『世界時々フィクション(No.10)』中国の一人っ子政策が終わり!?
星野が話しかけてくる。無意識に男を惹きつけるところが厄介だ。
「小林さん、ちょっといいですか?」
「どうしました?」
「私も面接をしたいんです」
「そうかい?それはまたどうして?」
「やっぱり人事として専門性を磨きたくて」
「・・わかったよ。井上に相談してみることにするよ」
「採用を担当できる人間は多くないんだよ。人に会うのが好き。これが最初の条件なんだけど、ここで落ちる人間が8割を超えると思うね。」
星野は可愛らしい目を丸くさせて、少し考え込むような感じになった。私は気にせずに仕事をつづけた。
その日は月曜日で仕事のエンジンがなかなかかからなかった。月曜日の午前中はみんなそんなもんだろうと思う。自分を奮い立たせる意味でも、スモールトークから始めることにしている。
話題は人事分野の中でも、特に採用という分野に関することだった。賢い人間は労基法やら、評価制度、賃金体系をいじくりたがる。この点に関しての私の考えはシンプルだ。評価制度は事業の発起人が作るべきで、それ以外の作成した評価制度というのは気の抜けた炭酸みたいなものだ。立ち上げの熱気も知らない人事担当が、一体何を評価するっていうんだ。発起人のいなくなった組織は延命治療をするだけだ。今の日本と同じだ。
さて、ニューヨークタイムズで中国の政策のニュースが飛び込んできた。出生率の低下。中国がこれで悩んでいるらしい。日本と同じのようだ。
その日のランチはオニギリと緑茶で簡単に済ませた。結局、こんな昼飯が美味しかったりする。
さて、既婚者は三人まで子供を持っていい。中国共産党が許可を出した。人生に権力がツベコベ口出される日常なんて、心穏やかな毎日じゃないだろうな。そんなことを考えた。
権力側の言い分だって一理ある。高齢化が進めば国の経済や豊かさを保つことが出来なくなる。ゆえに、一人っ子政策を取りやめて、さぁ、子供をつくりたまえ。そんなとこだろう。統計に基づき判断するという政治手法が主流の我らの時代においては、人口減は早急に手を打たなければならない問題点となる。おそらく、統計なんかとっていなかった時代なら、そんな問題意識すらなかっただろう。未来のことなんか誰にわかる?それで済んでいたはずだ。ところが、統計である程度未来予測が出来るようになると、人間の行動に変化が起きるのだ。
一人っ子政策だ。さて、人間は権力から命令された方が輝くのか、それとも、自分の意思で行動を取る方が輝くのか。前者の立場を取るのが社会主義で、後者の立場が資本主義、自由主義だ。
2013年に中国共産党は一人っ子の家庭に対して、二人まで子供を持っていいとした。その二年後、今度は、全家庭に対して二人まで子供を持っていいとした。政策担当者にとって、それぐらい人口減少問題はシビアなのだ。
午後、同僚と話す。なんだか人事の仕事を辞めそうなトーンだったので、悩んでいるのか、尋ねてみた。
「悩んでいないですよ。ただね、営業とか、もっともらってるやつの顔を見ると、やってられなくなるんですよ」
同僚の声は半分冗談まじりだが、それも本音だ。サラリーマンの生活は、他人の給料を考えるべきではない。我々は金銭的に裕福な者を、尊敬に値する人間だと思いたい傾向が強いのだ。ゆえに、金銭的に恵まれた者のちょっとした不機嫌な対応とか、身勝手な行為というものに、社会の不平等を見てしまい、途端に許せなくなる。だからこそ、愉快に生きていきたいなら、他人の財布の中身だけは、気にしないことだ。
2025年までに中国で60歳以上の人口の者は三億人を超えるらしい。日本の人口より遥かに多い。やはり中国は大国だ。
私は仕事を片付けてから、家路に着いた。今日の夜ご飯はマグロアボガド丼だとLINEが入った。妻はレシピ本を見て、ずっとマグロだと思い込んでいたが、よく見ると、レシピではサーモンだった。マグロと思い込んでいたと言って、ケラケラ笑っていた。なんでも、本当はサーモンアボガド丼が正解らしい。
「ずっと思い込んでいたのよ」
そう言って妻は笑っている。
海を渡った中国じゃ、一人っ子政策を守るために、女性たちは妊娠中絶や不妊の努力をしたり、一人っ子までというルールを守れなかった公務員が仕事を辞めさせられたりするなどの事態が起きていたようだ。
子供を産みたくても産めない者もいれば、産みたくなくても産まなければならない者もいる。自分の意思で人生を選択できる者もいれば、政府の意思に人生を左右される者もいる。人生とはなんと思い通りにいかないものなのか。
私はマグロアボガド丼をモグモグ食べて、ゴロリと横になった。しかし、いずれにせよ、この夜ご飯は美味い。考えても無駄なことは無駄なことだ。人口?中国?さて、風呂にでも入って、今日もぐっすり寝ることにしよう。
(続く)
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『世界時々フィクション(No.10)』中国の一人っ子政策が終わり!?
参考記事:By Sui-Lee Wee, "China Says It Will Allow Couples to Have 3 Children, Up From 2", “The New York Times”, Published May 31, 2021 Updated June 1, 2021
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