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140字小説 すぐ読めるお話集

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2022年2月の記事一覧

評価が欲しいから

「人間って面白い」
「なんで」
「だって、SNSの高評価ボタン一つで、その人の発信内容を操作できるんだから」
「あなたの一つくらいで変わらないでしょ」
「狙うのは誰からも評価されてない人だよ。だから一つが重い」
「悪趣味」
「こんなことを言うのもあなたの高評価が欲しいからだよ」

欲の暴走

「食欲が暴走して欲求のまま食べることを続けると、体の仕組みに異常が起きる。食欲の暴走は健康を損なう。承認欲求が暴走して承認欲求のまま行動し続けると、迷惑行為や資産の浪費、社会・友人知人からの信用喪失を起こす。承認欲求の暴走は人生を損なう」異常な大食いの動画投稿者、最後のツイート。

まず初めにすべきこと

「チェス、将棋のプレイヤーが勝負をしたとする」「おかしいってなるでしょ」「お互い大人だから譲歩してやっている。だがついに、将棋のプレイヤーが取った駒を置いたときそれは許せないとなる」「どうなるの?」「口論。手が出るかもね。だから最初にルールの違いをはっきりさせるのは大事なことだ」

無意識対抗薬

ある研究者が無意識の行動を無くす薬を開発した。彼は無意識のうちに顔や体をかきむしる癖があり、それによって傷だらけになった身体にコンプレックスがあった。彼が薬を服用すると、無意識に引っ掻く事はなくなった。そんなことより、意識して心臓を動かすことで精一杯で、他の事をする余裕がなかった

縁の味

母の味。世間はその言葉に郷愁を覚える。うらやましい。母は料理が下手だ。ご飯は汁気が多く食感が気持ち悪かった。味噌汁は具は食べづらく、毎日一人具を飲み込むまでダイニングに残された。食事は死なないための作業だった。だからこそ、学友に誘われて食べた鍋の味は忘れられない。友の味だった。

赤ずきん 逆襲の「B」

「ねえおばあさん、どうしてそんなに耳が大きいの?」
「マギー審司に教わったんだよ」
「どうしてそんなに目が大きいの?」
「Mr.ビーンに教わったんだよ」
「どうしてそんなに手が大きいの?」
「リストにピアノを教わったんだよ」
「どうしてそんなに大口叩くの?」
「お前の知名度を食うためさ!」

偶発的な派閥闘争、その端緒

食パンを口にくわえた女子高生が走っている。
「いっけなーい、遅刻遅刻!」
曲がり角にさしかかった瞬間。
合気道の達人が現れた。
ぶつかると思って女子高生が体勢を崩す。
達人が手を添えると、くるりと回り着地する。
放り上げられた食パンを落とさずにキャッチした達人が言う
「朝は米食え、米」

こわいこと

友人達がアニメの話で盛り上がっていたので混ざった。その中の女子が言う。「原作小説貸すから読みなよ」家に帰って借りた本を開くと原作愛に溢れた手紙。自分も感想を手紙に書いて返す。幾度か繰り返した。ある日女子が友人達に好きな人を聞かれていた。自分の名前が出た。それ以来、話せなくなった。

最大にして最後の成功

とある研究が成功した。不老不死の薬。マウスに投薬すると、老いることなく、焼かれても、潰されても再生した。ある日、不注意によってマウスが逃げ出した。そのマウスは不老不死の子供を産み、地球の表面は不老不死のマウスに覆われ、それ以外のすべての生物が死滅した。それでもマウスは増え続ける。

人類滅亡計画、裏目。

俺は何百年もかけて、人類にある恐ろしい考えを普及させた。他人を殺すな、弱いものを助けろ。この考えによって、迷惑をかける人間であっても殺されることはなく、弱い人間の周りは弱い人間の分も賄えるように働く。これで人類は自分達の重みで潰れることだろう。……俺はただ救われて欲しかったんだ。

ある日の惨状

一言で言えば惨状。それに尽きた。部屋中に異臭が充満している。強烈な吐き気を催すだろう。壁には何かが飛び散った跡があり、変色して赤黒くなっている。女が横たわっていた。「おいおい」男の声がする。「料理酒で酔って寝てるんじゃないよ」女の脇には料理酒の瓶と、『誕生日おめでとう』のカード。

いつも見てるよ

地方から上京した大学、もう2年になる。一つ上の先輩と付き合い始めた。このご時勢、なかなか直接は会えないけれど、毎日ビデオ通話で顔を合わせている。「最近どう?」実は……ストーカーされてるみたいで。「あ、お鍋吹きこぼれちゃうよ」ありがとうござ……鍋はWebカメラに映らない位置にあるはず。

観測者

私は錬金術で造られた人型の創造物。もう500年は存在している。だが人間のことはわからない。作られて10年で人間を完全に理解したつもりになった。だが20年で自信をなくした。100年経つと人間は様変わりしていた。200年で先が予測出来るつもりになった。今はその予測が当てにならない事しかわからない

笑い顔のピエロ

「このお話はとても楽しいよ。時には悲しいこともある。時には苦しいこともある。でも主人公はそんなことを乗り越えて、大きく成長していくんだ。主人公だって、人間らしい一面もある。そう、君達と同じなんだ。さあ、楽しい楽しい物語の世界へようこそ!」本当に楽しいのか? そう呟いて書き上げる。