual Jazz”のこと

00年代の始めごろの僕は、家ではロックやテクノやヒップホップも聴きながら、クラブにもたまに行きながら、大学の近くのジャズ喫茶に通ってはジャズを聴いていた。ジャズ喫茶の店主と仲良くなってからは、レコード屋に行っては、ジャズを買い、ジャズ喫茶に持っていって聴かせてもらったりしていた。もちろん、レアグルーヴも聴いたし、ブルーノートもプレステッジも、フリージャズもヨーロッパジャズも聴いた。その中で、ジャズ喫茶の店主やお客さんとの会話が最も盛り上がるのが、インパルス期のジョン・コルトレ

有料
250

(今こそ聴きたい!)Los Campesinos!のリリシズム、およびその政治性について

 ここ数日、シカゴのインディーバンドFrikoが話題になっている。ブライトアイズやキンセラ兄弟(Joan of arc,American Footballなど)を受け継ぐ、裏がった声とハードコアとカントリーを掛け合わせた(ざっくりとエモ的な)コード進行、潰れたギターと太鼓の感触。絶妙なバランスのソングライティングに私自身も夢中になって、何度も聴いている。聴いている中で気づいたのは、ウェールズ出身のインディバンドLos Campesinos!との類似性だ。  Los Camp

ロビー・ロバートソンが奏でた残響のアメリカーナ

ロバートソンはずっとそうだった  昨年、ロビー・ロバートソンが亡くなった。  2023年8月9日のことだから、もう半年がたつ。私がもっとも敬愛していたミュージシャンであったので、彼がすでに地上にいないという事実は、とてもさびしい。  おそらく多くの日本人がそうであったように、私も結局ロビー・ロバートソンが音楽を奏でる現場に立ち会うことはできなかった。そのことも、よけいに喪失の穴が埋まらない原因になっている気がする。  しかし、奇跡的な瞬間もあった。  2002年、「ラスト・

The Beatles 全曲解説 Vol. 214 ~Now And Then

シングル『Now And Then / Love Me Do』A面。 4人全員の共作で、リードボーカルはジョンが務めます。 21世紀初にして最後の新曲!激動の60年を生き抜いた、すべての愛と魂へ贈るレクイエム "Now And Then"最初の発表から約5ヶ月、多くのファンが首を長くして待ち焦がれていたことでしょう。 日本時間11月2日午後11時、ビートルズの21世紀最初にして最後の新曲 "Now And Then" が発表となりました。 初めて聴いた直後、私は個人のイン

歴史の扉 No.17 「K-POP」の世界史

コロナ禍1年目、波が一瞬収束したそのタイミングで、たのしい遠足だというのに、生徒たちは「バス車内は静かに」との注意を行儀よく内面化していた。その座席から、つつましくささやく「Dynamite」が聞こえたとき、コロナ禍の鬱々がぱっと晴れるような心持ちがした。2020年、BTSの楽曲「Dynamite」が、アメリカ・ビルボードの総合チャート「ホット100」で初登場1位となった、ちょうどそのころである。いまだに高校生の間でもなかなかの人気であるが、世代の差もあって、それ以前のK-P

ジャズ入門プレイリストを作りました

「21世紀のジャズ入門」という記事を書いてから、21世紀のジャズをまとめたプレイリストを作る作業に取り掛かっていましたが、思った以上に時間が掛かってしまい、その間に20世紀のジャズ入門プレイリストが先に仕上がってしまいました。 ようやくプレイリストが揃いつつあるので、ここでご紹介するとともに、どういう視点でまとめたかというのを補足しておきたいと思います。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 まず、今回のジャズ入門プレイリストは1941年録音の

音楽と知識とカーストと

自分は音楽が好きで、小さい頃から息をするように鍵盤と触れ合ってきた。 それなのに、どの界隈に対しても知識が足りず、話に入れず、共感できなかった。 流行りの音楽、マニアックな世界、サブカル、ハイカルチャー、、、それぞれの場所に、それぞれの聴き方・楽しみ方があって、それぞれの「良い音楽」という「正義」を盲信している。僕はそのどれにも染まりきれない。 どれが「正しい音楽」で、どんなものが「良い音楽」なのか。そんな問いに、1つの正解なんてものはあるはずがない。けれど、自分が「音

『聴かずぎらいのための吹奏楽入門』は何故、コンクールを軸に吹奏楽を語ったのか?

 2023年6月26日にアルテスパブリッシングから発売された拙著『聴かずぎらいのための吹奏楽入門』は、ありがたいことに概ね好評な反応をいただいております。 しかしリアクションのなかには、批判の声も複数いただきました。SNSやメールで届いた様々な批判的見解の根幹はおおよそ一致していて、それは…… ひとりひとり細部は異なりますが、確認できた範疇では「コンクールを通して吹奏楽を語ること」が批判に共通する要素になっています。  わたし(小室)と漆畑、ふたりの共著者は、どうしてコ

【イントロダクション公開】 No.168 特集「シカゴ・ブルースと出会う」

ローリング・ストーンズをはじめとしたロック・バンドはもちろん、日本のブルース・ファンからも愛されてきた「シカゴ・ブルース」を大特集した本誌No.168。マディ・ウォーターズやジミー・リードらシカゴ・ブルースを代表するブルースマンとその代表作や、日本国内で独自に組まれたLPを中心に100枚以上のアルバムを紹介した「シカゴ・ブルース」の入門書・保存版として最適な1冊です。 特集の冒頭に掲載したイントロダクションとなる一文を少しアレンジしてここにお届けします。 シカゴ・ブルース

フェミニズムと音楽 #3│創作者としての苦悩と喜び │Florence+The Machine「King」&「Free」

 今回はフェミニズムと音楽第三回目として、Florence +The Machineのアルバム『Dance Fever』から 、女性として生きることの葛藤と創作者の苦悩を歌った「King」、自己表現を通じて不安を乗り越えることを歌った「Free」を紹介していきたい。 Florence + The Machine「King」 Florence +The Machine は、女性ボーカリストのFlorence Welchを中心としたイギリス出身のバンドとして知られる。ソウルフル

アンビエントと二つの〈死〉

(私が受講していたゲンロン佐々木敦批評再生塾のページが閉鎖されるということで、2018年3月に書いた批評再生塾第三期最終講評の提出文かつ東浩紀審査員賞の受賞作であるアンビエント・ミュージック論をこちらに再喝します。エリック・サティ〜ブライアン・イーノ〜ウィリアム・バシンスキーについて主に論じています) 1920年3月8日。丸眼鏡をかけた53歳の作曲家は温めていた奇妙なアイディアを実行に移した。パリ8区、フォーブール・サン=トノレ通りのバルザンジュ・ギャラリーで行われた演劇の

アーティストと政治的発言について

「アーティストは自分の意見や価値観をしっかりと持ち、音楽に反映させてるかは別として、そのアーティストのファンもその生き方に共鳴したり、なんらかの関心を持ち、応援する」ものだと思っていた私にとって、日本でアーティイストに対してファンが「政治的発言をしないでほしい」という言葉を向ける状況は何度見ても衝撃を受ける。 (主にリベラル派のアーティストに対して)「政治思想が偏っていて音楽を聴きたくなくなる」という人が未だに一定数いる(確実に減ってはいる)ようだが、 逆に「政治思想が一切

音楽レビューはどこまで要素を減らせるか?

お世話になっております。Water Walk主宰のEPOCALCです。 突然ですが、読者の皆さんはアルバムレビューやライブレポートのような音楽記事を読んだことが一度はあると思います。他界隈の記事ではあまり見かけない独特なワードや文体が登場するものが多いですよね。 「恍惚感」「グルーヴィー」「ツーファイブ」…… 音楽評論を読んだことない学生がみたら一体何を指しているか分からない語句がめじろ押し。これでは音楽入門者が路頭に迷ってしまいます。 しかしながらこういった文言は音楽

和レゲエ数珠繋ぎ-第18回- 白波瀬 達也(tawaki)

奈良県 白波瀬 達也(tawaki) アーティスト名 ASUKA ANDO 曲名 ゆめで逢いましょう 発売年 2015年 当方は雑食的に音楽を聴いている奈良県民です。和レゲエについては特に詳しくないのですが、10代の頃からラバーズロックは大好物でよく聴いています。この連載では70年代〜80年代の旧譜の紹介が中心ですが、今回は現行の和レゲエを取り上げてみたいと思います。 先日、レゲエ好きの友人に誘われて奈良でASUKA ANDOのライヴを観る機会がありました。ASUKA A