恋とは呼べなくて

 あの時抱いていた気持ちに名前を付けるのだとしたら「恋」になるのだろう。でもあの気持ちに名前を付けてしまったら、そこで何かが終わってしまうような気がしていて、私はそれをまだ「恋」と呼べずにいる。

 友情とその先の区別がつかないままに世界は大人の都合で回っていたし、宿題にもテストにも模試にもうんざりしていたし、雨も降ったし雪も降っていた。寝息も私服の好みも知っていたけれど、別れの言葉もないまま、今はどんな風に笑うのかさえ知らない。

 私はそれを未だに「恋」と呼べずにいる。
 記憶の中の、宝石のような瞬間を。

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