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【世界のムーブメント】東アジア圏に波及するIUU漁業対策

皆さん、こんにちは
シーフードレガシー代表取締役CEO 花岡和佳男です。

日中韓サミットで触れられたIUU漁業の撲滅へ向けてのコミットメント

すでに報道にある通り、5月27日に韓国ソウルにて、第9回日中韓サミットが開催されました。岸田文雄内閣総理大臣、尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領(議長)、李強(り・きょう)中国国務院総理が一堂に介し、今後の協力や地域・国際情勢について、意見交換が行われたとのこと。

会議後に発表された共同宣言を確認すると、38項目あるうちの21項目に、下記の通り、IUU漁業対策に関する記載がありました。具体的な手段や措置には触れていないため曖昧で単なるポジショントークなのではという声も聞こえますが、主要漁業地域および主要水産市場地域として世界の中でも特にIUU漁業リスクが高いとされる東アジア圏のトップ陣が、共同でこのコミットメントに触れたことは、注目に値します。

21. 海洋生物資源の保全及び持続可能な利用に対する最も深刻な脅威の一つである違法・無報告・無規制(IUU)漁業を終わらせるという我々のコミットメントを認識し、我々は、多様な手段を通じて、IUU 漁業を防止し、抑止し、撲滅するための強固で効果的な措置を実施する。我々は、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の迅速、完全かつ効果的な実施にコミットする。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100675092.pdf


東アジア圏の新興水産市場、台湾や韓国でも進むIUU漁業対策輸入規制

上記 第9回日中韓サミットの少し前の5月6日、台湾立法院が、IUU漁業撲滅を目指す国際潮流に参加するため、遠洋漁業法の改正案を成立させました。これは、IUU漁業に由来する水産物の台湾への輸入の禁止を意味します。IUU漁業対策のため特定の国や地域からの水産物の一部または全部の輸入を禁止する権限を規制当局が有することや、IUU輸入禁止措置に違反した際の罰金などが示されました。

また、韓国政府も、4月15日から17日にギリシャ・アテネで開催された第9回 Our Ocean Conferenceで、IUU漁業の撲滅に向けた政府連携プラットフォームであるIUUアクションアライアンスへの参画や、輸入規制強化などを含むIUU漁業の廃絶へ向けたリーダーシップを、国際社会に発表しました。これについては前回のNoteに記載した通り。


IUU漁業対策でアジア圏をリードしてきた日本。今後の動きは

日本政府はいまだにIUUアクションアライアンスへの加盟には前進が見られませんが、一方で、太平洋クロマグロのIUU漁業防止に向けた漁業法と水産流通適正化法(流適法)の改正案を、6月19日に通常国会の参院本会議で可決・成立させました。漁業者に対しては採捕した大型魚の個体数の報告に加え、重量、漁船名などの記録の保存を義務付け、流通業者に対しては採捕時の記録情報の伝達義務を課すものです。太平洋マグロは、世界が注目する日本の魚食文化の象徴種。シーフードレガシーはこの度の規制強化を、国際的なIUU漁業対策で積極的な対策を果たそうとする日本政府の姿勢の表れだと捉えています。

流適法は、IUU漁業対策の水産物輸入規制としてアジア圏で初めて成立・施行された法律です。今年の12月は、同法が日本で施行されて2年が経ち、初めての見直しが行われるタイミング。日本政府にとっては国内および国際社会に対する次の最大の"見せ場"です。シーフードレガシーも加盟するIUU Forum Japanは、日本政府に対して、3月1日に下記の項目を含む要望書を提出しています。

「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」の強化をはじめとした IUU 漁業および人権侵害対策の更なる改善を求める共同要望書

IUU アクションアライアンスを含む国際的なプラットフォームに積極的に参加し、海外と連携して IUU 漁業対策について検討・実施すること。

日本で大量に消費され、かつ、IUU 漁業のリスクが比較的大きい、マグロ類、カニ類、 エビ類、ウナギ類、その他の天然・養殖魚種などを、日本の流通適正化法等の輸入規制の対象魚種に加えること。

日本に流通するすべての水産物に段階的に拡張できるような、電子漁獲証明書と報告システムを確立すること。

システム全体を通じてより高い透明性を確保し、EUおよび米国の既存の輸入管理制度と整合性のある主要データ要素(KDEs)を含む、GDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)などの国際基準と一致するトレーサビリティ・システムを開発すること。

水産物を輸入する際は、製造・加工過程で人権侵害が発生していないことを保証するために、追加的なチェックを実施すること。

https://iuuwatch.jp/news/joint_statement_20240301


世界主要水産市場である日本が持つ課題

私達シーフードレガシーは6月7日に、WWFジャパンと共に、「<ROAD TO TSSS2024> 責任あるマグロ類調達シンポジウム」を東京・九段会館にて開催しました。マグロ類の生産や流通を手がける企業群、水産分野におけるサステナビリティ・ファイナンスに関心を寄せる金融機関、水産資源管理を行う政府関係者、水産イシューの解決に取り組む国内外のNGOや社会組織、そしてメディアなどから、100名を超える皆様にお集まりいただきました。

ご登壇いただいた株式会社臼福本店 代表取締役社長である臼井壯太朗氏は、このように問題提起をされました。

「私は先日、台湾政府に呼ばれてイベントで登壇し、情報や意見の交換をしてきました。日本市場にとって最大のマグロ類供給者である台湾では、政府も漁業者も、日本市場でのマグロ類の販売価格が安価すぎることに頭を抱えています」

「世界主要マグロ市場である日本では、サプライチェーンの川下が価格を決め、それに見合った生産や加工を上流に押し付けます。これが未来世代への責任を果たそうとする真っ当な事業会社を苦しめ、IUU漁業や労働者の人権侵害を助長しています」

https://seafoodlegacy.com/2024_tuna_symposium

また、セイラーズフォーザシー日本支局理事長である井植美奈子氏による3月27日のForbesの記事で、セブン&アイホールディングスの代表取締役専務執行役員最高サステナビリティ責任者である伊藤順朗氏は、次のように述べていらっしゃいます。

「流通適正化法については、EUのように全魚種にトレーサビリティを義務づける法的な制度があったほうが、より私どもも含め日本の小売りのIUU漁業の排除への取り組みが進むのではないかと思います。

前提として、『大手小売』としての責任は感じつつも、スーパーマーケットは過当競争で、特に鮮魚部門は弊社グループに限らずほとんどのスーパーが経営的に厳しい状況でも頑張っているのが現状です。

IUU水産物について、仕入れ(卸)の段階でトレーサビリティが担保されていなくても流通しており、この課題を解決しない限り、現状はどれがIUUの魚かは見分けられない状態であるというのは言うまでもないことです」

https://forbesjapan.com/articles/detail/69952/page2

上記の通り、問題意識を持ちその解決に取り組むステークホルダーは日本でも増え続けています。政府には、IUU漁業や労働者の人権侵害をサプライチェーンから排除する水産流通システムの更なるアップデートが求められています。

東アジア圏への波及効果を歓迎し、次のグッドセットを

まず、私たちシーフードレガシーは、東アジア圏にIUU漁業の問題地域から解決先導地域へのシフトの兆しが見えてきたこと、そして流適法による日本のイニシアチブがその波及効果を東アジア圏に生み出していることを評価・歓迎します。

その上で、アジア圏におけるハーモナイゼーションの更なる向上と、そのための日本の更なるリーダーシップの発揮を期待します。それが、日本の水産業にとっての唯一の根本的生存戦略であると見ています。

シーフードレガシーが目指すのは、日本の水産業の持続的成長産業化を通じ、海に関わる全ての人が笑顔と活気に包まれ、未来に希望の明かりが灯る世界の実現です。そのマイルストーンとして「2030年までにサステナブルシーフードを水産流通の主流に」を次の目標に掲げています。

真っ当な事業者を不当な価格競争に晒すIUU漁業や労働者の人権侵害を排除し、効果的な管理と協力を促進し、持続可能性を推進するために、政府、企業、NGO、その他のステークホルダーと、引き続き協働してまいります。

TSSS2024でシステムリデザイニングの議論を

10回目の節目開催となる今年のTSSS(東京サステナブルシーフード・サミット)では、環境持続性担保、IUU漁業対策、労働者の人権尊重を焦点に、ネイチャーポジティブの達成や国際食料安全の保障について数多くのセッションを開催します。日本・アジア圏を中心に、世界各地のフロントランナーの皆様にお集まりいただき、水産流通システムのリデザイニングについて徹底議論します。アジア圏最大規模のフラッグシップ・イベント。参加費無料、要事前登録。お席が埋まってしまう前に、ぜひ事前登録をしてください。皆様と会場でお会いできることを楽しみにしています!


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