見出し画像

たった310文字で小説1冊分、そして読書感想文

 先日、古事記と日本書紀の中の「国産み」の部分に触れました。後からよく考えますと、これはとてもすごい文なのだなと思いました。何しろ、たった310文字の中に日本列島が出来てしまうまでの経緯が全て入っているのです。しかも、その310文字の中に簡単な説明だけでなく、セリフまで入っています。何と無駄のない文なのでしょう。つまり310文字が小説1冊分に相当してしまうのです。

 140文字でショートショートを書かれる方も多いですが、それと同じかそれ以上かもしれません。漢文ですから和文よりは短くなりますけれど。

伊弉諾尊・伊弉冉尊、立於天浮橋之上、共計曰「底下、豈無國歟」廼以天之瓊瓊、玉也、此云努矛、指下而探之、是獲滄溟。其矛鋒滴瀝之潮、凝成一嶋、名之曰磤馭慮嶋。二神、於是、降居彼嶋、因欲共爲夫婦産生洲國。便以磤馭慮嶋爲國中之柱柱、此云美簸旨邏而陽神左旋、陰神右旋、分巡國柱、同會一面。時陰神先唱曰「憙哉、遇可美少男焉。」少男、此云烏等孤。陽神不悅曰「吾是男子、理當先唱。如何婦人反先言乎。事既不祥、宜以改旋。」於是、二神却更相遇、是行也、陽神先唱曰「憙哉、遇可美少女焉。」少女、此云烏等咩。因問陰神曰「汝身、有何成耶。」對曰「吾身有一雌元之處。」陽神曰「吾身亦有雄元之處。思欲以吾身元處合汝身之元處。」於是、陰陽始遘合爲夫婦。

下は、上記の文を改造して私が今書いている小説の中で使ったものです。現代文に読み下しのセリフを混入させてなんとなくわかるようにカッコつけています。ですから多少違っていますが流れはだいたい同じです。

 男神と女神は淤能碁呂島に天下った。そして天の御柱と八尋の御殿をお建てになった。

 ここで男神は女神に「汝が身は、如何に成れる」とお尋ねになると、女神は「吾が身は成り成りて、成り合はざる処 ひとところあり」とお答えになった。そこで男神は「我が身は成り成りて成り余れる処ひとところあり。故此の吾が身の成り余れる処を以て、汝が身の成り合はぬ処に刺し塞ぎて、国土生み成さむとおもほすはいかに」と仰せになった。女神はそれに「然るに善けむ」とお答えになった。ここに男神詔りたまひしく、「しからば、吾と汝と是の天の御柱を行き廻り逢ひて、みとのまぐはひ為せむ」と仰せになった。

 そして男神は左回りに女神は右回りに天の御柱を巡り、そうして出逢われたところで女神が「あなにやし、えをとこを」と男神をお褒めになった。次に男神が「あなにやし、えをとめを」と女神をお褒めになった。それから二神は目合われた。

 さて、話はここで終わりません。こうした短く書く技術は、読書感想文を書くのととても似ていると気付きました。小説1冊を読んで1000文字ほどの感想文にする、それと似ています。

 例えば、「天の御柱」はその機能と外観が説明されていません。でも、最後の方になって「男神は左回りに女神は右回りに天の御柱を巡り」のところで機能の1つはわかります。国を産む儀式に使われるものです。ただし、別の機能である、天を支える柱という機能は出てきません。出て来なくてもそれは儀式には必用無いのでカットされています。

 それに対して「八尋の御殿」は作られるだけです。儀式には重要ではないですが、たぶんベッドルームのようなものでしょうか。ですから作っただけでそれ以外の情報はカットです。

 そこからはセリフ劇になります。つまり、「国の作り方とかわかんないけど、どうしようね?」と話し合って決めています。「私のここのところ穴になってるわ」「僕のここは出っ張ってるから、あの柱を回って会ったところで入れてみちゃおうぜ」、です。細かい事は無しです。「何着て行こうかな?」「ドキドキしちゃうな、失敗したらどうしよう」とか、要りません。

 最後のところはお互いに褒め合うという儀式の重要部分のみで完了となります。

 これをまともに書いたら本当に小説1冊分ありそうです。でも、本当に大胆不敵、たったこれだけで国ができるところまでの全工程を文字にしてしまっています。これは小説無しで先に読書感想文用の要約のところだけが書かれた感じです。古事記ですと、これに「おまえ、先に言っちゃダメじゃないか!」とか「間違っちゃったけどやっちゃえ」みたいな部分も入ってますからさらに凄いです。

 感想文を書く時にはこうした行動部分だけでなく、心理的なところもこうして要約する必要がありますが、やり方としては同じだと思います。参考にしてみてはいかがでしょうか。


 実は、私の小説では上の国産みの流れを逆に文字数を増やして短編にしたようなものにしています。上の太字の文を物語の先頭に置いて、それ以降の章は同じ流れで物語が展開します。こちらも参考まで。


この記事が参加している募集

#読書感想文

191,135件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?