忘れられた打ち上げ花火:第4話
高校生になって
初めて自分で選んだ浴衣は
あざやかな黄緑と黄色が美しい生地に
赤いトンボが描かれていた
いつか
紺地の浴衣が似合う
素敵な大人の女性になりたいと
夢見てたことを
思い出す
***
<< レディーボーデンのチョコアイス、売ってなかったのよ
紺地に彩どり美しい朝顔が咲く浴衣に
えんじ色の帯を合わせ
可愛らしく文庫結び(リボン結び)にした後ろ姿は
まるで高校生の時に戻ったようで
気分は最高潮
>> レディーボーデンのチョコが売ってないなんて、どこに住んでるのw
わたしに合わせて
あなたも紺地の甚平を着てくれたよう
黒、白、赤のトンボが描かれている
ふたり並んで何枚も写真を撮った
完成したプライベートビーチで
打ち上げ花火を見ながら
レディーボーデンを食べながら
一緒に過ごそう
そんな約束をした
別に現実のわたしが
デートに誘われたわけじゃないのに
どんな服を着て行こうか
何を持っていこうかと
この日までずっとそわそわして落ち着かなかった
オンラインゲームのキャラクターは
キャラメイク時にある程度
イメージした年齢の設定ができる
たいてい女性アバターの場合
10代~20代の見た目を基準とするものが多い
歴代のRPGゲームのヒロインたちも
設定が13歳なんて作品もあり
実は圧倒的に若い
若くて美しい仮の ”わたし” が
仮の ”あなた” のために
めいいっぱいオシャレをして
あなたの隣にしゃがみ込み
火をつけたばかりの線香花火を片手に
じっとりと火を見つめている
<< レディーボーデンってムースみたいなのね、すごく美味しい
あなたがおススメするチョコレート味は
スーパーやコンビニを3件回っても
見つけ出すことはできなかった
代わりに別の味を買ってみたら
これがとてつもなく美味しくて
気に入ってしまったの
>> 何の味食べてるの?
<< 当ててみる?
>> なにそれw
線香花火が最後落ちてしまって
なんとなく哀しげな ”わたし” に
今度は手持ち花火を持たせて火をつけた
あなたも同じように手持ち花火を持って
打ち上げ花火が上がり続ける薄暗い砂浜を
延々と駆け回る
>> うーん、バニラ? 抹茶? あー、ストロベリーだ
<< 全然違う
わたしはアイスの中で
この味が一番好き
もしかしてチョコ好きなあなたは
食べたことのない味なのかもしれない
<< もしこの同じ味のアイスが好きな男性がいるなら、わたしその人とは結婚できるわね
>> ホント?! 何味だろう
一生懸命考えてくれるあなたは
なんてかわいいのだろう
この時はまだ知ろうとも思わなかった現実
まさかRPGゲームの「勇者」と同じ
あなたが十代の若者だったなんて
もし、先に知っていたならば
”こんな遊び方” をあなたとしようとは
けして思わなかったのに
アイスを食べ終わると
水着に着替えて夜の湖でふたり泳ぎ出す
泳ぎに疲れたらトロピカルジュース飲んで
大きなリゾートベッドに寝転がって
現実ではあなたの好きな音楽を一緒に流しながら
花火が上がり続ける明けない夜を
何時間と楽しんだ
***
なんて残酷な
ロールプレイングゲームかしら
こんなことって
現実にある?
もうとっくの昔に
忘れてしまって良かったはずの想いを
引っ張り出されて
何年ぶりに湧き上がる淡い苦みを
味わされる
想いは仮想世界だけに
とどめておいて
一緒に遊んでくれたあなたに
素直に感謝をしたいと
打ち上げ花火を見上げながら願った
そう
今わたしが纏っている浴衣は
「白地」だ
>>> 第1話はこちらから
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