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進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#1~ささやかな決意まで

 簡単なことでも最後までやり遂げるのは難しい。これは当たり前のことであるが、簡単でないことが対象となれば更に難しくなるのもこれまた道理である。
 私は熱意も気力も長続きしないダメ人間であるが、そんな私でもやり遂げた数少ない成果が、20年ほど前にJR西日本が企画した乗りつぶしイベント「チャレンジT-1グランプリ」というもので、約1年かけてJR西日本の全線を完乗して記念盾をもらった。しかしこれも鉄道旅行好きの友人Cさんに誘われて腰をあげた結果であり、西日本を乗り尽くしたからといって、次は全国制覇しようなどとは思ってもいなかった。

 それでも鉄道旅行好きには変わりないから、妻との旅、ひとり旅、Cさんとの旅などを重ねるうちに四国と九州はほぼ乗ってしまったのではあるが、関西在住で東日本は遠いからという漠然とした理由で、依然として全国完乗は頭になかった。しかしある理由で仕事を辞め自由な時間が出来たので、昨年秋に5日間のフリー切符を使って北海道をグルグルと回ってきたところ、どういう訳か「ここまできたらJR全線完乗したい」というささやかな欲望が湧き上がってきた。
 一方、Cさんは私と違ってきちんと目標を立ててそこに進んでいく性格で、乗りつぶしも着々とこなしており、九州・四国・西日本・東海と平らげてしまった。そうなるとダメ人間な私でも少しく刺激を受けるのは必然で、昨年末には遂にJR全線完乗を決意したのである。

 さて決意したのはいいが、果たしてJR全線のどれくらいに乗ってどれほど未乗なのかをまず把握せねばならぬ。情けないことにこれまでその記録の整理すらしてなかったので、写真やら行程メモを元に精査に取り掛かったところ、丸三日も費やしてしまった。仕事もせずに何を阿呆なことをと一方で考えながらも、その作業は存外に楽しく、寝食を忘れてとまでは大袈裟だが、少なからず睡眠時間を削って時刻表の索引地図コピーへのマーカー塗りと電子データの入力に没頭した。
 そもそも乗りつぶしのルールは人それぞれである。出張で乗ったものはカウントしない、日が落ちて景色が見れなかったらダメ、昼間でも寝ていたら未乗扱い、といった厳格な自己ルールを設定する人もいるが、私の場合あまり厳しく縛ってしまうと夜行寝台で乗った長大な区間が消えてしまうし、乗った途端に睡魔に襲われ到着アナウンスで目覚めた福塩線のようなケースもあるので、『会社の経費で乗った区間はカウントしないが出張先で自費負担で乗ったのはOK、夜行列車・睡眠による無記憶でも認める』というダメ人間らしい甘々なルールを一応設定した。その代わりという訳ではないが、脳裏に乗った記憶があっても、写真なり行程メモなりで客観的に確認できない区間は未乗扱いとした。

 そんな自己ルールをもとに、記憶の風化や勘違いに多く頭を捻りつつ、またCさんからの誤謬指摘もいくつか受けながら、兎にも角にも出来上がった乗車記録は、JR全線19530.0キロ中、既乗区間15920.9キロ、未乗区間3609.1キロ、乗車率は81.520%であった。精査前に予想していた6~7割程度との予想は上回っていたが、線区数でカウントしても66も残っており、そのうち51線区が東日本に集中している。四国は完乗、九州は昨年開業した西九州新幹線と長崎本線の旧線部分だけ、西日本はT-1グランプリ以降に延長開業した可部線の末端2駅分のみ、と攻略は容易だが、自宅から遠く離れた関ケ原以東に目を転じると、東海は残存10%、北海道が20%、東日本に至っては40%の惨状であった。
 
 しかし簡単なことも中々やり遂げられない私ではあるが、考え方を転じてみると、簡単なことより簡単でないことの方がその過程が楽しいとも言えるだろうし、それに出来なかった時の言い訳も容易である。東京を中心に白ボテが広がる路線図を目の前に、誰に説明する必要もないのに、私は無理矢理そんな理屈を捻り出し、ボチボチと全線完乗の航海に出ることとした。

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