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殺さなければ生きていけない

「今日からセールなんですよ! 今日から!」

店頭に置かれすぎて日焼けした冬用コートを売ろうとする爺さん

「いや、間に合ってるんで……」

瞬間、捕食者と獲物に分かれたかのような感覚がなんとも

「本当に安いんだよ! 若い人にも良く似合うよ!」

向こうも仕事なのはわかるけどさ


でも 自分の足でこの通りを歩いて

シャッターが目立つこの商店街を抜けた頃には

大型ショッピングセンターの灯りがどこかに見えた気がして


そうか

そうだったな  ここでは


殺さなければ生きていけない




自分はそんなこと一切やってないと胸を張れるだろうか

ここで立ち止まらない人間こそ疑わしく見えるけど


全てはまるで椅子が足りない椅子取りゲーム

金 夢 友情 愛情

そのどれもが有限であって

自分らしく幸せに生きるために他の誰かを弾き出す


負けた人間がどこへ消えたか知ってるか

旗を掲げて笑う勝者を素直に称賛する気にはなれない

それより彼の足もとの無数の屍

もう何も語らないその沈黙の叫びが焼き付いて離れない



でも 自分はそんなこと全然やってないと胸を張れるだろうか

ここで立ち止まらない人間こそ疑わしく見えるけど


だとしても 戦わなければもう二度と心から笑えなくなるかも

あの娘との約束も果たせなくなるかも


だったら、仕方ないよね


殺さなければ生きていけない




ふわりふわりと香ばしい匂いが

思わずよだれが出てくる

食卓に並ぶ牛の焼死体を

皆で笑いながら喰らう 乱痴気騒ぎか


苦痛を感じるのはヒトだけじゃないってもう証明済みだけど


死者はいつも沈黙させられている

生者は官軍でいつも正義面している


これに限った話じゃない


そろそろ、どうでもよくなってきたよね

それなら自分だけでも幸福感を得たい


どうせ


殺さなければ生きてはいけない




だったら生きてる意味なんてないな

こんな所で真面目にやっても仕方がないな

本当は誰も傷つけたくなかったのに


馬鹿じゃねーの、と狭い部屋に閉じこもり

薄暗い夕暮れに光るコンピューターの画面の先の

平面的な無限の空間の中にすら

残酷な神の原理の支配を見る


どこへ行っても

どこへも行かなくても

結局のところ同じこと

同じものがつきまとう


代理戦争は終わらない

欠乏からは逃れられない

持たざる者は愛されない

座して死を待つならば失いながら老いていくだけ

誰だって嫉妬と無力感の海を漂うのは嫌だろう


殺すか 殺されるか

どうして こうなってしまったんだろう


原始時代からの不変の掟

仮装した野蛮さ

生者が連ねる永劫の罪



殺さなければ生きていけない




// テーマに関連があってスキが多かった → 駅のホームの黄色い線の内側で踏みとどまる


頂いたサポートは無駄遣いします。 修学旅行先で買って、以後ほこりをかぶっている木刀くらいのものに使いたい。でもその木刀を3年くらい経ってから夜の公園で素振りしてみたい。そしたらまた詩が生まれそうだ。 ツイッター → https://twitter.com/sdw_konoha