2023年上半期に読んでよかった本10選
2023年も半年が過ぎたということで、最近読んだ本の中からいくつかを紹介する記事、2023年上半期編です。
僕が最近読んだものであって、最近出版されたものではない本も混じっています。あしからず。
数年前から同様の記事は書いているのですが、考えてみれば本の紹介というのは、ある種の自己紹介も兼ねているのかもしれない。
読みやすい順とか、出版年順とか考えたのですが、順番は適当です。
アニメ療法 心をケアするエンターテインメント
パントー・フランチェスコ 光文社新書 2022年
アニメで心をケアする新しい療法「アニメ療法」を提唱する一冊。筆者は日本文化を研究するイタリア出身の精神科医。
アニメを評価や批判の目で見るのではなく、「没入」することで感情移入し、鑑賞者の共感性を高め、様々な精神的効果がでる。とかなんとか。
アニメ療法はまだまだ事例が少なく発展途上らしいが、今後の筆者の活躍に期待したい。
メタファー思考
瀬戸賢一 講談社現代新書 1995年
メタファーを主題に、人間の思考や認識について分析する一冊。
序章で説明があるが、例えば「明らか」「立場」「共有」「基礎」「出発」という言葉にもすべてメタファーが関わっている。大概の言葉にはメタファーが関係していることを知って驚いた。
それくらいメタファーは人間の思考に関係している。というより思考そのもの?
最近読んだ本の中でナンバーワン。
体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉
伊藤亜紗 文藝春秋 2022年
理工系研究者へのインタビューをもとに、テクノロジーと人間の体の関係から「できる」について考える一冊。
筆者が言う通り、人が何かをできるようになることは、考えてみれば不思議。まだ見ぬ自分になるため、今の自分にはないものを発見する必要がある。テクノロジーがその手助けをしてくれるわけだが、能力主義に陥ってはいけない。
新訳 弓と禅
オイゲン・ヘリゲル 著、魚住 孝至 訳 角川ソフィア文庫 2015年(元の本は1953年発行)
ドイツ人哲学者が日本で弓を習い、そこから禅の本質を学ぶ。そのプロセスを著した一冊。
著者が師匠に、的の真ん中に当てるにはどうしたらいいかと尋ねると、師匠は答える。的を狙ってはいけない。何も考えてはいけない。弓を引いて矢が離れるまで待ちなさい。そうすると真ん中に当たる。…これこそ禅問答。
禅、あるいはそこから宗教性を除いたマインドフルネスについてのヒントがたくさん発見できる。
回転木馬のデッド・ヒート
村上春樹 講談社文庫 1988年(単行本は1985年)
村上春樹の初期の短編集。そう思って読んだのだけど、「はじめに」で、ここに収められた話は全て本当にあったことだと村上は語っている。なので短編集というよりはスケッチ集。
スケッチ集という前提で読み進めたが、彼がいつも書いているような作品とほとんど同じように感じられた。それは村上春樹の腕(文体とか表現能力)によるものだろう。
あまり意識していなかったが、村上春樹って文章がめちゃくちゃ上手い。そう思った一冊で、初心者でも読みやすい作品だろう。
(追記 : 「本当にあったこと」という設定のようです)
ポテトチップスと日本人
稲田 豊史 朝日新書 2023年
ポテトチップスと日本人の関わりの歴史を辿る一冊。
戦後から始まったポテチの歴史は、日本の復興と発展の歴史を映していて、とても興味深く読めた。新書にしてはややボリューミー(300ページちょい)だが、面白くてスイスイ読める。
表紙カバーのデザインがナイス。
スマホ時代の哲学 失われた孤独をめぐる冒険
谷川 嘉浩 ディスカバートゥエンティワン 2022年
常時接続されている現代に必要なものとは…孤独。孤独をめぐる哲学を教えてくれる本。
この本の主張を短くまとめるなら「いきなりパブリックにつながってばかりではなく、プライベートな享楽を追求することが現代人には必要ではないか」。スマホに慣れ親しんでいればいるほど、チクリと刺さるものがある一冊。
映画やアニメ(例えばエヴァンゲリオン)を参照したりしてるので面白く読める。読書案内もついてて、次の読書につながる一冊。
雑草はなぜそこに生えているのか
稲垣 栄洋 ちくまプリマー新書 2018年
タイトル通り、雑草をテーマとした植物学の本。
ずっと雑草のことが述べられているのだけど、それはそのまま人間についても当てはまるような気がして、とても示唆的。
雑草という名称は人間の都合によって定義されたものにすぎない。社会の通年を相対化してくれる良本。
ゼロからの『資本論』
斎藤 幸平 NHK出版新書 2023年
マルクスの『資本論』を新しい視点から読み直す入門書。
以前、同じ筆者の『人新世の「資本論」』を読んだのだが、それよりも随分読みやすかった。
カバーの裏表紙にはこうある。”これからも資本主義が続く、と言われて未来に希望を持てる人は、どんどん減っているのではないでしょうか?”。まさしく。
この本で述べられているような、経済成長からの脱却した社会の方に転換することは生半可なことではないと思いつつ、そっちの方が魅力的に映る。ひとりでも多くの人(とくに若い世代の人)に読んでほしい一冊。
余談だが、筆者は、片方のフレームが○でもう片方が▢の眼鏡をしてる成田悠輔さんではない。
消滅世界
村田沙耶香 河出書房 2015年(単行本)
『コンビニ人間』の筆者。今作の舞台は、人工授精が発達した近未来の日本。この世界では恋愛も性欲も家族も徐々になくなっていく。
これは誉め言葉なのだが、何度も気持ち悪いと思った。生まれてくる子どもは皆区別がつけられず「子どもちゃん」と呼ばれているところとか恐ろしい。
そう思いながらどこか現実的にも感じられるのはなぜだろう。この物語の世界がおかしいと思う一方、見方を変えれば、現実の世界こそおかしいのかもしれない。笑えない。
おしまい。
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