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【世界のムーブメント】ギリシャとスペインで再確認した、「ポリシー・シフト」と「マーケット・トランスフォーメーション」の二足歩行

皆さん、こんにちは
シーフードレガシー代表取締役CEO 花岡和佳男です。今回は、4月に参加した2カ国でのサステナブルシーフード主流化にむけたムーブメントの様子をお伝えしたいと思います。

1カ国目は、世界各地から政府が集い各々のコミットメントを宣言し合う国際会議「第9回 Our Ocean Conference」 (OOC)への参加を目的に、ギリシャのアテネを訪れました。

その後、スペインのバルセロナで開催された世界最大の水産見本市「Seafood Expo Global 」(SEG)に参加し、水産業が成長産業であり、環境持続性や社会的責任の追求がその背骨に通っていることを、改めて目の当たりにしました。

二つのイベントへの参加を通じて、ポリシー・シフト(政策の転換)とマーケット・トランスフォーメーション(大手流通・サプライチェーン全体の変革)が二足歩行の関係にあることを再確認。その歩みをさらに力強いものにしたいと、気持ちをまた新たにしました。


アテネ:Our Ocean Conference (OOC)

OOCプレナリーの様子。各国際府からのコミットメント発表が相次ぎました。

IUU漁業と「IUU Action Alliance」

IUU(違法 Illegal・無報告 Unreported・無規制 Unregulated)漁業は、水産資源を枯渇へ追いやる主因の一つであり、正当な事業者を不当な競争に陥れる、水産業界にとって最大の脅威の一つです。

武器や麻薬、人身売買の温床にもなっており、人目に触れない遠洋と複雑で不透明な国際流通網に紛れて行われるため、対策には国際連携が不可欠です。そのため、IUU漁業の撲滅に向けた政府連携プラットフォームとして、2022年にイギリス、カナダ、アメリカ政府により設立されたのが、「IUUアクションアライアンス」(IUU Action Alliance:IUU-AA)です。

今回のOOCでは複数の政府が、IUU-AAへの参画を含むIUU漁業の廃絶へ向けたリーダーシップを国際社会にアピールし、大成功していました。一方で、そのスポットライトの影に姿を潜めた日本政府の姿が痛々しく、私にとっては大変残念な結果に終わりました。

IUU漁業廃絶に関するサイドイベント。招待されていたにも関わらず日本政府代表団は全員不参加。

なぜ「IUU Action Alliance」は日本政府の参画を歓迎したいのか

IUU-AAは、これまで同年末にIUU漁業由来の水産物が国内市場への流入を阻止することを目的とする法律の施行を開始した日本政府を、この分野におけるグローバル・リーダーの一員として認識してきました。さらに、欧・米・日による世界三大輸入水産物市場の連携を強化させるべく、設立当初から日本政府にラブコールを送り続けてきました。私も「IUU Forum Japan」のメンバーと共に、OOCに先駆けて複数回東京・霞ヶ関に足を運び、水産庁や外務省に対して、IUU-AAへの参画を求める要請や関連情報の共有を行ってきました。

プレナリー横のロビー。外交的な政府代表は積極的に顔を出し、そうでない政府代表は徹底的に避ける場所です。

なぜ「IUU Action Alliance」に日本政府はいま参画すべきなのか

IUU-AAは現在、IUU漁業を廃絶し、持続可能で公正な水産システムを再構築しようと、その国際的な枠組みをこれから具体的に作る段階にあります。IUU-AAにいま参画すれば、その国際枠組みのデザインプロセスに参加でき、ルールメーカーとして名を連らねることができます。逆にいま参画しなければ、国際社会に後ろ指を指されながら、できた枠組みにどう従うか、あるいは従わないかの後手の対応を取らされるポジションにまた立つことになります。日本の国益に大きな違いが出てくることは明白です。

会場中心にある"アゴラ"と名付けられたスペースでも未来志向で積極的なやり取りが。

なぜ「IUU Action Alliance」に日本政府は参画しないのか

岸田首相は、昨年の広島G7でIUU漁業廃絶のための国際協力の重要性を強調しました。それにも関わらず、日本政府は今回のOOCで「水産庁内におけるキャパシティ不足」を言い訳に、IUU-AA参画表明を見送り、国際社会を大きく落胆させました。私の隣にいた外国人の同志は、「日本のIUU対策やその姿勢って、2年前は国際社会で称賛されたのに、短期間でこんなにも錆びつくんだね……」と鋭い観察眼。

この先、国際社会からジャパン・バッシングがまた起きるならまだ救いがありますが、ジャパン・パッシング(日本抜き)で進んでいくことに、私はシーフードレガシー史上最大の危機感や焦燥感を募らせて、アテネを後にしました。

IUU漁業対策において、日本政府から”OUR” OCEANの精神を感じることはできませんでした。

道中:「未来を語る人」を読んで

アテネからバルセロナへの道中で「未来を語る人」(ジャレド・ダイアモンド他7名の世界的な学者たちによる著作)を読み、「GDPを指標として永遠の成長に依存する経済構造からのシフトが必要」「破綻させるのは成長の欠如ではなく過剰な借金」という文章に、IUU漁業の実態を重ねました。

シーフードレガシーのクレドの第一章には、「海は人類共有の財産であり、未来世代からの借物である」との記があります。水産資源を枯渇に追いやる現在の水産業は、短期成長のみに焦点を当て、未来世代からの”借金”を無計画・無責任に増やし続けている状態。未来世代は今よりもはるかに大量の食料が必要であるにも関わらず、私達の世代がIUU漁業をいつまでも野放しにし続けるのであれば、それが我々の終焉をもたらすものになりかねません。

それにしても、実際に経済破綻を経験したギリシャの旅で私がこの本を開いたことは、単なる偶然でしょうか……

示唆に富み学びが多かった「未来を語る人」

バルセロナ:Seafood Expo Global (SEG)

ASCのCEO Chris Ninnes氏

水産業は成長産業であり、環境持続性と社会的責任の追求が主流

バルセロナに到着し、世界最大の水産見本市「Seafood Global Expo」(SEG)に今年も参加しました。3日間の開催期間中に35,000人以上が集った過去最大規模の盛り上がりから伝わるのは、水産業が成長産業であり、環境持続性や社会的責任の追求がその背骨に通っているということ。水産業の衰退化が止まらない日本では味わえない雰囲気です。

責任市場とそのグローバル・サプライチェーンが、金融機関の後押しを受けながら急拡大している様に触れ、またそこに日本企業群がアンテナを張っていることを確認し、アテネでの傷心が少し癒されました。

WWFのブルーファイナンス・シニアディレクター Lucy Holmes氏

ポリシー・シフトとマーケット・トランスフォーメーションの二足歩行

政策面におけるリーダーシップの欠如やアンテナレベルの低下により、日本のポリシー・シフトは危機的状況にありますが、だからこそ、マーケット・トランスフォーメーションが一層その存在感を示すべき時。

シーフードレガシーを創立して以来、このムーブメントをポリシー・シフトとマーケット・トランスフォーメーションによる二足歩行として捉えてTheory of Change(変革理論)を描き進めてきたシーフードレガシーのメンバーは今回、SEGに集う世界各地でマーケット・トランスフォーメーションを牽引するリーダー達と交流し、その歩幅を国際規模で縮める構想を共有し、連携を深めてきました。

FishChoiceやOceanOutcomesの皆さんとディナーを共に

このマーケット・トランスフォーメーション構想の構築、国内のステークホルダーの皆様にこそ、ぜひご参加いただきたいと思っています。

10回目開催の節目である「東京サステナブル・シーフードサミット2024」(TSSS2024:10月8−10日に東京国際フォーラムで開催)で、皆様と共に2030年目標への道筋を描くことを、今から心待ちにしています!

Planet Trackerのオーシャンプログラム・ヘッド Francois Mosnier氏

バルセロナ訪問直前、SEG主催者が運営する水産業界におけるオンラインメディア「Seafood Source」が、私の考えや取り組みをフィーチャーしてくださりました。おかげで会場で多くの方々に賛同や応援のお声がけをいただきました。

GDSTのCEO Greg Brown氏

ジャパン・パビリオンで見た希望の光

今回も、ブース展示エリアに設けられたジャパン・パビリオンを訪れました。ボストンでおこなわれた「Seafood Expo North America」(SENA)での今年のジャパン・パビリオンは過去の記事で酷評してしまいましたが、今回はブース内の寿司カウンターから"Vegie Tuna"(原料:こんにゃく)の細巻きや”Namida-Roll”(ワサビの細巻き)を提供する演出が、未来像や多様性に関するメッセージに寿司発祥国だからこその説得力を持たせることができていて、印象的でした(ジャパン側にはその意図はなかったかもしれませんが、そう受け取った西洋の人は少なくないでしょう)。

また、ジャパン・パビリオンの中で最もサステナビリティをアピールしていたブースでは、シーフードレガシーの元スタッフが輝きを放っていました。日本から遠く離れた地での予期せぬ再会は驚きの喜びだったし、彼がいる会社が同パビリオン内で最もサステナビリティをアピールしていたことが、彼がいかにその会社で活躍しているかを表しているようで、嬉しかったです。

元シーフードレガシーで現株式会社ショクリューの若宮氏

(トップの写真:SFPのCEO Jim Cannon氏と、SeaBOSのマネージングディレクター Martin Exel氏)

今日も最後までお付き合いいただき、有難うございました。

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