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【講演後記】セオリー・オブ・チェンジ(変革理論)を再整理した『高知カツオ県民会議 シンポジウム』

みなさま、こんにちは。
シーフードレガシー代表取締役CEO 花岡和佳男です。


高知カツオ県民会議シンポジウムに参加しました

3月17日(日)に高知会館で開催された「令和5年度 高知カツオ県民会議 シンポジウム」にご招待いただきました。

第一部:基調講演

第一部の基調講演にてお話しする機会をいただき、「未来の世代へ美しい海を残す ~ サステナブル・シーフードの取り組み〜」 と題し、私がシーフードレガシーを創立した経緯や背景、今の事業や活動の概要、私達が描く理想社会やそこへの道筋、そしてサステナブル・シーフードに関する国際動向についてお話をしました。

基調講演をさせていただきました。

第二部:興味津々のパネルディスカッション!

第二部のパネルディスカッションでは、食品科学の専門家やカツオ料理の達人などの皆様による、江戸時代から続く土佐・高知のカツオ食文化について議論が行われました。

美味しいカツオの秘密や、美味しくないと言われるゲジガツオの正体などの議論に好奇心がくすぐられ、カツオの世界に一気に引き込まれました。登壇者の皆様の言葉の端々から、このコミュニティが本当にカツオを大切にされている思いが伝わってきました。

ゲジガツオ・パネルディスカッション、とても興味深かったです。

夜:懇親会で先輩方と活発な意見交換

夜の懇親会にもご招待いただき、高知カツオ県民会議のメンバーの皆様と交流。「土佐料理 司」高知本店にて、カツオのたたきをはじめとする美味しい土佐料理をいただき、意見交換に花が咲きました。

日本の水産業・地域社会・魚食文化の未来に影を刺す諸問題の解決に向け、高知で県魚カツオに焦点を当てて取り組んでいるように、各県でも象徴魚にフォーカスし、全国の取り組みをネットワーク化する構想、大賛成です!

高知県や地方から多くの皆様がお集まりになられました。

必要なのは水産システムそのものの更新

「花岡さんは『乱獲やIUU漁業、人権侵害のリスクを日本の水産市場から排除する』って言うけど、生産・流通される魚がその分減ってしまったら、生産者も流通企業も困るし、今の消費者にとってもマイナスになってしまうのでは?」という旨のご質問をいただき、ハッとしました。

私の主張は「乱獲やIUU漁業、人権侵害によるリスクを否応なく背負わされている現状が、生産者や流通企業や消費者にとってリスクでありマイナス」というものであり、その対策は「流通量を減らすのではなく、乱獲やIUU漁業、人権侵害に関与していないことが証明された『責任ある水産物』で需要を満たす」というものです。

上記の質問を機に活発なディスカッションができたので、ご質問いただいた方には大変感謝をしつつ、講演で真意を伝えきれなかったことに、自分を不甲斐なく思いました。

水産業による食料生産量の最大化→ネイチャーポジティブの実現

そもそも論ですが、自然資本に依存する水産業は、スカスカになってしまったその基礎の補強をこれ以上先延ばしにし続ければ、いよいよ産業として成りゆかなくなります。

シーフードレガシーは、あらゆる障害を取り除き、持続可能な方法で水産業の生産量を最大化すること、つまり水産業におけるネイチャーポジティブを実現することがが重要だと考えています。これにより、日本の水産業、地域社会、魚食文化を守り、豊かにするだけでなく、世界の飢餓や資源争奪にまみれた最悪の未来シナリオを回避できると考えています。

乱獲やIUU漁業、人権侵害といった諸問題は、地域、魚種、漁法、セクターなどによって分断されている旧型の水産システムを、現代に無理に適応し続けていることで生じる歪みだ、というのが自社のクレドの最初に「未来世代に対しての責任」を掲げる私たちの見方です。

未来社会に適した水産システムの更新は、これらの社会課題を解決し、水産業を持続的に成長産業化していくために、今求められています。

水産システムの更新を川上側から考える

水産サプライチェーンを上流からたどると、システム更新の主要な3つの項目が見えてきます。これらはすべて常識的なことですが重要です。

  • 自然資本の源である海洋やそこでの漁業に関する、リアルタイムで包括的なビッグデータを持つ。そのデータ管理・運用の原則を、日本・世界全体の、現世代・未来世代の公共利益の追求のために設定する。

  • 一部の事業者の短期的な事情を優先させることなく、そのデータと予防原則に基づいて、水産資源や漁業を管理する。

  • 適切な水産資源管理を行う事業者が、市場で正当な対価を受けるべく、流通管理体制を整備する。

いま国際機関や政府、自治体に求められている役割は、分断された旧型システム上での細かな調整よりも、生産現場だけでなく加工流通を含めた、水産業全体を包括したシステムへの更新を主導することにあると考えます。

水産システムの更新を川下側から考える

規制を無理やり事業者に押し付けるだけでは、たとえ海の自然環境は守れても、産業や地域社会を守ることが難しいというのが現状です。
私は、2018年に成立した70年ぶりとなる漁業法の大改正に、政府有識者会議の委員として関わりましたが、これにより更新された新たな規制が、2024年の今になってもまだ、生産現場への浸透に時間を要しています。物事は片輪ではなかなか動かないことを経験しました。

そこでシーフードレガシーがセオリー・オブ・チェンジ(変革理論)の中核に据えているのが「マーケット・トランスフォーメーション」、つまり川下側からマーケットパワーを使って水産システムを更新するアプローチです。

世界を見渡しても、水産資源や漁業管理が成功している国や地域は、必ずと言って良いほど「責任市場」がセットになっています。私たちは、この両方向からのアプローチを組み合わせたオーケストレーションを、活動の軸に置いています。

サステナブルシーフードを日本の水産流通の主流にする

日本は欧米に続き世界第3の輸入水産物市場であり、国産水産物の大部分を消費する市場でもあります。強大なマーケットパワーを持つ日本の川下側である水産加工流通企業群が、ESGを企業経営の中枢に据え、企業経営の一環として乱獲やIUU漁業、人権侵害などのリスクをサプライチェーン上から排除すること、つまりサステナブルシーフードを日本の水産流通の主流にすることが、このシステム更新の肝であり要です。

水産加工流通企業は、この流れを加速させる行動をとることで、経営のリスクヘッジだけでなく、以下のメリットを享受できるようになります。

  • 適切な管理に従う責任ある事業者を、不当で無責任な事業者から守れます。勝ち目のない価格競争から脱却し、原料の安定調達を実現できます。

  • いまTNFDなどにより水産業への関心が高まるESG投融資を、企業経営に呼び込むことが可能になります。

  • 経営方針への賛同者を増やし、業界全体の課題である後継者不足問題の解消の一手とすることができます。

シーフードレガシーがいま日本で取り組んでいるのは、これらのメリットの最大化です。逆の言い方をすると、もし企業がこの流れを遅らせる行動をとれば、これらのメリットは他社あるいは他国・地域の手に渡り、自らのリスクは積み上がるばかりと言えるでしょう。

designing seafood sustainability, together

先ほど「規制を無理やり事業者に押し付けるだけでは、産業や地域社会を守ることが難しい」と書きましたが、いま私たちが「マーケット・トランスフォーメーション」に関わる多くのステークホルダーの皆様と共に起こしているのは、その逆転現象です。

大手の小売企業や加工流通企業が声を合わせ、政府に対して、IUU漁業に関与する水産物の国内市場への流入を防止する規制の強化を、『東京サステナブルシーフード・サミット』(TSSS)などの公の場で呼びかけています。

もし「世界の飢餓と資源争奪にまみれた最悪の未来シナリオ」が実現してしまえば、日本の水産業、地域社会、魚食文化が更なる窮地に立たされるのは明白でしょう。そうなってしまう前に、水産システムを更新し、世界の水産業において日本がネイチャーポジティブの実現や食料安全保障の担保において、ルールメーカーやリーダーのポジションを確保することが、日本の水産業にとって唯一と言っていい根本的生存戦略ではないでしょうか。

「世界の大手水産企業100社のうち本社を構える企業が最多の国」
「かつて世界最大の水産大国だった経験」
「世界6位の大きさのEEZ」
「世界第三の水産物輸入市場」
「世界有数のサステナブル・シーフード成長市場」
「世界がレスペクトする魚食文化」

といった数々のアセットを持つ日本には、それを実現できるポテンシャルがあると、私たちは固く信じています。

最後に

今回の『高知カツオ県民会議シンポジウム』への参加や、メンバーの皆様との交流によって、私自身、多くの刺激や気づきをいただきました。貴重な機会をいただき、大変お世話になり、誠に有難うございました!

これからも国内外のたくさんのステークホルダーの皆様とお会いし、未来を共創していくことを楽しみにしています。

シーフードレガシーのビジョン
日本の水産業の持続的成長産業化を通じ、海に関わるすべての人が笑顔と活気に包まれ、未来に希望の明かりが灯る世界

シーフードレガシーのパーパス
海の自然・社会・経済の繋がりを象徴する水産物(シーフード)を、豊かな状態で未来世代に継ぐ(レガシー)

今回も最後までお付き合いくださり、有難うございました。


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