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140字小説 すぐ読めるお話集

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#140文字小説

こわいこと

友人達がアニメの話で盛り上がっていたので混ざった。その中の女子が言う。「原作小説貸すから読みなよ」家に帰って借りた本を開くと原作愛に溢れた手紙。自分も感想を手紙に書いて返す。幾度か繰り返した。ある日女子が友人達に好きな人を聞かれていた。自分の名前が出た。それ以来、話せなくなった。

最大にして最後の成功

とある研究が成功した。不老不死の薬。マウスに投薬すると、老いることなく、焼かれても、潰されても再生した。ある日、不注意によってマウスが逃げ出した。そのマウスは不老不死の子供を産み、地球の表面は不老不死のマウスに覆われ、それ以外のすべての生物が死滅した。それでもマウスは増え続ける。

人類滅亡計画、裏目。

俺は何百年もかけて、人類にある恐ろしい考えを普及させた。他人を殺すな、弱いものを助けろ。この考えによって、迷惑をかける人間であっても殺されることはなく、弱い人間の周りは弱い人間の分も賄えるように働く。これで人類は自分達の重みで潰れることだろう。……俺はただ救われて欲しかったんだ。

ある日の惨状

一言で言えば惨状。それに尽きた。部屋中に異臭が充満している。強烈な吐き気を催すだろう。壁には何かが飛び散った跡があり、変色して赤黒くなっている。女が横たわっていた。「おいおい」男の声がする。「料理酒で酔って寝てるんじゃないよ」女の脇には料理酒の瓶と、『誕生日おめでとう』のカード。

観測者

私は錬金術で造られた人型の創造物。もう500年は存在している。だが人間のことはわからない。作られて10年で人間を完全に理解したつもりになった。だが20年で自信をなくした。100年経つと人間は様変わりしていた。200年で先が予測出来るつもりになった。今はその予測が当てにならない事しかわからない

笑い顔のピエロ

「このお話はとても楽しいよ。時には悲しいこともある。時には苦しいこともある。でも主人公はそんなことを乗り越えて、大きく成長していくんだ。主人公だって、人間らしい一面もある。そう、君達と同じなんだ。さあ、楽しい楽しい物語の世界へようこそ!」本当に楽しいのか? そう呟いて書き上げる。

ミスリーディング

怖いものは苦手だと言っていたのに、悪友が動画のURLを送ってきた。PCの前に座って開くと、Youtuberが魚をさばく動画だった。動画が終わると背後に気配を感じた。身構えて振り返る。何もいない。安堵の息を吐いてPCに向き直る。机には目玉をくりぬかれた魚の頭部が並び、周囲に目玉が散乱していた。

優しい人

「怒りの部位を抑制する手術は成功しました」
怒りっぽい旦那は、文字通り人が変わった。
いつも優しい人になった。
他の人が出世できなくなるからと、出世欲もなくしていた。
「大丈夫、お金はちゃんと入るから」
旦那が死に、保険金が入ってきた。
手術前の旦那に恨みを持っていた人物に刺し殺されたらしい

異文化交流バレンタイン

高校入学の時期に両親と海外に移住した。最初は英語が出来なくて馴染めなかったけど、そんな私を気遣ってくれる男子がいた。その子のお陰で友達もできた。今日はバレンタイン。その子に人気の少ないところで渡す。開けても良い?頷く。そこには溶けたチョコ。そうだ、ここは残暑が残るオーストラリア。

見慣れた幻覚

ベッドに入ってもなかなか寝付けず、寝返りすると気配を感じた。目を開くと、ドアの隙間に黒いジャケットを着た男の輪郭がある。一瞬心臓が跳ね上がるが、すぐに落ち着く。「また幻覚だ」呟く。幼い頃からこういう幻覚はよく見てきた。女の手とか。幻覚は包丁を大きく振りかぶる。「あれ?」いたい

人類最後の発明

とある研究機関で、人類史に残る技術が実現した。文字に書いた事柄が現実に起こるというものだ。ある日、その技術がクラッキングによって流出し、ネット上に拡散された。その技術によって、これまでネット上に書き込まれたあらゆる言葉が現実のものとなった。その結果、人類も地球も爆発して消え去った