悪童日記

悪童日記

戦時の苛酷な状況にも関わらず、あまりその深刻さが伝わってこなかったのは、こういうのを読み慣れてしまっているためか、あまりにも時代が違いすぎて想像ができないか(うーん、僕の今の精神状態が大きいか…)なのだろうとは思う。それと、アゴタ・クリストフの筆致に常にユーモアの感覚があったからではなかろうか。

双子の天才は一心同体で「身をもって」学んでゆく。身をもってというのは、誰かが殴られていたら次の日に2人で殴る殴られるの練習をするし、乞食をみたら次の日に断食の練習をするし、罵声を聴いたら次の日に罵声を浴びせあうという練習をする。

村上春樹さんの小説なら、例えばろうそくの火に手を近づけていく青年が出てきたり、バットで思いっきり首を殴って穴へ埋めたり、生きた身のまま皮を剥いだり(3例ともねじまき鳥クロニクルになってしまったな…)というシーンの痛みがこちらに伝わってくるのだけれど、この悪童日記においては痛みが常に平地として均されるというか。痛みを感じないようにしないことにはしたたかに生きてゆけないのだろう…。

思いやりと残酷さが交互に出てくる。動物としてのあらゆる人間が現れている。

子どもって「何から学ぶか」によって、おおいに変わると考えるなら、なかなか恐ろしい。最後のシーンもなかなか衝撃的でした。

【著書紹介(出版社Webより)】
戦火の中で彼らはしたたかに生き抜いた――大都会から国境ぞいの田舎のおばあちゃんの家に疎開した双子の天才少年。人間の醜さ、哀しさ、世の不条理――非情な現実に出あうたびに、彼らはそれをノートに克明に記す。独創的な手法と衝撃的な内容で全世界に感動と絶賛の嵐を巻き起した女性亡命作家のデビュー作。

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