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お酒は百害あって一利あり_トップジャーナルのメタアナリシスの結果より

どうも!
セイタです!!
北京大学修士課程で社会学を学んでいます。

この記事では最近読んだアルコールの悪影響に関する論文を紹介させていただこうかと思います。


自分はお酒が大好きで、大学院生になった今でこそ週に2,3回までと節制していますが、社会人の時は文字通り毎日お酒を飲んでいました(笑)

頻度だけでなく、量も多かったです。
家で1人でワインを飲んでいて、1瓶開けたりしていました。
また、会社のオフィスにビールサーバーが置かれていたので、出社した際にはだいたい1Lくらいビールを飲んでいました。ヒューガルデンが大好きでした。


お酒は飲んでいるときこそ気持ちいいのですが、その次の日はものすごくパフォーマンスが下がります。毎日お酒を飲む続けていたので、自分のパフォーマンスが下がっていることにも気づきませんでした。目に見えて体に異変を引き起こすアルコールが健康や寿命に対して悪影響を及ぼさないわけがありません。

そのような問題意識から、自分はずっとアルコールが人生に対して与える悪影響についての信頼に足る論文を探していました。ようやく最近になって、素晴らしい研究がみつかったので、備忘も兼ねて、紹介したいと思います。


対象とすする方は、
・お酒をよく飲む人
・アルコールの影響について興味がある人
・アカデミックな内容にあまりなじみがない人
になります!
できる限り平易な言葉で説明しているので、「論文とかあまり読んだことがない」という方でも読めるかなと思います。

その一方で、概念的に難しいところもしっかりと説明しているので、ちゃんと詳細に知りたいという方でも満足できる内容となっています。




どんな論文なの?

この章では、この論文が如何に素晴らしい論文であるかを紹介させていただきます。「そんなのどうでもいいから、結果だけ教えて」という人は、次の大見出しである「アルコールがもたらす寿命と健康への影響について」へスキップしていただいても問題ありません。

この記事で紹介する論文の題名は
"Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016"
です。


この論文はビル&メリンダ・ゲイツ財団の後援を受けて、書かれたメタアナリシスの研究であり、『ランセット』という医学雑誌に投稿されています。



「メタアナリシス」_最強の研究手法

メタアナリシスとは、すでに報告された論文を一定の基準のもと審査し、集めた論文を比較・分析する調査研究で、エビデンスレベルが非常に高い研究とされています。

研究手法の信頼性の高さを階層化すると上記のような階層構造になります。

学識の浅い人が言いがちな「○○先生が言っていた!」という主張は全く信頼できないというわけではありませんが、上記図の「有識者の意見」にあたり、エビデンスレベルは低いです

○○先生の主張と相反する結果がエビデンスレベルがより上位の研究で発表されたのであれば、○○先生は主張を取り下げるか、自ら研究を行う必要があります。

※ランダム化実験について興味のある方は下記の記事をご覧ください。
いちばんやさしい、医療統計:『ランダム化比較試験とは?事例で無作為化のメリットデメリットをわかりやすく』


なぜ、メタアナリシスがそこまで強力な研究手法とみなされているかについて、簡単に説明させていただきます。

下記の図のように、メタアナリシスとは過去に発表された論文を評価・分析・総合する研究手法です。なので、人類の叡智の結晶といっても過言ではありません。

仮に、ある研究がメタアナリシスの報告と完全に矛盾していても、メタアナリシスの主張が覆されることはありません。なぜなら、その背後には数多くの研究成果の蓄積があるからです。




『Lancet』_世界五大医学雑誌

ランセットは世界で最も評価の高い査読性の医学雑誌の一つです。『New England Journal of Medicine』、『JAMA (Journal of the American Medical Association) 』、『BMJ (British Medical Journal)』 、『Annals of Internal Medicine』とともに、世界五大医学雑誌と呼ばれることもあります。



ジャーナルのランキングを実施している機関があるのですが、そこでもランセットは申し分ない評価を得ています。

Reserch.com: Best Medicine Journals


以上より、この論文は研究手法だけでなく、掲載されたジャーナルも信頼に足るものとなっています。




研究対象の幅広さ

最後に、この論文がメタアナリシスの対象としている論文の幅広さについて述べていきたいと思います。

この論文は、1990年から2016年に195の地域で投稿された論文を対象としています。また、694のデータソースと592の研究を扱っています。気の遠くなるような研究量ですね(笑)


それでは、前置きはここまでとさせていただき、次の章よりこの論文の本題に入っていきたいと思います。





アルコールがもたらす寿命と健康への影響について

この論文では、アルコールの摂取が健康と寿命に与える悪影響が研究されています。主に、
アルコール摂取と寿命の関係
・アルコール摂取が各疾病に与える影響
・最適なアルコールの摂取量
が述べられています。


本題に入る前に、この論文で出てくる重要な概念を二つ紹介させていただきます。少し複雑な概念なのですが、より正確な理解のためには必要な概念なので説明させていただきます。


一つ目が"Socio-demographic Index"、日本語だと「社会人口統計指数」(以下SDI)です。これは、教育達成度、出生率、一人当たりの所得に基づき、そのエリアにおける全体的な発展度を示す指標です。

大雑把にいえば、日本やイギリス、ドイツなどの先進国は "High SDI"と定義され、アフリカの多くの国が"Low SDI"と定義されます。発展している国とそうでない国では、アルコールの影響に違いが生じるため、カテゴリーが分けられています。

※SDIは以下のサイトの内容をもとに分類されているようです。
Global Burden of Disease Study 2015 (GBD 2015) Healthcare Access and Quality Index Based on Amenable Mortality 1990–2015


もう一つの概念が"Death and disability-adjusted life year"、日本語では「障害調整生命年」(以下DALYs)です。病的状態、障害、早死により失われた年数を意味した疾病負荷を総合的に示すものです。この指標で、アルコール使用に起因する疾病負担について説明していきます



アルコール摂取と寿命の関係

それではいよいよ本題に入っていきます。

まず、アルコールの男女比についてなのですが、世界中で見ると32.5%の男性がアルコールを現在摂取(Current Drinkers)している一方で、女性は25%にとどまっています。アルコールの摂取量に男女差があるため、アルコールが健康や寿命に与える影響も当然男女差があります
※本文1020pより "Current Drinkers"の定義は過去12か月以内にアルコールを摂取した人


次に、2016年時点のアルコール摂取に起因する死者は2.8億人と推定されています。日本の全人口×2してもまだ余りますね、、

15歳から49歳までの人口における、最大の疾病リスク要因がアルコールの摂取です。また、女性の死亡要因の3.8%、男性の死亡要因の12.2%となっています。
※本文1023pより

以上より、アルコールが人間の健康に対して悪影響を与えていることが読み解けます。



アルコール摂取が各疾病に与える影響

次に、アルコール摂取が具体的にどの疾病にどの程度影響を与えるかを見ていきたいと思います。


以下のグラフが男女別のアルコールと疾病の関係性を表しています。

本文p1021より
女性における地域、性別毎のアルコールの影響


本文p1022より
男性における地域、性別毎のアルコールの影響


両方のグラフを見ると、明らかに男性の方がグラフの面積が大きいですね!!アルコールが男性に与える影響が大きいことを如実に表しています。

また、SDI毎にグラフが描かれているのですが、国の発展度によって、アルコール摂取の影響が全く異なっています。本文では書かれていないのですが、それぞれ因果と相関が非常に複雑に絡まっていることが予想できます。


全ての図を見ていくときりがないので、日本人の男性が当てはまるであろう"Male","High SDI"を見ていきます。特に面積が大きく、影響が大きいであろう箇所を紹介させていただきます。

まず、最も特徴的なのが紫の部分ですね。これは"Ischaemic heart disease"(心筋梗塞)を表します。つまり、アルコールの摂取は心筋梗塞のリスクを下げてくれるということです。

次に、気になるのが茶色の部分ですね。これは"Haemorrhagic stroke"(脳卒中)を表します。Haemorrhagic stroke。なんとなく、大酒飲みの人が脳卒中で倒れるというのはイメージしやすいのではないでしょうか?

ピンクの部分も気になりますね。。これは"Cirrhosis and other chronic liver diseases"(肝硬変及びその他肝臓疾患)を表します。図を見ると、40代以降のアルコール摂取は、肝臓系の疾病の主要なリスクファクターとなっています。これもイメージ通りですね。


以上のように、アルコールの摂取は私たちの健康を有意に害するようです。まさにアルコールは「百害あり」といえましょう。一方で、アルコール摂取は60代以降の心筋梗塞のリスクを減少させます。なので「一利有り」ともいます。

とはいえ、グラフを見てもらえれば一目瞭然ですが、リスクとリターンが全く見合っておりません。親戚全員心筋梗塞で死んだ家系の人以外はお酒を飲まべきではありません。




最適なアルコールの摂取量

最後に、最適なアルコール摂取量について書いていきます。

以下のグラフが疾病毎のアルコール摂取量とリスクの関係性を表しています。

本文p1024
一日当たりのアルコール摂取量毎の相対リスク曲線

こちらのグラフも男女別で分かれています。アルコールをを一滴も摂取していないときは、各グラフ左端の0となります。

グラフはアルコールを摂取すればするほどリスクが上がっていく疾病少量の摂取ならばむしろリスクが下がっていく疾病に分けられます。

ただ、アルコール摂取がリスクを引き下げる疾病の中で統計的に優位なのは"Ischaemic heart disease"「心筋梗塞」のみです。それ以外の疾病でも少ないアルコール摂取ならば、相対リスクが下がっているものもありますが、変化が微細なため測定上の誤差である可能性が棄却できません。

男性における心筋梗塞の相対リスクとアルコール摂取量の関係性

なので、先ほども述べましたが心筋梗塞以外の疾病においてアルコール摂取は「影響がない」もしくは「リスクを高める」効果があるといえます。


最後に、以下のグラフをご覧ください。
以下のグラフは、すべての疾病に対するアルコール摂取の影響を表しています

本文p1025より

この図よりアルコール摂取は疾病の相対リスクを引き上げており、アルコール摂取量が増えるほど、リスクが大きくなることが示唆されています。


著者は理想的なアルコール摂取に対して、以下のようにコメントしています。

In estimating the weighted relative risk curve, we found that consuming zero (95% UI 0·0–0·8) standard drinks daily minimised the overall risk of all health loss

本文p1025より

以下、日本語です。
------------------------
相対リスク曲線より、アルコールの消費量が0(95%信頼区間 0~0.8)の場合に、すべての健康リスクは最小化されることが解明された。
------------------------

つまり
・27年という期間に
・195の地域で
・694のデータを使って行われた
・592の研究より

お酒は飲まない方がいいという結論が出たということです!!!!!!!!!!!!


なので、今から家にあるお酒は基本全部燃えるゴミに出しましょう!!そして、今後の人生においてはお酒を飲まずにを生きていきましょ!!!

まあ、理想はそうなのですが、やはりお酒はおいしいですし、ストレス発散にもなります。また、付き合いもあるので、一滴も飲まないのは相当難易度が高いです。

なので、「お酒はできる限り飲まない方がいい」という意識で生きていくのが良いかなと思います。


それでは、本記事は以上とさせていただきます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ちょうど青島ビールが飲み終わったタイミングで記事を書き終えることができて、感無量です。



このアカウントでは、今回のようにアカデミックな内容や中国に関する情報を発信しております。また、下記のマガジンでこのような論文や学術書を今後も紹介していきます。


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