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救えなかったマフラーの香り #1

>> プロローグ


まだ寒さが残る初春

独立して念願であった自分の店を
開業して2年目

いつものように仕事を終えて
車で帰宅しようと
駐車場から出て裏道を走り始める

もう薄暗く日も落ちかけていた

その時

前を走っていた車の動きに違和感を感じた
ゆっくり徐行スピードに落として
辺りに目を凝らす

道の真ん中に白っぽいものがうごめいている
ビニール袋かと思って 通り過ぎようとしたとき

”茶虎の猫” だとわかった

ぶつからないように
避けるのが精いっぱいだった

4本の脚をばたつかせて
もがいている

裏通りをすぐ左に曲がり
大通りを左に回って
またもとの裏通りまで急いで戻る

猫の手前でハザードランプを点灯させ
車を停めた

戻ってきたのはわずか数分後だったのに
もう動いていなかった

とっさに首に巻いていたピンクのストールを外し
猫を包み上げて車に乗せる
一度自分の店舗へ戻り、空箱へ猫をおさめた


落ち着いて猫の様子を見られたところで
かかりつけの動物病院へ電話をするが
どうみても間に合わなかった

もう時刻は午後7時を過ぎていた
まだ外は肌寒い季節

わたしは自宅へその猫を連れて帰り
暖かい部屋で一晩を一緒に過ごした


***



暑い夏が過ぎ
過ごしやすい季節になった頃

「そんなことがあってね、今年のストールが欲しいのよ」

友人とショッピングモールへ買い物に来ていた
二人でこれから寒くなる季節に向けて
お気に入りのストールを探すことにした

「やっぱりちょっと高いけど カシミアのストールは一つ欲しいよね」

素敵なうす紫色のカシミアストールに一目惚れした
ピンクやうす紫色のような女性らしいカラーがわたしは好きだった

でも もしまた猫を見つけてしまったら
二万円以上もするストールで猫を包むことができるだろうか

「わたしやっぱりこっちにする」

肌触りはカシミアに比べて少し落ちるけれども
どんな服装にでも合うだろう
四千円の薄いグレーのストールを買うことに決めた

「今度はちゃんと救ってあげたいから」

友人も一緒に四千円のストールを買ってくれた


このグレーのストールで
あなたとわたしは ”捻じれる” ことになる

たび重なる偶然は
本当にあるんだよと教えてくれた

それが運命的な出会いだって
あなたは言うけれど

救うことができない運命なんて

うれしくも何もなかった

それならば
偶然の出会いには
憎しみさえ感じてしまうの


  プロローグ 【終】


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