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スクリプトリウムvol.3|くるはらきみ|心地よく秘密めいた庭

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Text|高柳カヨ子

 修道院と植物の関係は深い。
 修道院自体が庭から始まったと言われるほど、植物とは切っても切れない関係が存在する。そこは祈りの場であると同時に、自給自足のための食料を生産する菜園や薬品を製造する薬草園でもあったのだ。修道士は優秀な庭師でもあり、注意深く植物の声を聞きながら脈々とその知識を伝えてきた。
 そしてその修道院の庭には薬草やハーブだけでなく、美しい花々も見事に咲き揃っていたことだろう。

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 緑多き長野の地で創作を続けるくるはらきみの作品には、彼女の庭を彩る植物たちが実に活き活きと描かれている。
 長く厳しい長野の冬が終わり、暖かい日差しをその体いっぱいに浴びて春の訪れを喜ぶその植物たちの様子は、くるはらがその絵描きの目で見たそのままの風景なのだ。

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 賑やかな春の庭には、個性的な花たちが集う。
 花の特徴を的確にとらえるだけでなく、その性格までも幾分ユーモラスに描くその手法は、単なる擬人化とは一線を画す。実際の植物をつぶさに観察しているからこそ可能な、精確無比な描写と豊かな想像力の賜物だ。

庭の草花_額

 華麗なジャーマンアイリスが実は倒れやすいため添え木で支えられていたり、病害虫に弱い赤薔薇がベッドに臥せっていたりと、植物の性質や手入れについてまで含めて描かれたその世界は、決して幻想的な空想の出来事ではない。くるはらが描く植物たちは、あくまでも子供達が生きる我々の現実世界と地続きなのだ。

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 甘酸っぱいジャムやパイでお馴染みのルバーブが、こんなにお洒落な格好の植物だったなんて!
 英国ではルバーブは市場に春の訪れを告げる作物であるという。普段市場では赤い茎の部分しか見ることのないルバーブも、実は個性的で美しい花を咲かせる春の使者であったのだ。

ミス ルバーブ_額

 そしてまたルバーブは薬用植物としての歴史も長い。澄ました顔をしてティーカップに砂糖を入れる彼女(砂糖もルバーブ料理には欠かせないアイテムである)もこころなしか得意げだ。

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 有能な庭師である修道士を思わせるくるはらきみの筆を通じて、スクリプトリウムの扉の外に息づく心地よく秘密めいた庭を覗いてみよう。
 鮮やかに描かれた花々とくっきりと鮮明な緑が印象的な作品の中で、お洒落でおしゃべりな植物たちがあなたを待っている。

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くるはらきみ | 画家・人形作家 →HP
2002年ギャラリーノンク・プラッツで初個展「Moon Face」その後、ビリケンギャラリー、桐生とおりゃんせなどで個展をしたりグループ展に参加をしています。目にする景色や植物や部屋の壁などをモチーフに、心に浮かんだり沈殿したりしている物語を吹き込んで作品として表そうと試みています。

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高柳カヨ子 | 精神科医・元法医学教室助手・少女批評家 →note
東京上野で生まれ育ち、東京理科大学理工学部応用生物科学科・信州大学医学部医学科卒業。法医学教室でDNA鑑定を専門とした後、精神科の臨床に進む。Bunkamuraギャラリー「新世紀少女宣言」キュレーション/『夜想ーゴス特集』インタビュー/『夜想ー少女特集』評論/『S-Fマガジンー伊藤計劃特集』アーバンギャルド論/パラボリカ・ビス「アーバンギャルド10周年記念展」キュレーション/gallery hydrangea 「『少女観音』〜12人のアーティストが描く篠たまきの幽玄世界」キュレーション。
あらゆる時代と時間を超えた少女たちに捧げる少女論「少女主義宣言」をnoteにて連載中。霧とリボン運営の会員制社交クラブ《菫色連盟》にてトークサロン「少女の聖域」を主宰、「少女性」をテーマにした展覧会《少女の聖域》を定期開催している。



00_通販対象作品

作家名|くるはらきみ
作品名|庭の草花

油彩・キャンバス
作品サイズ|27.3cm×22cm
額込みサイズ|36cm×31cm

制作年|2021年(新作)

庭の草花

庭の草花_額

00_通販対象作品

作家名|くるはらきみ
作品名
ミス ルバーブ
油彩・キャンバス
作品サイズ|17.5cm×15cm

額込みサイズ|29cm×27cm

制作年|2021年(新作)


ミス ルバーブ

ミス ルバーブ_額

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