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進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#12~北海道5日旅:5日目【千歳→新得→新千歳空港】

 乗り回し旅最終日の今日は昼前に新千歳空港で妻と落ち合って普通の温泉旅行客に変貌するので、新得まで往復して半日で店じまいである。初日に気温21度を示していた千歳駅前のモニュメントは今朝は16度となっていて、僅かではあるが季節の進行を実感する。 

2022年9月10日(土)7時10分発の各駅停車で千歳駅から隣の南千歳駅に移動し、釧路行き石勝線経由の特急『おおぞら1号』に乗り込む。石勝線の開通は札幌圏と道東との往来を飛躍的に便利にしたが、一方旧来からの滝川経由の根室本線ルートをすっかり寂れさせてしまう結果も招いたので、余所者としては中々複雑な印象を持たざるを得ない路線ではある。
 上空をバンバン飛行機が飛び交う南千歳駅を7時20分に発車した特急は暫く走ると進行方向を左に変え、千歳線に別れを告げる。無数とも思える牧場の牛たちを眺めているうちに7時32分追分駅着。ここは石勝線と室蘭本線がⅩ形で交差し、昔は岩見沢方面からの石炭貨物列車も多く行き交った大きな駅だが、今は貨物扱いもなく、室蘭本線は本線とは名ばかりの超ローカル路線に成り果てている。元気なのはこの石勝線だけのようで、今回の道中で何度も見た広大かつ寂れた構内風景がここにもあった。ホームには「道の駅あびらD51ステーション」という大きな看板がかけられている。

 追分駅を出るとすぐに室蘭本線から分岐し、20分ほどで新夕張駅に到着する。その昔は紅葉山という優美な名称だったこの駅から中心市街地まで延びる夕張線がかつて存在していたが、市の破綻という異常事態のゴタゴタの中で廃線となってしまい今はない。旧夕張線の廃止に至る過程はまだ記憶に新しく、もう分岐駅ではなくなった小綺麗な新夕張駅の構内もこれまた若干持て余し気味の広さを感じさせる。

 しかしそんな夕張線への哀愁をしみじみと感じる間もなく、特急列車はそそくさと発車する。ここからが日高山脈をぶち抜いた新線区間で、新得までの約90キロの間に占冠とトマムの二つしか駅がない。新夕張駅を出るとすぐに深い山林の中に入り、占冠駅の近辺以外は人里らしきものは見えない。もっとも駅は少ないが行き違いと保守のための信号所はやたらと多く、鉄道地図帳で数えてみたら11か所もある。静まり返った信号所に対向列車の走行音が徐々に響いてきて、やがて列車の姿が見え、そして通過していく。そんな光景が何回か繰り返され、我が特急は日高山脈を越えていく。

 新夕張駅から30分以上走り続けてようやくトマム駅に着く。あの有名なトマムリゾートのタワーホテルがそびえ立っているのが見える。今は駅名も地名もカタカナだが、元々は湿地を意味するアイヌ語に「苫鵡」という漢字を充てていたらしく、カタカナにしただけで途端にリゾート地っぽさが漂ってくるのが不思議である。大観光地の最寄り駅にも関わらず、乗降客は殆どおらず、駅には列車のエンジン音だけが鳴り響いていた。
 
 ここから次の新得駅まではまた30分走り続ける。4キロ超の第二串内トンネルを抜け、しばらく走ると根室本線との合流地点である上落合信号所に到達する。ここからの東鹿越駅までが災害で不通となっている区間で、一昨日夕刻に代行バスで通った場所である。
 上落合信号所を過ぎるといよいよ狩勝峠を貫く6キロ弱の新狩勝トンネルに入り、その先は大きなS字カーブを辿って新得の街に向け徐々に下っていく。旧線からの付け替えで車窓の魅力は少なからず減ったと言われているが、右に左に展開する山々と平原のコラボはその昔を知らない私にとっては感動に十分値する車窓風景である。違った季節の違った表情も見てみたいという欲求に駆られる。

 8時49分定刻に新得駅に到着、早速またも駅そば店舗に向かうが、営業開始は10時で暖簾は仕舞われていた。一昨日に食しておいて良かったと安堵しつつ、戻り列車までの30分をソフトクリームを食べたり、今日は乗る訳でもない代行バス停留所の写真を撮ったりして時間をつぶす。駅前広場では地元産品の直売イベントがあるらしく興味をひかれるが、オープンは11時でこちらにも縁がなかった。

 ソフトクリームをのんびり食べていたら存外時間がなくなってしまい、9時21分発の最後の特急列車『とかち4号』に慌てて飛び乗る。先ほどの往路は4割程度の埋まり具合だったが、土曜日の朝で千歳や札幌に行くのにちょうどいい時間に走るからか、復路のこの列車はほぼ満席である。往路と反対側の窓席に座り、数時間前と同じように雄大な車窓を眺めたり写真や動画を撮っていたが、やはり混んでいるとそういう行動も控えめになるし、往復の常である若干の睡魔にも襲われ、旅の終焉の寂寥感もさほどないまま、南千歳駅に11時2分に舞い戻った。

 南千歳からは各駅停車に乗り換え、一駅で月曜の夜以来となる新千歳空港駅に11時14分着、「北海道5日旅」いや厳密には「4日半旅」となる漫遊はここで終了した。月曜とは逆に駅からの長い通路を歩いて空港に到着すると、久々に見る妻がまさにちょうどゲートから出てきたところであった。

 データ的に振り返ってみると、出発前は北海道JR全線2284.5キロ中の既乗区間は403.8キロで乗車率17.676%であったのが、この旅で1409.8キロを乗りつぶし、乗車率は79.387%となった。一気に60%超を上積みした計算になるが、残りの2割をつぶしていく道のりは遠くて長い。
 しかしこの時にはそういうことは脳裏にはなく、すっかり温泉モードになった私はレンタカーを駆ってルスツリゾートへの道を急いだ。ちなみにルスツの語源は「道が山のふもとにある」という意味のアイヌ語だが、村の正式名称は今も「留寿都村」である。

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