最後の瞬間のすごく大きな変化

僕(以下、僕=誠心)の部屋には本棚が無いが机も無い。改めて思う。「これは部屋なのか」と。
1話目の「必要なもの」は、ふと前の夫と出遭った女の人の話。前の夫が「君は何もほしがらなかっただろう?」というが女は心の中で「私は○○や△△がほしかった」と振り返る。
そういや僕はほしいモノがほとんどなくなってしまった。なんだか、モノについてはどれもこれもむなしく思えてしまった。
この話の女の人は別の人格に生まれ変わりたいだの、きちんと図書館に本を返したいだの、子どもが大きくなる前に戦争を終わらせたいだの…。
とても短い話なんだけど、力強い。持たない人の、精神の乾き、それはエネルギー。それは大切なニュース。大切なニュースは小さな声で語られる(これは1Q84)。この類の勇気を、この短篇集全体からもらうことになる。小さな声。小さな声、大好きだ。
この「必要なもの」に、「すごい奥行き」という感想を寄せていただいた。確かに幅というよりは奥行きだ。「奥行き」をイメージしながら読み続けると、自分の中に奥行きができる。そこに収まっていくのが心地よい。
「これは部屋なのだ」(2月5日 夜)

8話目の「木の中のフェイス」。かなりパワフル。一度よんで、ん?これは何や?となったのですぐさま2回目を読んだ。まぁそれでもわかるようなわからんような、なのだがそもそもペイリーさんの世界は考えるより感じろの世界が多いと思う。
フェイスにとってのいろいろなお母さん友達が登場するがみんなカラフル。
ペイリーさんにとって転機となる短篇だったんじゃなかろうか。

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さて、また僕の話なんだけど、このところ、次の仕事をどうしようかと悩んだり考えたりしている女性とのコミュニケーションが多い。人間関係に起因するものも多い。やさしい人ほどかかえこんでしまうのだろう。僕も、きつい言い方をする人はとても苦手だ。
ペイリーさんやカーヴァーさん(レイモンド・カーヴァー)のように、誰のせいにもしないで、ただ静かに強く生きる人がいる。そして、そういう人たちに支えられている自分がいる。(2月19日)

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10話目「重荷を背負った男」…急にハッピー・エンド?何が重荷?節約家の男から、重荷を背負った男へ。重荷とは?家を売った?家族は?身軽になった?
最後の1ページの展開がおもしろい。カーヴァーさんみたいにいきなり終わる。(2月19日)

15話目「父の会話」…ヤク中の子に寄り添った(寄り添いすぎた?)母はヤク中になるが、一方で子はそこから回復していく…という話を病床の父から物語をせがまれた娘が話す。父は書き直しを命じる。娘は話に肉づけしていくが父は満足しない。娘を批判する。それでも娘はそこに描かれる「母の希望」を書いていく。
傍目からはわからない各々の人生の舞台裏をペイリーさんはユーモアをまじえていきいきと描いてくれる。これが病床の父との会話であることが、なおひきたたせてくれている。
ヤク中から抜け出していく息子のその過程がおもしろい。一寸先は闇、一寸先は光。
前にもこんな話ペイリーさんのであったなぁ。こういうの得意なのかな。(2/23の夜。特急電車の中で)

最後(17話目)「長距離ランナー」…中年の熱いエナジーを内に抱えた女性が走りまくり、かつて子ども時代をすごした家で数週間すごすという物語。これもフェイスもの。ペイリーさんの話にはしばしば人種に関わる話が出てくるがこれもその1つ。
また僕のことだけど、去年の5月に生まれて初めて胃がキリキリするという経験をして、週に1度4kmほど走る習慣をつけたが移住したタイミングでやめてしまった。暖かくなったらまた走ろう。

そして最後に訳者(村上春樹さん)あとがきより以下。

 グレイス・ペイリーの物語と文体には、いったんはまりこむと、もうこれなしにはいられなくなるという、不思議な中毒性があって、そのややこしさが、とにかくびりびりと病みつきになる。ごつごつしながらも流麗、ぶっきらぼうだが親切、戦闘的にして人情溢れ、即物的にして耽美的、庶民的にして高踏的、わけはわからないけれどよくわかる、男なんかクソくらえだけど大好き、というどこをとっても二律背反的に難儀なその文体が、逆にいとおしくてたまらなくなってしまうのである。とくにその文体は彼女のまぎれもないシグネチャーであり、真似しようと思っても(そんなことを考える人が実際にいるとも思えないが)、誰にも真似することのできないものだ。

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久々に傑作に出会った…という感じがする。まだまだ味わいきれていないところもあるんだろうなぁ…時間をあけて何度か読み返すとよさそうな1冊。(2月26日)

それでは次はペイリーさんの最後の短篇集を読みます。

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