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Vol.60 映画「ぼくのお日さま」の話を、もう少し(※ネタバレ含む)

気づけば5回も劇場鑑賞した、映画「ぼくのお日さま」。
前回(Vol.59)に引き続き今回も感想(という名の駄話)を少々。

※「ぼくのお日さま」の、ざっとしたあらすじは…
時は2000年(注1)、場所は北海道の「三ツ風町」(注2)。
吃音(注3)のために、しゃべる事に難がある少年 多田拓也は、アイスホッケーの練習の為に訪れたスケートリンクで、フィギュアスケートを滑る少女 三上さくらの姿に目を奪われる。
後日、ホッケー靴のままフィギュアスケートの真似を始めた彼に、フィギュアスケートのコーチ、荒川が声を掛ける…
…というものです。

※下記は約1分の予告編です。

この映画、予告編等々では「ちいさな恋の物語」というフレーズが使われてますし、「物語の転がり」が前述の通り「タクヤ少年がフィギュアスケートを滑る少女 三上さくらの姿に目を奪われる」という所なので、一見すると「タクヤがさくらに恋をした話」に見えますが、それは違う様に私は思ってまして…。
タクヤは、 ” 付き合い程度の熱量 ” で地元のスポーツ少年団に参加して、初雪が降れば初雪に目を奪われ、冬になれば春の訪れを待ちわびるような「ここではないどこか」に気が向いているような、小学6年生の少年です。
そんな少年が「目を奪われた衝動」というものは、恋ではなく「 ” 美 ” と ” 表現の歓び ” 」の様に見えるのです。
それに、だいたい「子どもの心の機微」というのは「大人の ” 感情のジャンル分け ” 」では推し量れない、独特の豊かさがある様に思います。
(強いて言えば、そういった「目を奪われた衝動」を、本人が大人になってから後追い的に『初恋』にジャンル分けすることはあると思いますが。)

そんなタクヤの「うっとりとした眼差し」と「自分なりにマネしようとする行動」を見たコーチの荒川は、興味を抱いて ” お古のスケート靴 ” をタクヤに貸して指導をし始めるのですが、それによって「荒川のスケートに対する情熱」が再燃した様にも見えて、少なくとも荒川にとっての「お日さま」はタクヤなのだと感じます。
(そんな一方、荒川の同性パートナーである五十嵐が、悲しそうに荒川の ” 輝かしい選手時代の写真 ” を見る場面も印象的。「もっと大きな世界に羽ばたくべき人を自分が閉じ込めているのではないか?」という、五十嵐の葛藤が伺えます。)

そして、タクヤが眼差しを向けていた相手、さくらは{設定(注4)では東京から2か月前に引っ越してきたばかりの中学生で}コーチの荒川に ” 恋心にも似た憧れ ” を抱いていますが、「荒川が自分には見せない笑顔を見せる、タクヤに対するレッスン」の光景に心を乱され、更には荒川から「タクヤとアイスダンスのペアを組む事」を提案されて戸惑いますが、いつしかタクヤとのアイスダンスの練習にもやりがいを見出します。

しかし、最終的には「彼女の ” 淡い片思い ” の終焉」と、それから派生する「八つ当たり的な行動」が『美しい関係性』を崩壊させてしまう訳で、一部の観客が この行動に対して抱いてしまう拒否反応も、むべなるかな…と思う一方、「今まで経験した事のない ” 心の痛み ” 」を想像するに、その「誤った ” 八つ当たり的な行動 ” 」すら、どこか愛おしく見えるのは私のひいき目でしょうか?
(なにが言いたいのかと言いますと、「失恋」と「初恋の失恋」は ” 事前の経験値の有無 ” を考えると意味合いが違うのではないか?…という事です。
ついでに言えば、その後 映し出されるさくらのスケーティングが、今までの「純粋無垢な ” 美 ” 」ではなく、「傷つき、人を傷つけた事で彩りを増した ” 美 ” 」の様に見える辺り、まさに「 ” 映画という形態 ” が成せるマジック」。)

そしてラストの「タクヤとさくらの再会」。
これも観る人によっては「投げっぱなし」に見えるエンディングですが、(少なくとも劇中の描写では)ここが「タクヤが初めて自分から人に話しかける場面」であり、その直後に流れる、ハンバート ハンバートの楽曲「ぼくのお日さま」(注5)の歌詞と併せて、ささやかなタクヤの成長がとても心地よく感じたのでした。

なんとも、とりとめのない感想もどきの駄話になりましたが、今週の締めの吃音短歌(注6)を…

「はい」「いいえ」 その一言すら 出し惜しみ 首振り強いる 気分屋の口

※本当に、口がロックされた様になって「はい」も「いいえ」も言えなくなる瞬間があるのです。

【注釈】

注1)時は2000年

映画パンフレットの46Pに記載の「(インタビューの形になっている)荒川の基本設定」における『1969年2月27日生まれの31才です。』という記述による。

注2)北海道の「三ツ風町」

架空の町。
タクヤの家とスケートリンクはこの町にあって、荒川とさくらは隣町の(これまた架空の)二坂市に在住。(←映画パンフレットの48Pより)

注3)吃音(きつおん)

かつては「吃り(どもり)」とも呼ばれた発話障害の一種。症状としては連発、伸発、難発があり、日本国内では人口の1%程度が吃音とのこと。

注4)東京から2か月前に引っ越してきたばかりの中学生

映画パンフレットの45Pに記載の「(インタビューの形になっている)さくらの基本設定」の記述による。

注5)ハンバート ハンバートの楽曲「ぼくのお日さま」

男女デュオのハンバート ハンバートが、2014年にリリースしたアルバム『ぼくはむかしみじめだった』に収録されている楽曲。
なお『奥山大史監督が「雪が降りはじめてから雪がとけるまでの少年の成長を描きたい」と構想を練っていた時にこの曲を耳にした』とのこと。

※下記は、楽曲「ぼくのお日さま」音声動画(約4分間)です。


注6)吃音短歌

筆者のハンディキャップでもある、吃音(きつおん)を題材にして詠んだ短歌。
この中では『「吃音」「どもり」の単語は使用しない』という自分ルールを適用中。

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