極北

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「極北(マーセル・セロー著 村上春樹訳)」を読んだ。
この作品はずっと前から気になっていて、ようやく読んだ。

主人公の名はメイクピース(まずこの名前を聴いてメイクドラマというかつての野球選手の名言を思い出し、くすっと笑ってしまった)。この極寒の極北の環境下で、ここまでタフでやさしくなれるということが凄い。実はメイクピースには「意外な」ことがいくつかある。このことはある意味で、物語全体に暖かさをもたらしているといえるかもしれない。最後の最後まで。

シャムスディンという人物が最も印象に残っている。これはひとつ前に読んだ本「心は孤独な狩人」(note記事ご参照)に出てくるシンガーという唖(おし)と重なるところがあった。いや、全然ちがうのだろうけれど、人が極限状態に置かれたときに現れる、もしくは極限状態でも捨てられない、ある種の信仰のようなもの、慎ましさ、しかしそれでも耐え切れずに声を荒げてしまう様子…など。メイクピースはそういったシャムスディンの様子をいつも見守っている。

シャムスディンにはインテリジェンスがある。上役(看守)に向けて鋭い質問(矛盾をついたような)をぶつけるシーンがある。それでもむなしく、じわじわと命を削っていく。僕はこういう描写にいつも、人生の無常を感じてしまう。
ずいぶん前にnoteで読書感想を書いた、夏目漱石の「坑夫」の後半に出てくる、インテリジェンスとタフを兼ね揃えた人物にも似たものも感じた。

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ここのところの数冊を読んだ感想としては「僕は偏った読み方をしている」ということになるのだろう。あるいはエゴのもたらすものかもしれない。この作品はもっと大規模なことが描かれている。
ところが一方でこうも思う、「最も個人的なことが最も地球規模的なことである」と。そして、偏った読み方などない、と開き直ってしまっていい、と。

僕は「やさしさ6割、タフ4割」くらいで生きていきたい。

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<以下は本のカバーより引用>
「私は肝の据わった人間だ。そうでなければやっていけない」-極限の孤絶から、酷寒の迷宮へ。私の行く手に待ち受けるものは。
最初の一ページを読み始めたら、決して後戻りはできない。あらゆる予断をゆさぶる圧倒的な小説世界。
この危機は、人類の未来図なのか。目を逸らすことのできない現実を照射し、痛々しいまでの共感を呼ぶ、美しく強靭なサバイバルの物語。

(書影は http://www.chuko.co.jp より拝借いたしました)

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【関連note】
読書2020
https://note.com/seishinkoji/n/n89641214d8ad

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