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【横田一】中央から見たフクシマ 78

民意無視の安倍政権を支える吉村氏

 福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に突き進む安倍政権(首相)に、強力な援軍が現れた。日本維新の会副代表を兼任する吉村洋文・大阪府知事のことだ。新型コロナウイルス対策で政府に物を言う姿勢などを受けて、最も評価される政治家第1位に急浮上(毎日新聞世論調査)。この〝吉村効果〟に引っ張られる形で維新の支持率も上昇、立憲民主党を抜くことにもなった。

 しかし、かつての維新の〝顔〟だった橋下徹・元大阪府知事と同様、安倍政権に協力する見返りに地元大阪への利益誘導(インフラ整備や肝いり政策への支援など)を勝ち取る政権補完路線には変わりはない。

 「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけた投稿が数百万件に達した検察庁法改正案でも「反対しない」という立場を繰り返し、維新国会議員団も附帯決議採択を条件に賛成する方針を決めていた。5月14日の吉村氏の会見で「特例的な定年延長で検察が内閣のコントロール下になってしまう懸念が示されているが、それでも反対しないのか」と聞くと、こう答えたのだ。

 「検察庁については、僕は内閣が第一義的に(人事権を)持つべきだと思います。内閣は選挙で選ばれる人で占められるわけですが、その時の政権のあり方がおかしいのであれば、選挙で降ろせばいいわけです。仮に政府が黒川さんを検事総長に選びたいのだとしても、人事権は内閣が持つべきではないかというふうに思っています。検察庁法改正案については反対ではありません」

 人事権を内閣が持つこと自体を野党は問題にしているのではなく、特例的な定年延長を認める部分の削除を要求しているのだが、この点の賛否を再度聞いても同じ内容の回答しか返って来なかった。最後に「『内閣が恣意的な定年延長を可能にする法案に最終的に賛成する』と捉えられると思うが」と確認しても、吉村氏は「『恣意的な』という表現自体が僕は『恣意的だ』と思います」と反論、内閣が人事権を持つべきとの回答を三度繰り返すにとどまった。

 維新は与野党激突法案で何度も政権と足並みをそろえてきたが、検察庁法改正案でも同じ対応をした。この「野党」でも「与党」でもない「ゆ党」として安倍政権をアシストする路線こそ、維新に恩恵をもたらしてきた。橋下徹著『政権奪取論――強い野党の作り方』にはこうある。


 「うめきた2期開発、阪神高速道路淀川左岸線の延伸、大阪万博への挑戦、カジノを含む統合型リゾート推進法(IR推進法)の制定、リニア中央新幹線の大阪開通の8年前倒し――その他、これまで法律や制度の壁にぶつかっていたことを安倍政権の協力で乗り越えたことは多数ある。ゆえに、日本維新の会が安倍政権に協力することは当然だ」

 政権に協力する見返りに地元への利益誘導に励む維新の伝統的手法は吉村氏に継承されていたのだ。

 翌週20日の吉村氏の会見では、米国カジノ大手「ラスベガス・サンズ」が日本進出を断念したことを受け、「大阪へのカジノを含むIR誘致を見直す考えはないのか」と聞いたが、吉村氏は「見直すつもりはない」と断言した。コロナの感染拡大でカジノ業界の利益率は激減。カジノの収益で周辺施設を運営するビジネスはもはや成立困難と見られるが、それでも吉村氏はカジノ推進の安倍政権と足並みをそろえた。コロナ時代のニューリーダーとして注目される吉村氏だが、民意無視の安倍政権を支える補完勢力政党のトップでもある。安倍政権を延命させ、多くの福島県民が望む原発ゼロ社会の実現にブレーキをかける恐れがあることを忘れてはならない。


フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。




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