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『満プク』

脳のドアが開いてしまったようだ。
これは、久しぶりに日帰りの『走りっぱなし』ツーリングに行ったせいだ。
書かずには眠れない。そんな日もある。脳のドアが開く。そんな日がある。

私のツーリングは、ほとんど走りっぱなしだ。ガソリン給油とたまの珈琲タイムと尻痛の限界超え以外は止まらない。なぜ、そんなことができるのかと言うと、私はオートバイでツーリングしている間中、常に満腹なのだ。
ツーリング中だけ、なぜか腹が減らない。今朝も朝食にバナナ1本食べたきり。走り出せば缶珈琲を2本飲んだだけだ。つまり、食事休憩がない。
それで、12時間くらい走りっぱなしだ。カワサキW650からできるだけ降りたくないのだ。

極論。小便、大便も乗車姿勢のまま、片尻を「ぷいっ」と空に預けて、道路にまき散らして走りたい(カワサキW650が汚れなければの話だが)。

いつかのエッセイでも述べたようにツーリング中の私の脳内では、ホルモンがドバドバ出ているのだと思う。それが、『マキシマムザホルモン』だ。
『マキシマムザホルモン』のファンのことを『腹ペコ』と言う。
けれど、哀しいかな、私は『マキシマムザホルモン』を脳内でドバドバ出しながらも『満プク』なのだ。どうしても『腹ペコ』にはなれない。

良いふうに考えてみれば、私はどちらかと言えば『ファン』側のタイプではなく『アーティスト』側だから『満プク』なのではないかという、傲慢な推論も成り立つ。そもそも、ライブ中ファンは『腹ペコ』なのか。ライブ中ファンの脳内ではドバドバ『マキシマムザホルモン』は出ているのか。じつは『満プク』なのではないか。いつもおなかが減っているほうが格好いいと思っているのではないか?それか。それだろ。小学校のときそんなタイプがいたはずだ。もう、どうどうめぐりをくりかえすばかりで結論がでないことはわかっている。書いている私の脳のドアがぶっとんでいるのだ。

そういえば私は『腹ペコ』の由来を知らないではないか。大事なところをあっさりながす癖が私にはある。直さなければ。
「ホルモン 腹ペコ 由来」で検索してみた。いくつか候補はある。しかし、どれもこれも説得力に欠けるものばかりだ。腑に落ちない。
ここで私は、はたと気づく。『マキシマムザホルモン』はそろいもそろって見るからにテキトーな者たちだ。そうだ、おそらく『腹ペコ』とはアーティスト側のふわっとした思いつきだ。『マキシマムザホルモン』とはそういう者たちだ。これで、この問題はふわっと解決したことにしよう。

私の『満プク』はふわっとしたものではない。これはどういうわけなのか。
決して我慢をして『走りっぱなし』ているわけではないのだ。ただ、生理現象の限界まで『走りっぱなし』たいのだ。
ああ、なつかしいことばを思いだした。いまは、おそらくこれが正解にいちばん近い。
「ほとんどビョーキ(古い)」だ。それだ。

余談になる。『ほとんどビョーキ』は日本中がうかれていた80年代のバブル期の『躁』状態を見事にあらわしたことばだ。使い方は色々あるだろう。『躁』状態で(無理矢理、半強制的にでも)、うかれはしゃぎまわる者たちの病的なサマを指していた。と思う。『ほとんどビョーキ』は廃れた。バブル経済が崩壊したからだ。いいセンスだといまで思う、そんなことばだ。そのお陰もあってか、『ほとんどビョーキ』はひとり歩きする事無く80年代で終わった。

その後、失われた30年が始まる。日本経済にとっては『鬱』期といっていいのかも知れない。そして、『ほとんどビョーキ』から引き継ぐように『中二病(厨二病)』がうまれた。伊集院光氏の口からうまれたそのことばは、あっという間に氏の手から離れた。いまでも、幅広く自由に『広義』に親しまれている。中二病生みの親などと言われることもある伊集院光氏は「もう、なんだかわかんなくなっちゃた」と半ば匙をなげている。
『ほとんどビョーキ』と『中二病』は半ば強引に『躁と鬱』の関係にあるのではないかと私は思う。そして、その二つの時代を代表する、まぜこぜになったことばが早晩何ものかの手によってうまれるだろうと思う。これからの時代を代表することばを私は楽しみにしている。
しばし、考えてみたけれどなにもうかばなかったので、『ない病』『ないビョー』『もうないビョー』でどうだろうか。

私の日帰りの『走りっぱなし』ツーリングはこうして終わった。疲れ果てた私はベッドに潜り込む。その私の枕元で『走りっぱなし』の私にやっと追いついたのは旅の風景だ。私はその美しい風景の多幸感のなか眠りに落ちるのだ。枕元の私に追いついたのはまだいいほうで、さらに遅れて夢のなかで追いついた旅の思い出は、私の夢の世界の入口を探さなければならない。せっかくなのだから、朝になるまえに私の夢に忍んできて、朝のアラームに負けないような旅情いっぱいの夢を昼過ぎまでみせてほしい。旅の次の日は半休でいいだろう。



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