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損切りとコンコルド効果の話

 かなり突っ込んだところまで記述します。
 肌に合わない方は、文章の途中でもそっと閉じていただけると幸いです。
 イヤだけど閉じられない…としたら、それはコンコルド効果かもしれません。

 せっかくここまでやったのだから、もう少し。

 これは極めて日常的に発生する心理で、自覚して気をつけていても回避の難しい心の仕組みです。

 先日、前澤氏が出会いをサポートする新しいサービスを開始しましたが、ある種の重大な危険性が指摘されると、ただちに配信停止に舵を取りました。話題作りにしては費用対効果が低過ぎますから、おそらく思いもしない角度からの指摘だったのでしょう。
 そのまま配信を継続したら大きな事件を引き起こした…かもしれません。新たな情報に対する瞬発力と判断力が速い。あれは一種の損切りだったのだろうと推測します。

 ここまでやったのだから、もう少し。

 それが有用な努力の方向ならば、これほど心強いことはありません。ところが現実には、そうでないケースが溢れています。

 コンコルド効果は通称で、正式には埋没費用効果(sunk cost effect)と表現されます。 
 端的には「ある対象への投資の継続が損失に繋がると分かっていても、それまでに費やしたモノが惜しくて投資をやめられない」という心理です。

 この場合、投資とは金銭にとどまらず、時間や精神も含まれます。
 実際の投資や投機は勿論、あらゆるギャンブル、多くのソーシャルゲーム、一部の宗教などは分かりやすい例でしょう。視点を広げると、連載が長引き過ぎてつまらなくなってきた漫画を読み続けてしまうことや、嫌だと思いながら惰性で別れられないパートナーとの関係性にも、コンコルド効果が働いていることに気付きます。

 投資を中断することは目に見える損失です。それは投資してきた過去の自分を否定する決断ですから、自分の過失を認められない人ほど、強烈なコンコルド効果に付き纏われる状況に陥ります。


 さて、5類になるとかならないとか、話題のウイルス感染症があります。
 流通しているワクチンは、果たしていつまで打ち続ければよいのか。そもそも打つ必要があるのか。効果と危険性は、実のところどうなのか。

 打ち続ける人にも、全く打たない人にも、やはりコンコルド効果は出現します。前者はワクチンに投資を続け、後者はワクチンでない何かに投資を続けている構図と考えます。

 打ち続ける人は、「ここまで(効果を信じて)打ってきたのだから、今更引き下がることはできない」と感じるかもしれませんし、全く打たない人は「ここまで打たなかったのだから、打つべきではない」と考えるかもしれません。

 統計学的な事実、すなわち過去のデータ解析から考えると、科学的に某ウィルス感染に対する有効性は明白です。恐ろしいウイルスが計画外に拡大した(かもしれない)ために起きたパンデミックの中で、これほど死者と重症者が少なく収まっているという事実は、やはり新規ワクチンの効果の証左と考えます。

 きわどい表現をしましたが、ウイルス陣営にもワクチン陣営にも、私はそれぞれ懐疑的な思考を持ち合わせています。何かを盲信することは常に危険を孕みますから、自分で考えることをやめてはいけません。

 私はパンデミックの初期、本邦で最初の発症者が確認された頃から現場に居りました。目の当たりにしたのは気味の悪い未知なる肺炎によって、わずか数時間から半日で急激に呼吸状態が悪化していく光景でした。当時は感染力の程度や感染経路さえ不明確でしたから、概ね酸素マスク4リットル/分以上を要する場合には気管挿管を行い、人工呼吸管理下での治療を継続しました。

 断じて、風邪ではない。

 振り返ると、この感染症の危険性は極めて高い感染力と中途半端に低い致死率にあります。死に至る病態では、ウイルスそれ自体よりも私たちの身体の防衛機構の暴走が直接の死因となります。
 暴走とは、過剰な炎症反応と、不気味な血液凝固異常のことです。言い換えると「どこで起きるか分からない爆発と凍結」のイメージです。

 起きた場所によって症状が決まります。
 肺で爆発が起きれば、急激な呼吸不全で死に至り、同じく肺で凍結が起きても、血液が届かず呼吸不全に陥ります。
 嗅細胞で爆発や凍結が起きれば嗅覚が消失し、心臓に爆発が起きれば心筋炎、凍結が起きれば心筋梗塞になり得ます。脳炎や脳梗塞も同様ですし、神経付近に爆発や凍結が起きて脱髄したらギランバレー症候群だって起こり得る。

 このため治療は、抗凝固療法を継続しつつ、超急性期を過ぎたら抗ウイルス薬よりも抗炎症療法が有効になるという絡繰です。

 はたしてウイルスは弱毒化しているのでしょうか。様々な変異型によって性質が異なることは周知の事実ですが、弱毒化とは限らないのが実情です。もちろん、変異株によっては毒性の低いものもありますが、種類が多過ぎてどの株に当たるか予測するのが難しい。


 科学的データはそこかしこに溢れていますから、ここでは極めて個人的な、私の経験と思考を記載します。何かを断定したり推奨したりする意図ではないことを明言いたします。

 科学的に示されたリスクのうち、私が肌で感じるリスクは「肥満、糖尿病、高齢」です。
 さらに「ワクチン接種ゼロ」と「ワクチン3回以上接種」には雲泥の差があります。

 では具体的にどうするのが最適でしょうか。

 もちろんそれぞれの背景や基礎疾患によって画一的なことはいえませんが、極めて個人的な私の思考をまとめますと、

 それまでの感染の有無に関わらず、

・未接種かつリスクに該当するなら、3回目まで接種することのメリットが極めて大きい。
・未接種かつリスクに該当しないなら、ワクチンのリスクと効果を天秤にかけて慎重に判断したほうがいい。
・3回以上接種しているなら、必ずしも打ち続けなくていいかもしれない。もし打つ場合、タイミングを見極めた方がよい。

※個人の感想です


 今後の情報や経験によって変わっていく可能性はありますが、今現在の私の考えはこのあたりに落ち着いています。

 どの選択も、多様性の範疇です。
 10年先のことなど、誰にも分かりません。
 誰が生き残るのか、何が最善だったか。それは後年の歴史が証明することでしょう。

 疑問・質問・感想その他諸々、謹んでお受けいたします。私は私というバイアスから逃れることはできませんが、肩書きを下ろしたこの場所で、正面から回答させていただきます。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、思考の末の貴方の選択が、何者にも否定されずに尊重される社会でありますように。

 

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